第三十一話 ファルケンブルクの人々


「うわ、凄い活気ですね義兄上!」


「相変わらずファルケンブルクの市場は盛況だよねー」


「晩飯の買い物客が多い時間帯だしな」



 市場に到着すると、その人出にジークが驚きの声を上げる。

 王都も最初に行った時よりはかなり活気が出てきてはいるが、ファルケンブルクのこの活気にはまだ及ばない。

 公共事業などによって所得が向上したり減税やクーポン券配布などの消費喚起の政策をしてるのも一因だろうが、なにより亜人国家連合やエルフ王国の交易品加えて、王都や周辺の諸侯領の品も数多く並んでいるのが大きいと思う。

 街道整備や宿場町などの設置によって輸送効率が上がった結果、ファルケンブルクに集まる亜人国家連合やエルフ王国の交易品を求めて周辺諸侯領との交易量が増えたのだ。



「義兄上、見たことも無いものがたくさん並んでいます!」


「ああ、この辺りはエルフ王国の出店が多い区域だからな。食料品だけじゃなく民芸品、衣料、楽器なんかが多いかな」


「エルフ王国と友好関係を築いているとは聞いてましたがここまでとは……」


「エルフの連中は基本的に働かないからな、店を出させるのに苦労したんだぞ」


「ジーク! お兄さんの家にはマリアお姉さんとエカテリーナお姉さんっていうエルフ族がふたりも住んでいるんだよ!」


「ええっ! 少し前まではエルフの実在を疑う研究者さえいたんですよ! 義兄上はそんなエルフの方と一緒に暮らしているんですか?」


「あいつらは百年単位で引きこもってたから、タイミングが合わないと遭遇する機会すら無かっただろうしなあ」


「そうなんですか……エルフのイメージが随分と変わりそうです」


「しかも基本的にあいつら商売しててもめんどくさがって塩対応だからな。マリアとかエカテリーナは商売人気質だからコミュニケーション能力が高いけど。ってそうか、今日のメニューはエルフ王国の食材を使った料理にするか」


「エルフ王国の料理ですか! 楽しみです!」


「私はエルフ族が出しているお店で何度か食べたことあるけど凄く美味しかったよジーク!」


「じゃあ食材を買っていくか」





「……本当に塩対応でしたね義兄上」


「言ったろ? 飲食店なんかは給仕したりする必要上、割とマシなエルフが働いてるが個人店なんかは基本的に会話すらないぞ」


「何を質問しても答えてくれませんでしたしね」


「俺はあれくらいの方が買い物が早く済んで良いと思うけどな」


「あの態度でもお客さんが結構いましたね」


「ファルケンブルクの商店はサービス精神旺盛な上に過剰なほどコミュニケーションを取ってくるからな。ヘタレ弄りやクズ弄りもされるけど。領民にとってはああいう店員の態度も新鮮に映ってるのかもな」



