第二十四話 防衛準備



「じゃあ帝国への防衛準備の件だな」


「はっ」



 アイリーンが音も無く立ち上がって側に控える女官に目配せをすると、参加者の前に書類が置かれていく。



「兵力がまだ十分ではないようだな」


「申し訳ありません。騎士百名はローテーションで常に備えるようになっているのですが、一般兵は収穫祭のために駆り出されている状況でして」


「まあそれはしょうがないな。収穫祭が終わるまでは特に警戒をしておけばいいか」


「義勇兵や傭兵も集まりが良くないのです」


「給料は良いし、働きによっては正規兵への登用もあるって説明してるんだよな?」


「はい。多分ですが、収穫祭が終わったら募集に応じてくるかもしれませんね。今採用されてしまうと収穫祭を楽しめませんから」


「のんきか」



 平和ボケしすぎじゃないのか? と思いつつも、今回の防衛強化はあくまでも不穏な動きをする帝国に対する備えであって、戦争準備でもなんでもないからな。



「ただ外壁は完成しておりますし、武器弾薬や食料品などの備蓄は予定通り進んでいます。缶詰も量産されたら試験的に導入も行いますが、現状では缶詰がなくても問題ないレベルで集積しておりますので」


「弾薬って。火砲まで持ち込んでるのか」


「常駐している魔法適性持ちが基本的には騎士百人しかおらんからの。魔法適性持ちが増援に行くまでは主に火砲で対応することになるじゃろうな。超音速魔導ミサイル発射台の設置も進めておるが、竜を狙う設定のままじゃし少し調整に時間がかかりそうじゃ」



 爺さんが俺とアイリーンの会話が途切れるタイミングで軍備の状況説明を始める。

 防衛兵器の主力である火砲や魔導砲、超音速魔導ミサイルなどの軍備に関しては魔導士協会へのウエイトが大きい。



「ミサイルは過剰攻撃になりそうなんだよな」


「じゃの。なので弾頭の開発も行っておるぞい。したがって超音速魔導ミサイルに関しては今のところ張子の虎じゃの」


「まあ狙いをつけずに適当に敵軍の目の前にぶっ放せばビビらせる効果はありそうだ」


「そうじゃの、空中で爆発させて爆音と閃光で敵をひるませる案もあるからの」


「むしろ対竜以外の超音速魔導ミサイルは全部それにしてもいいかもな」


「音響弾みたいなものは魔法で代替できるからのう……。大型の攻城兵器には有効じゃろうし、炸薬を詰めた弾頭は必要じゃと思うぞい」


「そのあたりは任せるけど、どれだけの弾頭をどれくらいの割合で配備するかとかの調整はアイリーンと打ち合わせしてくれよな」


「わかったぞい」



 ミサイルの飽和攻撃をすれば敵軍なんかあっという間に駆逐できそうだけど、大量殺戮はこちらも望んでないし、泥沼の戦争状態になるのは避けたい。

 民族問題なんかも起こりそうだから統治なんかも難しいだろうしな。



「帝国の動きは?」


「王都の方からは特に知らせは来ておりませんので外交交渉は特に進んでいる様子はありませんわね」



 俺の隣に座るクリスがやや暗めの表情で報告をする。



「なんでそんなに仲が悪いんだ」


「ラインブルク王国が建国時に彼らを追い出したという歴史認識ですからね」


「と言っても当時の帝国とは関係ない血筋の人間が統治してるんだろ?」


「ラインブルク王国ではそう言われておりますが、正確にはかなり怪しいといったところでしょうか」


「まあこちらからすれば実際に血縁かどうかは関係ないしな。正統性を担保するためだけの話だし。で向こうの兵力なんかの調査はどうだ?」


「こちらの間諜からの情報では、山脈向こうに橋頭保らしき施設を建設して兵力を集めているようですね」


「不穏過ぎるな。こちらを警戒した防衛施設なら良いんだけど」


「帝都からの鉄道敷設工事も始まっているようです。完成すれば前線へ大量の物資輸送が可能になると思われます」


「輸送力に関しては主力の輸送手段が未だに馬車のうちの方がかなり遅れてるよな。まあ防衛に徹するなら兵站は伸びたりしないからあまり影響しないだろうけど」


「ですが旦那様、侵攻側の輸送力が高ければ、潤沢に前線に兵力や物資を送り続けることが可能ですからね」


「そうなんだよな。鉄道が完成する前に外交的決着がつくのが一番なんだが」


「そこは王都次第ですわね。流石にわたくしたちには外交権は与えられておりませんし」



 じゃあとりあえず防衛準備だけは滞りなく進めてくれと締めの言葉を言おうとしたところ、会議室の入り口から一人の女官が少し慌てた状況で入ってくる。



「どうした?」


「旦那様、あれはわたくしの側近ですわ。少々お待ちくださいませ」



 クリスが席を立ち、入ってきた女官と小声で話をする。

 まさか帝国が動き出したとかか?

 会議に参加しているメンバーも緊張した面持ちでクリスとクリスの側近を見つめる。



「……旦那様、王太子殿下が行啓ぎょうけいされるとのことです」



 王太子? ああ、ちわっこの弟か。



「前触れも無しになんだって急に王太子が来るんだよ


「帝国の件でしょうか?」


「わからん。単に収穫祭の見物に来ただけかもな」


「流石にそれは……」


「まあとにかく出迎えの準備だ。どれくらいで到着予定なんだ?」


「一時間もかからないとの話です」


「マジか。謁見の間か? 応接室の方が良いのか?」


「非公式と思われますので、応接室にお通ししましょう」



 ちわっこといい、その弟の王太子といい、なんだって前触れも無しに勝手にうちにやってくるんだ……。

 緊急事態とかヤバい状況じゃなきゃ良いけど、とにかく出迎えの準備をしないと。



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