第十一話 着物


 久々の純和風といった感じの食事を済ませ、食後に出された甘酒と饅頭を味わっていると、エリナたちも俺のテーブルに来て同じように甘酒と饅頭を注文する。



「朝飯は済ませたのか?」


「うん! 焼きそば風パスタじゃなくて、本物の焼きそばを食べたよ! お兄ちゃんの言ってた通り、中華麺で作る焼きそばって美味しいね!」


「おいしかったよねーエマちゃん!」


「うん! みこねー!」


「中華麺も量産すればパスタと変わらない程度の価格になりますからね、中華麺を使った焼きそばも販売しましょう兄さま」



 いつもの学校へ行かないメンバーが揃っていきなり騒がしくなった。

 と言ってもさっきまではサクラがひとりで騒いでいたのであまり変わらない気もするが。

 サクラは亜人国家連合の物産展が忙しいということでさっきシバ王に拉致された。



「焼かないカップ焼きそばというものもあるんだぞ、クレア」


「えっ! 焼かないのに焼きそばなんて言って販売したら詐欺なのでは?」


「焼きそば風って感じなんじゃないか? 知らんけど」


「そうだ、兄さま。カップ麺のカップですが、やはり兄さまの言っていたリフィル形式にしようかと思います」


「それが一番だよな。陶器のマグカップを買ってもらって、味付け済みの中身だけ売る。各家庭でマグカップにお湯と一緒に入れて貰う方がコストも安いし」


「紙や木だとコストも重量も増えますしね。味付けしていない鍋で煮戻す即席麺タイプと、味付け済みでマグカップに入れてお湯を注ぐだけのカップ麺タイプの二種類で行こうと思います」


「焼きそば風も同じ麺で行けると思うから、あとでどんな仕組みか教えるぞ」


「わかりました。本当に焼かないんですよね?」


「鍋で煮るタイプはフライパンで作るから焼いていると言っていいのかもしれんが、カップ麺タイプは明らかに焼いてないぞ」


「ならカップ麺タイプの焼きそばを販売する時には、しっかりと『この商品は焼いていません』と説明しないとですね」


「そこまで説明する必要あるんかな……」


「当たり前じゃないですか兄さま! 焼いてない焼きそばなんて意味わかりませんし!」



 クレアが細かいのか、前の世界がそのあたり緩かったのかわからんが、たしかにこちらでは『焼いていないけど焼きそば』と言っておいた方が無難かもしれん。



「お兄ちゃん! ミコトちゃんとエマちゃんの服を買おうと思ってるんだよね。最近少し小さくなったみたいだし」


「年一回作ってるんだけどな。そうかー成長してるんだな。ふたりにたくさん買ってやってくれエリナ」


「「わー!」」


「でね、せっかくだから亜人国家連合の服で可愛いのが無いかなって」


「そうだな、家にはお下がりの服もあるけど、どうしてもデザインはあまり代り映えしないしな」


「そうなの! だからお兄ちゃんも一緒に探して!」


「わかった。じゃあ早速探しに行くか」



 全員が食べ終わったのを確認して席を立つと、矢絣模様の和服と袴を着たお姉さんがさっと食器を片付けてくれる。

 足元は編み上げのショートブーツで、明治、大正時代の女学生みたいな制服だ。馬〇道かな?



