第二十一話 温泉の効能
エリナたちと合流し、まずはオーソドックスな温泉に浸かることにした。
ミコトとエマはお揃いの白地にピンクの水玉なタンキニの水着、エリナは一生懸命寄せて上げた感のある青のビキニだ。
エリナの頑張りはさておいて、水着姿ってなかなか新鮮だな。
「えーと、効能は……。あっお兄ちゃん凄いよ! 脱毛予防の効果があるんだって」
「ハゲてねーよ! 良く見ろよおら!」
「パパってハゲなの?」
「はげ?」
「違うぞミコト、エマ。髪が濡れて頭皮にくっついてるだけだぞ。確かに毛量は多くないが決してハゲてはいないぞ」
「お兄ちゃん、気になるなら魔法で治してあげるのに」
「
「パパはハゲてないよ!」
「はげじゃない!」
「そかそか、ミコトとエマは偉いなー」
「「きゃっきゃ!」」
一生懸命慰めてくれる娘ふたりを抱き寄せてわしわしと頭をなでる。
こいつら毛量凄いな。コシもあるし太くてしなやかだ。それに引き換え俺の髪はコシが無いし細いし……。
「ふむふむ」
ハゲ騒動の発端となったアホ嫁は効能が書かれたボードを熱心に読んでいる。
この温泉の効能か、どれどれ……。
<浴用効果:脱毛症、美容効果、冷え性、疲労回復、食欲不振、健康増進、肌疾患、打ち身、切り傷、関節痛、筋肉痛、慢性消化器病>
「え。なにこれ凄いな」
ミコトとエマの頭をわしわししながら効能を見るととんでもないことになっていた。
魔導士協会の連中がちゃんと調査をしてるはずだし、嘘だったり誇大表示だとうちの法令では景品表示法違反になるからな。
ということは本当に脱毛に効果があるのか?
「だよね! 治癒魔法じゃカバーできない症状もケアできるから、温泉をいっぱい掘ればいいのにね!」
「たしかに。今の公衆浴場を全て温泉にしてもいいな。あと公衆浴場を増やしても良いし」
「閣下! 是非そのお手伝いをさせてください!」
「おい! 娘の教育に悪いから腰にタオル巻けタオル!」
エリナと温泉の効能が書かれたボードを見ていると、いきなり六尺ふんどしを着用したシバ王が仁王立ちで現れる。
慌てて髪の毛をわしわししていたミコトとエマを抱き寄せ、シバ王が視界に入らないようにする。
「へ? いやこれは閣下より賜った真の漢の……」
「いいからタオルを巻け!」
「はっ!」
シバ王は手にした手ぬぐいをさっと腰に巻くと、俺の入っている湯船の縁に正座をする。
いきなり抱き寄せられた娘ふたりは、遊んでもらっていると思っているのか、きゃっきゃとお湯を俺にかけ始める。
危なかった……。うちの娘にあんなモノを見せられん。エリナはずっと「ふんふん」と温泉の効能とか温泉の入り方の説明に夢中になっていた。
「それでシバ王、手伝いとは?」
ばっちゃばっちゃとお湯を俺にかけていた二人が、仕事の話が始まったと判断し「エマちゃんしーだよ!」「うん、みこねー!」と大人しくなる。
よく教育が行き届いているな。もっと子供っぽく振る舞っても良いんだが。
「温泉の掘削技術は、今回この温泉を掘る際にファルケンブルクの技術者の方にお教えいたしましたが、さらに詳しい実地での温泉脈の探し方や深度によって変わる掘削術などの応用をお教えしたいのです」
「おお、助かる。派遣してくれる技術者の給金はこちらで出すから」
「そこまでしていただく必要はないのですが……。かしこまりました。閣下のお言葉に甘えさせていただきます」
話がまとまると、シバ王は「では手筈を整えてまいります」と俺たちの前から立ち去る。
風呂くらい落ち着いて入ればいいのにな。
「パパおしごとおわり?」
「おわり?」
「ああ、終わったぞー。さあ、他の風呂にも入ってみるか」
「「うん!」」
「エリナ、いつまで読んでるんだよ……行くぞ」
「お兄ちゃん! この温泉って飲んでも良いみたいだよ! 美容にも脱毛にも良いんだって!」
「マジかよ、どこかに飲めるところ無いかな」
「露天風呂の横にあるみたいだよ?」
「よし露天風呂に行くぞ。抜け毛の心配はしてないけどな!」
「「「はーい!」」」
濡れた床で転ばないように、ゆっくりぽてぽてと歩いて露天風呂へと向かう。「きをつけてねエマちゃん!」「うんみこねー!」と常に手をつないでいる姉妹がほほえましい。
エリナの手を握ってやると、俺の手を強く握り返してきてにへらっと笑う。
「転ぶからな、ちゃんと捕まってろよ」
「うん!」
「エリナはミコトとエマと変わらないな」
「そうかもね!」
外に繋がる引き戸を開け露天風呂のある区画に入ると、エリナとミコト、エマの「「「おー!」」」という声が周囲に響き渡る。
岩風呂の広い風呂の周りに植樹や、夜間には明かりが灯るであろう灯篭なども設置され、いかにも純和風な趣に、俺も思わず唸ってしまう。
「あっ! お兄様! こちらです!」
こちらに向けて腕をぶんぶんと大きく振るシルは、クリスと他の女子チームと一緒に岩風呂に浸かっていた。
「お前たちはここにいたのか」
「はい。旦那様、温泉というのは素晴らしいですわね。なによりこの露天風呂の解放感がたまりません」
クリスが上気し、うっとりした表情で答える。相当気に入ったようだ。
家の広い風呂でも流石にこの解放感は味わえないからな。
「そうだな。これで風呂がもっと庶民にとって身近になればいいんだが」
「入場料はそれほど高くは無いのですが、流石に毎日は厳しいですわね」
「なので公衆浴場にも温泉を引いて、割引チケットの配布とかをしたいんだよな」
「なるほど、それでシバ王が先ほど慌てて外に出ていかれたのですね」
「予算なんかは任せるけど、足りないようならいつものように領主家の資産を使っていいからな」
「かしこまりましたわ」
「じゃあ俺はまず温泉を飲むから」
「お兄ちゃん私も!」
岩風呂の横に設けられた、かけ流しでちょろちょろ湧き出ている飲用の温泉を見つける。
俺とエリナは備え付けられたコップで温泉をがぶがぶと飲み始めるのだった。
抜け毛は気にしてないんだけど、ほら、健康にいいみたいだから。
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