第二十二話 宿泊施設


 温泉を楽しんでいるとあっという間に昼を過ぎていた。温泉慣れしていないガキんちょどもが湯あたりをしても大変なので、声をかけて全員温泉から出る。

 一回ではすべてのお湯に浸かれなかったが、今後の楽しみに取っておこう。



「ご主人様っ! お父さんからみんなをお昼ご飯に招待しなさいと言われていますので是非ごちそうさせてくださいっ!」



 更衣室から出て、ロビーでガキんちょどもと合流すると、サクラが昼飯に誘ってきた。

 そういやそんな時間だけど、飯の準備を一切してなかったな。

 マジックボックスの中には何かしら入ってるけど、せっかくだしここで食うのもいいか。



「そういやここのロビーにはフードコートみたいな簡単な食事スペースがあったな」


「いえ、ここではないですっ! お座敷を用意してありますのでっ!」


「お座敷?」


「ここは宿泊施設も併設してますので、宿泊客用に宴会スペースも用意してあるんですよっ! なので是非っ!」


「観光客用に宿泊施設を増やすっていうのは議題にあがってたくらいだからな、亜人国家連合の区画でもカバーしてくれるとありがたい。リゾート開発が終わったら一気に観光客が増えそうだし」


「温泉を中心にここでもリゾート開発できればいいんですけどねっ!」


「良いんじゃないか? 温泉アミューズメント施設っていつの時代も人気だしな。アイリーンに相談すれば補助金とか出してくれるんじゃないか?」


「お父さんに話しておきますねっ! ではではみなさんまずは浴衣に着替えてから隣の棟の宴会場にお越しくださいっ!」



 サクラがそう言うと、ぞろぞろと頭に様々な耳を付けた女中さんが浴衣を持って出てくる。



「また着替えるのか……」


「雰囲気は大事ですからねっ!」



 女中さんから浴衣を受け取り、再び更衣室に戻ると、浴衣を広げて首をかしげている一号が声をかけてくる。



「なあ兄ちゃんこれってどうやって着るんだ」


「ああ、帯の結び方もわからないよな。よしじゃあお前ら浴衣を着せてやるから並べ―」


「「「はーい」」」



 お腹空いたねーなんて言ってる男子チーム全員に浴衣を着せてやり、終わったガキんちょからロビーで待たせる。

 女子の方はサクラがいるから大丈夫かな。



「わんわんっ! ご主人様っ遅いですよっ!」



 男子チーム全員に浴衣を着せてロビーに戻ると、女子チーム全員はすでに浴衣に着替え終わっていた。



「男子全員に着せてたんだよ。帯を結ぶのも久々で手間取ったしな。さあ早く案内してくれ、うちの欠食児童どもが暴れる寸前だ」


「わふわふっ! こちらですご主人様っ!」



 サクラの案内でぞろぞろと渡り廊下を使って移動する。

 渡り廊下の脇にはしっかり庭園まであって随分凝った造りになっていた。

 これ受けるのかな? 日本人の俺にとっては落ち着く景色だけど。

 ファルケンブルクの領民はまだしも、ラテンなノリのエルフ族には微妙かもしれん。



「兄ちゃん腹減った」


「一号はサウナに入り過ぎだぞ。俺は全然腹減ってないし」


「兄ちゃんは温泉がぶ飲みしてたからだろ」



 見てたのかよこいつと思いながら、ジト目でこちらを見る一号をスルーしててくてくと歩いていく。



「こちらですっ! すぐにお料理を運ばせますので席についていてくださいねっ!」



 サクラが<鳳凰の間>という札のかかった襖を開けると、中には全員分の膳が置かれている畳張りの部屋が現れる。



「うわー。完全に和風だー」


「畳は高級品なんですよっ!」


「わー! いいにおいだねエマちゃん!」


「うん! このにおいすき!」


「なんかすごく落ち着くー」



 畳の独特な匂いはガキんちょたちには好評なようでよかった。

 うちにも畳の部屋を作るかな? 久々に嗅ぐこの匂い。やっぱ畳は良いな。


 全員がおのおの膳の前に置かれた座布団に座ると、すぐに料理が運ばれてくる。

 これさ、俺たちが遠慮しない前提でもう作り始めてただろ……。


 次々と料理が目の前の膳に、椀物など、料理を盛った食器が並べられる。

 料理は、前菜、焼き物、煮もの、酢の物など多種多様で、当然一の膳だけじゃ足りず、二の膳、三の膳と目の前に置かれていく。



「ご主人様っ! どうぞ召し上がってくださいっ!」


「こんな高級な食事、大丈夫なのか? こいつらすげえ食うんだぞ」


「たくさん用意してあるので大丈夫ですっ! その代わり料理の感想をあとで聞かせてくださいねっ!」


「そういうことなら遠慮なく頂くか。じゃーお前ら、ちゃんと味わって食えよ! あとで感想を聞くからな!」


「「「いただきまーす!」」」



 膳を次々と並べられている最中、待ちきれないといった様子だったガキんちょどもが、俺の合図とともに一斉に食事を開始する。

 完全な和食だが、おいしーおいしーと食べまくっている。

 早速お代わりを要求するガキんちょも出てきたので、給仕している女中さんもひっきりなしに出入りして大変だ。


 特に金目鯛のような魚の干物、固形燃料を使ったひとり用のすき焼き、天ぷら、炊き込みご飯、茶碗蒸し、けんちん汁などが子ども達にも大人気のようだ。

 ようかんや饅頭のデザートまで完備している至れり尽くせりなのだが、刺身が無かったのだけが残念だ。

 

 これ料金どれくらいとるつもりなんだ? 料理だけでも日本円で一万や二万じゃ足りないだろ、実質食べ放題状態になってるし。



「お味はどうですかっご主人様っ!」


「滅茶苦茶美味い。美味いんだが料金が気になるな」


「まだ細かくは決めてないのですが、松竹梅とメニューをいくつか細分化して、富裕層向けの高級料理や手ごろな料理などと区別化していく予定です」


「それは必要だろうな。ただ富裕層向けは客単価が上がって良いかもな」


「アイリーンさんからアドバイスを貰いましたからねっ」


「あいつ……他人に振らずにわざわざこんなことにまで手を出してるんか」



 アイリーンがワーカーホリックなのは完全に横に置いておいて、久々に完全な和食を堪能する。

 金目っぽい干物が凄くうれしい。

 これ常連になっちゃいそうだな。


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