第三十二話 男女
「「「おかえりなさーい!」」」
買い物を終え、ジークとちわっこを引き連れて帰宅すると、エリナとクレア、ミコトとエマが出迎えてくれた。
「エリナ義姉上! クレア! 覚えておられますか? ジークフリートです!」
「え? ジーク? すごく綺麗になってない?」
「綺麗……ですか?」
「姉さま姉さま、そこは格好良くなったですよ」
エリナの素直な感想にクレアが突っ込みを入れる。
そこはもっと言い方があるだろうというクレアの的確なツッコミなのだが、多分エリナはわかってないだろうな。
「クレアは背が伸びたね。三年ぶりかな?」
「そうですねジーク。ジークも立派になりましたね。貫禄が出てますよ」
「ありがとうクレア」
ジークとクレアは同い年のために、お互いに呼び捨てで呼ぼうとジークに懇願されているのだが、やはり王族相手にタメ口はまだ気が引けるのか、クレアは少しだけ言葉を選ぶようなそぶりを見せながらの会話だ。
「パパ、このひとだれ?」
「おねーさん? おにーさん?」
人見知りをしないミコトとエマが頭にヤマトとムサシを乗せたままジークに近寄ると、不思議そうにジークの顔を見ながら俺に質問をする。
あとエマがとても不敬なことを言っているのが気になる。
「ジークフリート、ジークだよお嬢ちゃんたち。あと僕はお兄さんだからね」
「すまんなジーク。ミコト、エマ、自己紹介をしなさい」
「はい! ミコトです! ごさいです! あたまのうえにのってるのはヤマトです!」
「ピッピ!」
「えまです! さんさいです! こっちはむさしってなまえなんだよ!」
「ピピッ!」
俺に自己紹介を促されたミコトとエマは、それぞれ頭の上の生物の紹介もする。
「あれ……? 義兄上、この小鳥はフェニックスですか? いやでもまさか……」
「フェニックスらしいぞ」
「実在したんですね……。義兄上はフェニックスに語りかけられましたか?」
フェニックスは、集団のリーダーに対してのみ人間の言葉で語りかける性質があり、大昔はフェニックスから指導者として認められるということは大変な名誉だったらしい。
実際は、一番餌をくれそうな人間に対して、その人間の深層心理を読み取って単に読み上げるだけということなのだろうが、過去には『英雄』『知恵者』など、市民登録証の職業欄あたりに表示されそうな単語を、意味もわからずに言っているだけだというのが爺さんの説なのだが……。
「ピーピー! ヘタレ!」
「ピピピッ! チーオム!」
「義兄上凄いです! 二つ名が二個も!」
「いやいやジーク、こいつら俺の悪口を言ってるだけだぞ」
フェニックスが呼ぶ単語がマシなうちは権威付けとしてもてはやされたが、その内『腹黒』『嘘つき』などと呼ばれるような指導者によって、人間の住む集落から追い出されてしまったという過去を持つのだ。
自業自得だな。
「いやでも義兄上、フェニックスから認められたということですから、それだけでも凄いことなんですよ! 過去の文献でもですね……」
ジークは興奮しながら、いかにフェニックスに認められることが凄いのかを、過去の文献を挙げながら説明をする。
やっぱり伝説のフェニックスから認められるというのは王族にとってかなりの栄誉みたいに語り継がれてたのかね?
止まらないジークの話を、早く終わらないかなーと大人しく聞いているフリをしていると、ミコトとエマの頭の上からヤマトとムサシが俺の頭の上に飛び移ってくる。
そしてジークに向かって――
「「オトコオンナ!」」
と非情な一言を放つ。
言われたジークは固まってしまっていた。
あれだけ憧れていたフェニックスからの呼びかけがまさかこんな言葉だとは思わなかったのだろう。
そら昔のフェニックスが人間の住むテリトリーから追い出されるのに十分な理由だわ。
ってーか深層意識というよりもコンプレックスをほじくり返してるだけじゃねーのかこの駄鳥は。
「……良かったなジーク。指導者の器だと認められたぞ」
「……」
「「おにーさんじゃないの?」」
そして固まったままのジークにミコトとエマが追撃をする。
不敬すぎてヤバい。
「兄さま……」
この中で、唯一これはまずいのでは? と判断したクレアがこっそり俺に話しかけてくる。
エリナとちわっこは、すでにふたりできゃっきゃと話し込んでいて、ジークの現状に気づいていない。相変わらず空気が読めないなこいつら。
「大丈夫だろ。多分」
「ミコトちゃんエマちゃん! 僕はお兄さんだよ!」
硬直していたジークが、ガバっとミコトとエマの目の前にかがむ。
もはやそのまま土下座して『お兄さんと呼んでください』と懇願しそうな勢いだ。
「わかった! ジークにーってよんでいい?」
「うん! もちろん!」
「じーくにー!」
「そうだよ! ジークにーだよミコトちゃん! エマちゃん!」
「ほっ……」
クレアが安堵のため息をつく。
でもあの駄鳥の方の問題はまだ片付いていないんだが。
「そうだミコトちゃんエマちゃん。王都で作られたものだけどお菓子があるんだ。食べるかい?」
「「うん!」」
「じゃあお兄さんがごちそうするよ。お兄さんが!」
「「わーい!」」
お兄さんをやたらアピールしまくるジークがとても悲しい。
「さっさと家の中に入るか。クレア、お茶とお茶請けを頼むな」
「はい兄さま」
「じゃあジーク、リビングに案内するから入ってくれ」
「ありがとうございます義兄上。お邪魔いたしますね」
「ジークにーこっちだよ!」
「おかしたのしみ!」
ジークがミコトとエマに引っ張られて家の中に通される。
ジークとちわっこの相手をエリナに任せてクレアと晩飯を作ろうと思ってたけど……この状況だとまずいよな?
ヤマトとムサシは鳥カゴに入れて厨房まで連行してジークから離せば大丈夫か?
「「ピッピ! ヘタレ!」」
「うるせー駄鳥!」
俺の頭の上でつんつん人の頭皮つつきながら挑発してくる駄鳥にツッコミを入れ、まだ玄関前できゃっきゃと話し込んでいたエリナとちわっこを家の中に入るように言いつける。
とりあえず頭の上にいるヤマトとムサシはさっさと鳥カゴの中に入れて軟禁しようと決めたのだった。
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