第六話 ちわっこ再び!(水着回Ⅴ)


「お兄さん! お兄さん 久しぶり!」



 リゾートホテル滞在も四日目、今日もいつものように朝食のオムレツの列に並んでいると<どっぱん>という音とともに扉が開かれ、ちわっこが大きな声で俺を呼ぶ。



「朝食の最中なんだから大人しくしろよちわっこ」


「ひどーい! 久々の再会なのにお兄さんがつれない!」


「久々って、前回は半年くらい前だろ。騎士団長のベルナールに即日連れ戻されたけど」


「あーシャルねーだー!」


「しゃるねー!」


「ミコトちゃんエマちゃん久しぶりー! 半年ぶりだけどふたりとも大きくなったねー!」



 朝食を取っていたミコトとエマが乱入してきたちわっこを見て声を上げると同時に、ぽててーとちわっこに向かって駆け出す。

 普段は礼儀正しいし、食事マナーはバッチリなのに好きな人を見ると制御が効かないんだよな、うちの娘ふたりは。

 赤ん坊のころから人見知りしないどころかいろんな人に愛想振りまくってたからな。



「ところで今日はどうしたんだ?」


「夏の休暇だよお兄さん! というか来るたびにおかしなことになってるねファルケンブルクは」


「おかしなって……まあ否定はしないが。まあ長期休暇が取れたなら少しはゆっくりできるんだろ? とりあえず朝食を食っていけ。美味いぞここの朝食バイキングは」


「うん! ありがとーお兄さん!」


「シャルねー、とうふハンバーグがおいしいんだよ!」


「しゃるねー、たまごやきおいしいよ!」


「そうなんだ! ありがとーミコトちゃんエマちゃん!」


「こっちだよ!」


「こっち!」



 ちわっこがミコトとエマに引っ張られて娘ふたりのおすすめ料理の前に連れていかれる。

 凄くちわっこに懐いてるんだよな。髪の色も同じ黒髪だし、ぱっと見は三姉妹にしか見えない。ちわっこも十九歳になったけど相変わらず背が小さくてロリだし。

 これにエリナも加わったら四姉妹になってしまう。


 今日もちわっこの相手をしている間にオムレツを注文する番となってしまい、いつも通りチーズオムレツを頼む。

 昔も、たまにバイト帰りに寄ったラーメン屋で、毎回メニューで迷って結局ラーメンライスを注文しまくってたら「ラーメンライスの兄ちゃん」というあだ名がついてしまったからな。

 明日は別のオムレツを頼もう。そうしよう。



「お兄ちゃんまたそのメニュー?」



 オムレツと、いくつかの料理を乗せたトレーをテーブルの上に置くと、横に座っているエリナからあきれたような声でツッコミが入る。



「お前たちみたいに朝から大量に食えないからな。好きなものだけを取ってくると大体同じになっちゃうんだよ」


「ふーん」


「聞けよアホ嫁。いいか、冒険心が無いとか、食べ慣れた物じゃないと怖いとかそういうんじゃないぞ。好きなものを取ってきてるだけなんだからな」


「栄養が偏っちゃうぜ兄ちゃん!」



 何度目かのお代わりを取ってきた一号も、俺のトレーを見てアホなことを言い出す。こいつ……。



「栄養を過剰摂取してるお前たちに言われたくねー」


「小食だな兄ちゃんは! そんなんじゃ大きくならないぞ」


「アホか、俺にはもうその必要はないんだよ」



 チーズオムレツ兄ちゃんとか言い出しそうな一号を牽制して食事を続ける。うん。いつもの安心できるメニューで美味い。

 俺が何を食ったっていいじゃないか、フルーツは日替わりで楽しんでるんだし。



「お兄さんお兄さん! ご飯を食べおわったら一緒に泳ごう!」


「良いけどお前泳げるの?」


「必須技能だからね、バッチリ!」


「じゃあ飯食ったらビーチで待ち合わせな」


「うん!」



 俺の返事に満面の笑みを浮かべたちわっこは、エリナやクレア、クリス、シルなどにも挨拶に回ってわちゃわちゃしだしている。

 王族なのに気さくなんだよな。家臣に対してはまだ横柄な感じだけど、そもそも王族なんだから横柄に思われるくらいが正しい態度なのかもな。怒鳴ったりするのは良くないけど。


 俺が食事を終えたころになると、なんだかんだガキんちょども全員とも挨拶を交わしたちわっこも食事を終えたようだ。

 もはやもぬけの殻になっている男子部屋に一旦戻り、水着に着替えてビーチに向かう。

 一号を筆頭に、常に水着で生活してるんじゃないかというほどあいつら着替える時間がゼロなんだけど、一体いつ着替えてるんだ……。



「あっ! お兄さんお兄さんこっちこっち!」



 ぴょんぴょんと飛び跳ねて俺を呼ぶちわっこは、肩を出している意匠で純白の清楚な感じのするワンピースの水着だが、胸元の装飾が多めで胸のサイズが微妙にわかりづらくなっている。

