第二十五話 お出迎えの準備


 お忍びとはいえ、毎回前触れがギリギリってのは流石に文句言わないとな。

 非公式だから、楽士を揃えて音楽を流したり、国宝級の調度品をレンタルしたりという饗応の手間はかからないとはいえ、最低限の準備は必要なのだ。

 王族を迎えるほどの調度品はすでに売っぱらって公共事業の原資にしたからな。必要な時に都度レンタルするという方式にしたが、緊急に必要になった場合には手配が間に合わないこともあるしな。



「大手門まで迎えに行ったほうが良いのかな? どう思うクリス」



 ちわっこだけならそこまで必要は無いのだが、今回は非公式のお忍びとはいえ王太子の行啓ぎょうけいだ。最低限の礼を尽くさないとまずいだろう。



「いえ。アイリーンと数人の幹部に迎えに行かせればよいと思いますわ旦那様」



 割とこの手の礼儀作法というか貴族のルールにうるさいクリスが意外な返答をする。



「何故だ? 王太子だし、来年には即位してラインブルク王になるんだぞ。流石に不味くないか?」


「ぞろぞろと迎えの人間を並べると領民が興味を持って人だかりになるからですわ旦那様」



 そういやそうだった……。うちの領民はやたらと好奇心旺盛な上にお祭り好きだったわ。

 絶対何かのイベントか? って大騒ぎになるな。



「わかった。アイリーン、ちわっこと王太子は魔導ハイAで来るだろうから、先導できるようにこちらも魔導駆動車で行くように。もし領民が集まってきたら適当に言い訳して解散させておくように」


「はっ」



 アイリーンは目配せをすると、幹部数人を引き連れて会議室を出ていく。



「よしじゃあ俺たちは一番上等な応接室で迎え入れる準備をするか」


「「「はっ」」」


「あの……閣下」


「なんだ三人目」



 珍しく三人目が恐る恐る声をかけてくる。



「クレア様ご謹製三段重ね弁当がまだ余っているようなら王族の方々にお出ししたほうが良いかもしれないですじゃ」


「弁当はまだ余ってるけど、昼はもう過ぎてるから食べてるんじゃないのか?」


「馬車には慣れていても、独特の揺れがある魔導駆動車に慣れてないと酔いますからの。もしかしたらまだお食事をされてないかもですじゃ」


「なるほど。一応準備はしておくか」


「もしそれでも余るようでしたら……」


「わかったわかった。お前とお前の奥さん用に持たせる分はまだあるからあとで渡す」


「ありがとうございますじゃー!」


「おいベルトロ貴様ずるいぞ!」


「閣下わたしもクレア様のお弁当が欲しいです!」



 三人目に弁当を渡すと言うと急に周囲がざわつきだす。

 でもさ、お前ら家に帰ればまともな飯があるんだろ? 三人目はその……なんだ。まともな飯が用意されてないらしいから仕方がなくね?



「クレアから多めに渡されてるとはいえ弁当の数は足りないから、その代わりにおやつを多めに分配するからそれで我慢しろ」


「「「わーい!」」」


「良いから早く準備しろ、時間が無いんだぞ」


「「「はっ」」」


「あと王都へ報告する予定だった書類とかあればそれも準備しておいた方がいいかもな。直接書類を見せながら説明した方が早いし」


「ですわね。特に学園関係では毎回大量の書類を王都まで運んでおりますから」


「そのあたりの書類に関してはクリスが取りまとめておいてくれるか? 王太子たちがどれくらい滞在するかわからんから優先順位なんかの判断も頼む」


「ええかしこまりましたわ。それと旦那様、御召し物をお変えくださいませ」



 今着ている服は登城するのに用意したそれなりに上等なものなのだが、王族と面会するのは不当とクリスが指摘する。



「あーそうか。わかった。じゃあ済まないが着替えている間は頼むなクリス」


「はい。お任せくださいませ」


「お兄様! お着替えをお手伝いいたします!」



 ふんすふんすと上気した顔でシルが迫ってくる。



「アホか。お前騎士団長だろ。さっさと武装して警備の手配をしてこい」


「そういえばそうでした!」



 アホなシルは慌てて会議室を飛び出していく。あとはクリスに任せてさっさと着替えるか。

 クリスは領主会議というか城中にいるときは思いっきりめかし込んでいるからな。こういう事態に陥っても問題ない。

 シルとは違って常在戦場の心構えなのだろうか。貴族社会って少しの隙でも見せたら終わりって聞くしな。ファルケンブルクは緩いけど。


 城内にある自室に行き、女官に手伝ってもらいながら、以前凄い金額で仕立てた服へと着替える。

 未だにひとりで着られないんだよなこの服。滅茶苦茶重いし。



 <コンコン>



「もう着替え終わってるから良いぞ」



 入室の許可を与えると、女官が扉を開けるとクリスが入ってくる。



「旦那様、準備は整いました」


「わかった。じゃあ行くか」


「はい」



 ちわっこの弟、ジークフリートか。前回会ったのは一年以上前だったな。

 随分大人しくて自己主張の少ない子だったけど、どうなってるのかね。



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