第十五話 イザベラ学園ファルケンブルク校


「私がイザベラ学園ファルケンブルク校の校長のイザベラと申します。みなさんよろしくお願いしますね」


「「「はーい!」」」


「「「……」」」



 四月一日。開校の日を迎えた。

 日本が四月に年度の切り替えをするのは、稲作の影響じゃなくて、明治時代に軍事費に予算振りわけまくって赤字になったのをごまかすために、会計年度をズラしたんだって聞いたときは唖然とした。

 ま、十五歳になった年の春の採用試験の受験までサポートをするって考えたら四月入校の方が都合が良いんだけど、採用試験は年四回まで増やす予定だからあまり関係なくなったのがな。

 十五歳になって採用試験を四回受ける間、ずっと寮にいさせてやるのも手かな。そうすると十六歳までいることになるのか。


 ともあれ今は講堂に生徒を集めてオリエンテーションの最中だ。

 婆さんの挨拶に元気に返事をするファルケンブルクの孤児院と託児所メンバー。

 周辺領から来た子らはどうしていいかわからないようで、不安そうにきょろきょろしている。

 あと大人しくミリィに手をつながれて座っているミコトが可愛い。子供の入学式に参加した親の気分だ。

 ちなみにサクラは朝から苗床の準備で不在だ。サクラは十四歳だけどすでにファルケンブルクの農業担当官の肩書がついてるから学校へは通わないんだけどな。

あとミコトも通わないんだが、今日はミリィに懐く日なのか離れたがらなかったので一緒に参加させた。



「魔法科主任のクリスティアーネです。よろしくお願いいたしますね。先ほど行った魔力判定で魔力適性のあった方はのちほど魔法の授業の件でお話しさせていただきますわね」


「「「はーい!」」」


「「「……」」」



 オリエンテーション前に健康診断と支給する制服のサイズ計測、魔力測定を行った。

 驚いたことに孤児院メンバーはミコトを含む全員が魔力適性持ちだったのだ。託児所メンバーはアンナのみで、周辺領から来た子にはいなかった。

 とはいえエリナやクレアのような大きな潜在力を持つものは皆無で、ほとんどがひとつかふたつの属性のみの上に潜在力は低い。ミコトだけは潜在魔力こそ低かったけど全属性だった。

 なんか魔力的な磁場みないなものがあるのかな? 貴族の別荘地だったから魔力を持ってた貴族が何人も人知れず埋められているとかないよな? 怖い。



「ねえエリナ」


「なあにお兄ちゃん?」



 俺の横で、俺と同じように椅子に座ってにこにこと子どもたちを見守っているエリナに声をかける。



「今日ぎゅってして一緒に寝てくれ」


「いいけどどうしたの急に」


「怖いの。埋まってるかもしれないから」


「? 何言ってるのかわからないよお兄ちゃん。何かの病気? 緊急事態だから魔法を使うね! 治癒キュアー!」


「いやいや、病気じゃないって。ヤバいんだって。埋まってるかもしれないんだって。エリナお前浄化魔法みたいなの使えないの? 霊体を撃滅する撃滅波的なやつ」


「お兄ちゃん......」



 エリナは立ち上がると、椅子に座ってる俺の頭を優しく抱きしめる。



「はいはい、お兄ちゃん落ち着いて。お兄ちゃんは良い子ですねー」



 いやだっておかしいだろ。なんで孤児院のガキんちょどもの魔法適性率が百パーセントなんだよ。磁石の近くに置いておいた石が磁力を帯びるような事が起きてるんじゃないのか? 魔導士協会の連中に調べさせてみるか? もちろん有料で。絶対なんか埋まってるぞうちの下。

 あれ、ミコトは潜在魔力こそ低いけど全属性だろ? でもあいつはうちに来てそんなに経ってないから影響はそれほど受けていないのか?