 背も胸も出会ったころと相変わらず成長してないな。

 まさにチワワ娘だ。キャンキャンうるさいし。

 頻繁にやり取りしてる書簡の内容や、年に三、四回はファルケンブルクにお忍びで来る時に聞く王都の政治の状況なんかで判断すると為政者としては優秀なのは間違いないんだけど。



「パパ!」


「ぱぱ!」



 朝からずっとちわっこから離れないミコトとエマも一緒だ。



「悪い待たせた」


「お兄さんお兄さん! どうこの水着! 似合うかな?」


「ああ、似合ってるぞ。王族の気品みたいなものも感じるし可愛いと思うぞ」


「やったー!」


「ただちょっと誤魔化し過ぎじゃないか?」


「毎日治癒魔法かけてるからそのうち大きくなるよ!」


「なんねーよ。状態異常でもバッドステータスでもないんだからな。そのサイズで正常なの」


「ぶー!」


「そういやお前ファルケンブルクにはどれくらい滞在するんだ?」


「今週いっぱい!」


「おお、そんな長期休暇って初めてじゃないか?」


「ジークが来年には隠居する父上に替わって即位するからね、私の宰相代理職の引継ぎをジークの腹心にしてるから少し余裕があるんだよ」


「ジーク?」


「ジークフリート! 私の弟! 来年十五歳になるから即位するの!」


「親父だって隠居するにはまだ若いだろ?」


「父上は良い人だけど馬鹿だからね。いつまたエドガルドみたいな奸臣に乗せられても困るから」



 エドガルドって誰だっけ? ちわっこの暗殺を計画して極刑になった奴だっけ?

 あと自分の親父に滅茶苦茶辛辣だけどまあ別にいいか。馬鹿王のせいで乱れた政治を正すためにちわっこが大変だったし。

 でもそうか、弟が即位したら宰相代理を辞めるのか。

 っていうか俺もその時一緒に宰相職辞めたいんだけど。年に一回顔出すだけだしな。



「そか、まあゆっくりしていけ」


「ありがとーお兄さん! でも街道が整備されたおかげでファルケンブルクに来やすくなって良かった! これからもちょいちょい遊びに来られるし!」


「そういや移動手段は馬車なんだよな?」


「そうだね、護衛騎士も何人か連れてきてるよ」


「魔導駆動車を何台か王家に献上って形でちわっこに渡すか、魔導駆動車を使えば一日でファルケンブルクに来られるし」


「えっ! いいの?」


「販売開始する時に一台献上したけど、あれ王専用車両になっちゃってるだろ? ちわっこが移動で使えるように魔導駆動車を渡すよ」


「ありがとーお兄さん!」



 魔導駆動キャンピングカーも貰えるし、試作した車両はまだいくつかあるからな。移動中の安全のために武装してある方が良いだろうし。

 護衛騎士の馬の速度だと追いつけないから護衛車両も数台つけたほうが良いのかな?



「王都と行き来する魔導駆動路線バスはまだ魔力効率が悪くて運行が開始できない状態だし、留学生の受け入れ枠拡大の話なんかもあるから、ちわっことの連絡は密にできたほうが良いだろうしな」


「ファルケンブルクに留学したいっていう貴族は多いからね」


「魔法科の授業目当てだろそれ」


「ご飯が美味しいって卒業生が言いまわってるからそれじゃないかな?」


「貴族って言っても下級貴族だろそれ」


「下級貴族でも独自の経済基盤を持ってる貴族は下手な上級貴族よりもお金を持ってたりするからね。そういう所の貴族の子弟かもよ?」


「そんなに良い食事を出してるとは思わないがな。コストもかけてないし」


「来年からは王都の学校も平民を受け入れ始めるし、そのぶん校舎の新設が間に合わないんで留学生を例年以上に受け入れて欲しいんだよね」


「ああ、そのあたりはこのバカンスが終わったら打ち合わせるか。アイリーンも呼ぶ必要があるし」


「わかった!」


「パパ! シャルねー! おしごとおわった?」


「おわったの?」


「うん終わったよ! ごめんねミコトちゃんエマちゃん! さあ遊ぼうか!」


「「うん!」」



 ミコトとエマを左右にくっつけて水辺へ向かうちわっこ。



「お兄さんお兄さん! 早く早く!」


「ああ、わかった!」



 ここ二年はずっと忙しかったちわっこに付き合って目いっぱい遊んでやるか。

 しかし宰相代理を辞めた後どうするんだろうなちわっこは。



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次回も水着回です!


同時連載しております小説家になろう版では、今回の水着イラストを含め100枚超の挿絵が掲載されてます。

是非一度小説家になろう版もご覧いただければと思います。

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