第二十一話 肉まん



「お兄ちゃん、今日はいっぱい狩れるといいね!」



 人生の冒険者ギルドと職業斡旋ギルドから帰ったら、エリナがすでに準備を終えていたのでそのまま狩りに来ていた。

 いつも通り、落とし穴を掘った上に筵を被せて、その上に野菜くずを乗せてエリナとダッシュエミューを待つ。



「個人の貯金は地竜二匹狩った分がほとんどだからな。それも色々使っちゃって残高を見るのが怖い」


「お兄ちゃんは領主さまとしてのお給料は貰ってないの?」


「……貰ってないな、領主家の資産としては増えてるはずなんだけどな。公共事業とかで使うためにクリスとアイリーンの管理下なのは良いんだが、俺の懐に銅貨一枚も入ってないわ。まあクリスとアイリーンが実質領主みたいなもんだし、別に良いか」


「お兄ちゃんはあまりお城に行ってないしね」


「そういや王国宰相の給料もゼロだったわ。仕事どころか王都に顔すら出してないから請求する気も無いけどな」


「じゃあいっぱい稼がないと!」


「だな」



 晩飯の食材分だけは俺とエリナの持ち出しだからな。

 学校が始まったら寮生には悪いけど、旧孤児院と託児所メンバーにはこのまま俺の好き勝手に食べさせてやりたい。



「そういえば今朝アランがお兄ちゃんに見せてた道具ってなんだったの?」


「蒸籠だな」


「せいろ?」


「食べ物を蒸して調理する道具だよ、なんでも肉まんが食べたいんだと」


「にくまん! 聞いただけでおいしそう!」


「米が流通してないせいか、中華料理が極端に出回ってないんだよな。あまり美味くないラーメンくらいか出回ってるのは。餃子や小籠包とかも無いし」


「ぎょーざ? しょーろんぽー?」


「肉まんが美味く出来たら作ってやる。完全にレシピを知ってるわけじゃないけど、クレアに相談しながらなら作れるだろ多分」


「楽しみ!」


「でもなー、主食がパンなんだよなー」


「あ、お兄ちゃん! ダッシュエミューだよ!」


「餃子をおかずにしてパンを食うってちょっとな。あ、でも中華風蒸しパンなら合うのか。日本にも餃子パンってあったような気がするし」


「お兄ちゃん! 今は晩ごはんのメニュー考えないで! ダッシュエミューだってば!」


「え、マジで? あ、マジだ。行くぞエリナ」


「うん!」





「今日はこれで帰るか!」


「そうだね!」



 その後は昼食をはさんで、合計でダッシュエミューを二匹狩ることが出来た。

 エリナと腕を組みながらてくてくと西門へと向かう。もちろん一本の長いマフラーをエリナと巻きながら。



「やあエリナちゃん、旦那のヘタレの方はどうだい? 治ってきたかい?」


「頑張ってるみたいですけどね! なかなか難しいです!」



 登録証を見せて形式的なやり取りが終わった後のトークタイムだ。

 完全に俺を弄る時間になっている。



「赤ちゃんが出来てもヘタレのままじゃエリナちゃんが困っちゃうな」


「私は今のままのお兄ちゃんが大好きなので、ヘタレでも大丈夫です! お兄ちゃんは昨晩も頑張ってくれたんですけど、早く赤ちゃんが欲しいです! 」



 割とセクハラな質問をするおっさんもいきなり昨晩の夫婦生活をエリナから告白されてドン引きだ。

 俺もドン引きだよ。



「あのさエリナ、夫婦のことは内緒にしようよ。特に夜のことに関しては」


「うん! わかった!」


「じゃあおっさん、俺たち帰るから……」


「ああ、お疲れさん領主さま。頑張ってな……」


「ああ、ありがとな」



 てくてくと肉まんと晩飯の買い物に向かう。「えへへ! 今日は門番のおじさんと喧嘩しなかったね!」とアホ嫁がご機嫌だ。