「あのお姉さんの来ている服って可愛いねお兄ちゃん! ミコトちゃんとエマちゃんにも似合いそう!」


「「かわいい!」」


「売ってるかもしれないし探してみるか」


「うん!」


「「わー!」」


 いつの間にか女学生の制服を着せられて働かされていたサクラに見送られ、フードコートを離れる。

 可愛い服を買ってもらえると上機嫌のミコトとエマが、いつものように仲良く手を繋ぎ、服屋を探しながらぽてぽて歩いていく。

 亜人国家連合の物産展は、アンテナショップを中心に数十件の商店や露店が並ぶ区画全体を使って行われているのでとにかく広いのだ。



「パパ!」


「ぱぱ! あれ!」



 娘ふたりが、目当ての店をみつけた! とばかりに指さす方向を見ると、大量の和服がショーウインドウに並べられている店があった。

 かなり高級そうだけど大丈夫かな? ちらりとクレアの顔をうかがうが、ニコニコしてるので大丈夫だろう。



「よし、入ってみるか」


「「「うん!」」」



 エリナと娘ふたりが駆け足で店の中に入っていく。もう完全に三姉妹だな……。



「クレアも何着か買うか。和風の服も似合うと思うぞ」


「てへへ、ありがとうございます兄さま。でも高そうですしミコトちゃんとエマちゃんだけで大丈夫ですよ」



 やっぱ値段は気にしてたんだな……。



「まあ入ろう。意外と安いかもしれないし」


「はい兄さま」



 エリナたちに遅れて俺たちも入店する。

 高級店らしく立派なガラス扉だが、よく考えたら箱物もうちが金出したんだよな。



「きゃー! 可愛い!」


「ねえ、お嬢ちゃんたちお姉さんにコーディネートさせてくれない?」


「ちょっと! あんた狐耳族でしょ! 換毛時期なんだからこんな可愛い子に触れちゃ汚い毛がつくでしょ!」


「ちゃんと毎朝ブラッシングしてるわよ! 猫耳族だって換毛期でしょ! 外で毛玉を吐き出してきなさいよ!」



 店内に入ると、ミコトとエマが五、六名の女性店員に囲まれていた。

 あと狐っぽい亜人と猫っぽい亜人が喧嘩してる。

 換毛期って大変なんだな。サクラの犬耳族は換毛しないから楽だって聞いてたけど。

 あと猫の亜人は毛玉を吐き出すの?



「パパ!」


「ぱぱ!」


「お兄ちゃん! なんか大変なことに!」



 各自思い思いの服を持って来てはミコトとエマに着せようと店員同士が威嚇し合ってるのだ。そりゃ怖いよな。毛玉も飛び出すかもしれないし。



「あの、申し訳ないがうちの娘たちから離れてもらって良いか? 怖がっちゃうだろ」


「「「すみません……」」」



 俺が一言言うと落ち着いたのか、店員たちはあっさりミコトとエマから距離を取る。

 店員たちの持つ服を見ると、やはりすべて和風の物だ。先ほどフードコートで見た女学生風の服などもある。

 お、この状況使えるんじゃないか?



「ミコト、エマ。今あの店員さんたちが持ってる服で気に入ったものはあるか?」



 はっと気づいた店員たちが、それぞれの持つ服をミコトとエマに見やすいように自身の体の前で広げる。



「うーん、どれも可愛い!」


「うーんとね、うーんとね」


「試着して気に入ったのを買ってやるから、とりあえず着てみたいのから順番に選んで良いんだぞ」


「じゃああれ!」


「えまも!」



 ミコトとエマに選ばれた服を持つ店員が、滅茶苦茶うれしそうな顔をして試着室へとふたりを連れて行く。

 随分鼻息が荒かったけど大丈夫かな……。



「そうだ、そこの店員さん。このふたりに浴衣を仕立ててやって欲しいんだが。下駄や巾着なんかの小物も併せて一式な」



 そういってエリナとクレアの背中を押して前に出す。



「「「この子たちも可愛い!」」」



 浴衣を持っていた猫耳の亜人がエリナとクレアを鼻息荒く拉致って行く。

 毛玉をちゃんと吐き出して来いよ……。

 いや、狐耳の亜人の単なる悪口かな?



「俺も甚平あたり作るかな」


「「「……」」」


「俺も甚平ほしいなー!」


「「「……」」」



 こいつら……。

 可愛い女の子にしか興味ないのか。

 甚平はほかの店で作るか。


 などと店員にスルーされていると、ミコトとエマが着物を着て出てくる。



「パパ!」


「ぱぱ! みて!」


「お父さん、娘さん最高に可愛いですよ!」


「たしかに最高に可愛いな!」


「えへへ!」


「やったー!」



 娘ふたりが滅茶苦茶可愛いな!

 これはもう購入決定だな。



「よし、これは買うぞ。次は何を着たい?」


「じゃああれ!」


「えまも!」



 結局ふたりは店員の持ってきた服すべてを試着して、すべてをお買い上げするのだった。

 意外と安かったけど、クレアに軽く怒られたのはご愛敬。



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