 うーん、やはり一度調べてみるか。

 魔力適性の無い人間に魔力を持たせることができるかもしれない。すごくヤバそうな研究だけど。

 色々考えてると何か落ち着いてきて、「胸が少し大きくなったよ!」とか言って喜んでいるエリナに「一時的なものだぞ」と悲しい事実を言えずにいたのを思い出した。



「ありがとうエリナ、お兄ちゃん落ち着いたよ。あとごめんなエリナ、元に戻ったらその時に全力で謝るよ」


「? まだ治ってないの?」


「いや、大丈夫。それよりクレアは本当に良かったのか?」



 俺を挟んでエリナの逆に座っていたクレアにもう何度も確認したことを聞いてみる。



「ええ兄さま。私はもう授業をほとんど受けないでクリス姉さまとお仕事をしてましたからね」


「クレアは家の仕事もしてるからすごいよね!」


「たしかにクレアが学校に行っちゃうと家のことが何もできなくなるな……。でもクレアだけ授業が受けられないってのはなあ」


「受けたいときはいつでも受けていいって言われてますから、気になる授業の時はちゃんと受けますから大丈夫ですよ」


「ごめんなクレア。お前の兄さまはまだ十一歳のお前に仕事をさせちゃってるんだよな」


「もう兄さま」



 そういってクレアが立ち上がると、椅子に座ってる俺の頭を優しく抱きしめる。



「はいはい、兄さま。私は気にしてませんし、やりたいことをやってるだけなんですから兄さまは気にしなくていいんですよ」



 クレアは大きくなったと喜んでるエリナと同じくらいあるじゃないか。末恐ろしい。



「ありがとうなクレア。愛してるぞ」


「ありがとうございます兄さま。私も愛してますよ」



 そんな夫婦コミュニケーションを取っているうちにオリエンテーションが終わる。

 このあとは寮生のみが寮のリビングに集められ、寮母であるアンナの母や寮の職員の紹介と、施設の使い方などの説明を行う。



「ぱぱ! まま! えりなまま!」



 寮生が寮に案内されて退出した途端、ミコトがぽてぽてとミリィの手を離れて小走りで向かってくる。

 俺は椅子から立って、ミコトに近づきながらしゃがんで両手を広げる。

 がばっと俺の胸に飛び込んできたミコトをハグして、わしゃわしゃと髪をなでる。



「ミコトー、良い子にしてたなー偉いぞー」


「きゃっきゃ」


「今日は授業は無いからな。うちに帰ったらパパと一緒に絵本読もうか、ミコト」


「ぱぱおしごとは?」


「……」


「ぱぱかいしょーなし?」


「あの、ミコトさん?」


「ぱぱひもってなあに?」


「シルヴィアーーーーーー!」



 軍務省長官で騎士団長の癖に「わたくしも学校の教師になりたいです!」とか言い出して体育科主任になったシルが、俺に呼ばれてダッシュでこちらに走ってくる。



「お呼びですかお兄様!」


「今から弁当を持って狩りに行くぞ! たくさん稼いで今日の晩飯は入学祝いで豪勢にしてやる!」


「かしこまりました! すぐに装備を整えてきますねお兄様!」



 ダッシュで自分の部屋へと向かうシル。こういう時は頼もしいなあいつは。



「クレア、ミコトを頼む。あと甲斐性なしとかヒモって言葉を教えた犯人を見つけておいてくれ」


「はい兄さま。すぐにお弁当を用意しますね」


「お兄ちゃんってヘタレな上に甲斐性なしでひもなの?」


「エリナ、頑張って稼いでくるから家のことは頼んだぞ。あと俺はヒモじゃないし甲斐性なしじゃないと思う。そう思いたい。それを今から証明してくる」


「よくわかんないけど頑張ってねお兄ちゃん!」


「任せろ、大量に狩ってくる」



 ミコトに「ぱぱすごい!」って言わせるためにも大量に狩ってこないと。ブラックバッファローを探すか? レアだけどシルの走査で俺の魔力も使えば数キロ範囲の探索ができるし、二、三匹くらいなら見つかるかもしれん。ダッシュエミューだと十匹狩ってブラックバッファロー一匹分だしな。

 というか地竜とかが見つかればいいんだが、そう甘くはないか。

 昔は地竜討伐で死にかけたのに今は随分余裕になったな。と、考えながら支度をするために自室に戻るのだった。




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