「エリナのお陰だよ」


「わーい!」


「褒めてないんだけどな」



 さあ、さっさと買い物に行くか。

 肉まんの材料は大体わかってるけど作るのは初めてだからな。

 クレアと相談しながら作るから早めに準備しないと。

 特に強力粉と薄力粉の割合だな。





 というわけでクレアと相談しながら、強力粉三割、薄力粉七割で生地を作る。

 塩と砂糖を少々にふくらし粉、そしてごま油を混ぜ、て少しずつお湯を加えてこねる。

 三十分くらい寝かせている間に、餡づくりだ。


 親父の店で買った豚ミンチに長ネギ、生姜を刻んで入れて、醤油、酒、ごま油などを混ぜて餡は完成だ。


 寝かせた生地から適当な量をちぎって丸めて伸ばす。

 伸ばした皮で餡を包んで頂点を絞って一号たちの作った蒸籠に入れて蒸したら完成だ。

 またグラタン皿の時と同じように大量に作りやがったからな……。

 一人一個以上の蒸籠が厨房の棚に並べられている。

 蒸し系の料理のレパートリーも増やしていかないと。


 他のメニューも並行して作りながらどんどん肉まんを量産していく。

 今回はお試しということで一人二個だが、好評ならもっと作っても良いかもな。エリナやクレアが更に完成度を上げてくれるだろうし、ピザまんやあんまんを作っても良いかもしれない。

 

 エリナに内緒でメロンパンのレシピを探しているんだが、これが見つからないんだよな。クリームパンは作れるけど、出来ればエリナにメロンパンと一緒に食わせてやりたい。いつか作ってやると言ったままだからな。

 クレアに相談してみるか。


 料理も完成し、早速リビングに持っていく。

 一人ずつ目の前に蒸籠が蓋をした状態で置かれ、ガキんちょどものテンションも高い。

 こいつらの食欲って底なしなのかな?



「ではいただきます!」


「「「いただきまーす!」」」



 エリナの挨拶で食事が始まると、ガキんちょどもは一斉に蒸籠の蓋を開けて、歓声を上げる。



「肉まんの具は熱いからな! 肉汁に気をつけて食えよ! これで火傷する奴が多かったら小籠包なんかレベル高すぎてお前ら食べられないからな!」


「「「はーい!」」」


「おひーひゃんおいふぃー! ふぃくふぁんおいふぃー!」


「エリナは口に物を入れたまま喋る癖を直せよ……」


「兄さま、これすごく美味しいですけれど、お弁当には向かなそうですね」


「冷めたら美味しくないからなー」


「兄ちゃん! やっぱり保温機能付き弁当箱を作ろうぜ!」


「一号が張り切ってるのは良いことだけど動機がな。とはいえ、試作はしておくべきか。ちょっと簡単な設計をクリスと考えておくわ」


「頼むぜ兄ちゃん!」



 保温機能か、蒸籠……餃子、小籠包、焼売、シュウマイ……シウマイ……待てよ……?

 そうか、食べる前に加熱すれば魔力消費が少なくて済むな。

 断熱密閉容器とかなら保温機能の方が良いのかもしれないけど、食べる直前に加熱するシウマイ弁当スタイルなら、加熱して良い匂いをまき散らす以外には問題無いはず。むしろ匂いが宣伝になる。

 魔石の質が低いと魔力再充填をすると壊れると聞くし、だったら価格次第でクズ魔石を安く買って使い捨てる選択肢もあるんじゃないか?


 普通の家畜でも空気中に漂う魔力の影響を受けて稀にすごく小さい魔石が生成されるって聞いたことがある。

 貯えこんでる魔力が少なすぎ、魔力充填がほぼ出来ないせいで、ほとんど有効活用できないって話だし、うまく使えないかな?


 ちょっと色々考えてみるか。



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