第三十三話 ソーメンチャンプルーとポーク玉子
「おいしい!」
「じーくにーおいしいよ!」
リビングでジークがマジックボックスから取り出したショートケーキをミコトとエマが食べている。
王族ともなると一ピース銅貨三百枚、日本円で三千円近くするケーキを簡単に出せるのか……。
生活格差に絶望しながら、クレアが淹れてくれたお茶をすすっていると
「ふふっ。ミコトちゃんエリナちゃんが喜んでくれて良かった。義兄上もどうぞ」
とジークが皿に乗せられたイチゴのショートケーキを差し出してくる。
皿ごと収納していたのか。
皿も、添えられたフォークも一目で超高級品とわかる食器だし、ケーキ自体もデコレーションがとても凝っていて高級感が漂っている。
「いや、俺は良いよ。これを飲んだら晩飯を作らなきゃいけないし」
「そうですか。では数はあるので食後にどうですか?」
「ガキんちょたちの分もあるのか?」
「ええ、姉上から人数は聞いてましたから、余裕を持って用意してあります」
「そうか。なら食後に頂くかな」
「是非!」
ここ数年は月に一度の高級ゾーンで買ってくるケーキをコスト面を考慮して辞めちゃったからな。
何しろクレアが十分の一の費用でケーキが作れるようになったし。
それでもやはり王都やファルケンブルクの高級街にある高級菓子店の見た目から技巧を凝らしている高級菓子というものは、ガキんちょどもに定期的に食べさせてやりたいとも思っていたところだ。
ここはありがたく頂いておこう。
「じゃあ晩飯を作っちゃうか。エリナ、ここは頼むな。あの駄鳥は厨房へ連行しておくから」
「任せて!」
「兄さま手伝います」
「ここが片付いてからでもいいぞ」
「片付けはやるからお兄ちゃんを手伝ってあげてクレア」
「ありがとうございます姉さま」
結局クレアと駄鳥を連れて厨房に向かう。
鳥カゴの中でバタバタ暴れたりピーピー鳴くようなら玄関前に放置して飯抜きだぞと脅したせいか、駄鳥どもは随分と大人しい。
「兄さま、今朝ロイドさんから頂いた試作品の缶詰を使いましょう」
そう言ってクレアは厨房の片隅に置かれた大きな木箱から、ポーク缶詰のひとつを取り出して俺に見せる。
「そうだな。エルフ王国の料理に合う食材だし、試食して問題が無いようなら使うか」
「メニューは決まっているんですか?」
「ポーク缶詰が問題無ければソーメンチャンプルーとポーク玉子をメインにするかな」
「ソーメンチャンプルー? おそうめんを炒めるんですか?」
「そうだ。ジークにはせっかくだから王都では食べられないメニューを食わせてやりたいしな。それにちわっこは月に一回くらいのペースで来てるからエルフ王国の料理は色々食べてるだろうけど、乾麺とかポーク缶詰を使った料理は食べたこと無いだろうし」
「乾麺はまだファルケンブルクでしか流通していないですし、エルフ王国の特産品もまだ王都にはほとんど入っていないみたいですからね」
「まあ俺も何度か食べたことがある程度だから上手く作れるかわからないんだけどな」
「兄さまなら大丈夫ですよ」
「根拠のない信頼がプレッシャーだけど、まずはポーク缶詰の試食をしてみるか」
「そうですね」
クレアからポーク缶詰を受け取り、缶詰上部のプルタブを使って開封する。
変にこだわって巻き取り缶じゃなくて、ここはオーソドックスな方法なんだな。
缶をさかさまにして中身を皿の上に出して、スプーンで少し掬って食べてみるが問題はなさそうだ。
一応スライスして焼いてみて食べてみたが普通に美味い。
「美味いし全く問題がない出来なんだけど、これ一個いくらで売る気なんだ?」
「現時点では銅貨百枚程度らしいです。量産効果で将来的には半額程度になるとのことですが……」
「日本円で千円くらいか。高いなー」
「そうですね、私たちみたいな庶民にはお高いですよね」
……一応伯爵家なんだけどな。
貴族というか領主としての収入は全て公共事業や社会保障に突っ込んで、生活費は主に俺とエリナが狩りで稼いだ金だから庶民と言えば庶民なのかな? 竜の素材を売った金があるからかなり余裕があるんだけど。
「まずは領地の備蓄や軍の糧食として量産するから、すぐにある程度は下がると思うけどな」
「半額になってもやっぱり少し高いですよ兄さま」
「大流行してもっと大量に作ったら銅貨三十枚とかになるんじゃないか? 俺の世界でも安売りの店で買う場合の話だけど」
「三十枚なら……備蓄も兼ねると思えば許容範囲でしょうか?」
流石にクレアの財布のひもは固いな……。
三百円なら俺ですらお買い得だと思うんだけど。
「まあ値段の話はいいとして早速晩飯を作るか。クレアはラフテー風角煮を頼む」
「わかりました」
さて、ポーク缶詰は無事にできたし、やっと本格的な沖縄風料理が作れるな。
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