 ジークとちわっこに両手を奪われたまま、残りの食材を求めて市場を歩いていく。

 買ったものは全てマジックボックスに仕舞うので、手荷物が無いのだ。


 もう突っ込むのもめんどくさいのでそのまま好きなようにさせている。



「あらお兄さん。また新しい子を連れて来ちゃって! エリナちゃんたちも大変だねえ」



 いつもの野菜売りのおばちゃんの店に到着すると、いきなりジークについて突っ込まれる。



「おばちゃんおばちゃん、こいつは男だぞ」


「そうなのかい? シャルちゃんは久々だねえ」


「お久しぶりですおばちゃん! この子はジーク! 私の弟なの!」


「ジークと言います、よろしくお願いいたします」


「あらまあそうなのかい? ジーク君はシャルちゃんに似てすごく綺麗な子だねえ」


「えへへ! ありがとうございます!」


「あ、ありがとうございます……」



 野菜売りのおばちゃんの勢いにジークは終始押されっぱなしだ。

 ちわっこは最近ちょくちょくファルケンブルクに来るようになったせいであっという間におばちゃんと仲良くなったんだよな。



「シャルちゃんは相変わらずお姫様みたいで可愛いねえ」


「私はラインブルクの王女だからお姫様みたいなもんだよ!」


「シャルちゃんは冗談も上手だねえ。でもお兄さんに嫁ぐなら伯爵夫人だし、お姫様みたいなもんだしねえ」


「えへへ!」



 おばちゃんはシャルが王女なのを信じてないのか。まあ本当なら王女がこんなところにいるわけないって思ってるんだろうけど、伯爵が買い物に来るのは領内だと当たり前になってるのがな。ヘタレ弄りしてくる連中は多いしツバも吐かれるし。領主に対してどういう扱いをしてるんだよここの連中は……。



「で、お兄さん。今日は何を買ってくれるんだい?」


「エルフ王国の料理を作ろうと思うんで、そのあたりを中心にいつもの量より少し多めな感じだな」


「あいよ。最近はエルフ王国から常に新鮮な野菜が入ってくるようになったからね、うちとしては常に売り物が豊富に揃えられて大助かりさ」



 エルフ王国はファルケンブルクの南にある大森林の中にあり、荷馬車が一日で一往復できるほどの近距離に存在し、普段は結界に囲まれているために外部からは隠匿され、結界内は常夏状態を維持しているのだ。

 そういった理由から季節関係なく農作物が一年中収穫できる環境なんだけど、引きこもり化した原因ってこれも大きいんだろうな。



「それにしてもおばちゃんの所のエルフ国産の野菜は随分安いよな? 市場価格より二、三割は安いんじゃないのか? 利益出ないだろこれじゃ」


「アタシの所はメディシス商会からじゃなくて、エルフ王国の生産者と南の宿場町に来てもらって直接取引をしているんだよ」



 メディシス商会というのはマリアとエカテリーナの実家だ。

 商売人だからなのか、エルフ族なのに凄く勤勉な一家で、エルフ王国の特産品を独占して取り扱っているというやり手だ。

 値段も独占状態なのに手頃なので商売人としてはまっとうな考え方をしているんじゃないだろうか? 原価を抑えるために生産者から買い叩いているという話も聞かないし。


 それにしても直接取引か。

 おばちゃんも商売上手だけど、よく引きこもり思考相手に商売をしようと考えたな。



「農作物は季節関係なく育つけど、育てている奴が気まぐれだから供給量が安定しないんじゃないのか?」



 マリアやエカテリーナに連れて行ってもらった時はエルフ王国に入国できたが、普段はエルフ以外は入国禁止だ。

 なのでメディシス商会が持ち込んだりエルフの商人が出店して売っている品物以外は、基本的にはエルフ族が国内から持ち出したものを取引するしかないのだが、そのエルフ自身が気まぐれだしな。

 魔導具を買う金欲しさにエルフ族がファルケンブルクまで物を売りに来るというのはたまに聞くけど、継続的に売買するのは骨が折れそうだ。



「そのあたりはメディシス商会より高値で買うとか、少ない量でも買うとか、複数の生産者と契約するとか色々やり方があるからね」


「流石だなおばちゃん」


「良いものを少しでも安く売るのが商売人だしね。はいよお兄さん、こんな感じで揃えたよ」


「おお、ありがとうおばちゃん」


「銀貨四枚だね」


「相変わらず安すぎるぞ。本当に利益出てるんか?」


「当り前さね」



 おばちゃんが会話しながら並べてくれた野菜をマジックボックスに収納して代金を支払う。

 もう朝の弁当販売は官営の事業化をしたので、うちで使う分しか買わなくなったので都度清算になったのだ。



「じゃあまた来るよおばちゃん」


「あいよ! じゃあねシャルちゃん、ジーク君」


「はーい! またねおばちゃん!」


「またお邪魔しますね!」



 ジークが嬉しそうにおばちゃんにまた来ると挨拶をする。

 王族として扱わない相手が新鮮なのだろう。ちわっこも最初はそうだったしな。


 どうやらファルケンブルクの町を気に入ってくれたようで何よりだ。

 収穫祭も王族のふたりが羽目を外して楽しむことが出来るようなら良いんだけどな。



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