第十二話 餌をあげよう


 ミコトとエマは、夜間にも関わらず突然の呼び出しに応じてくれた三人目から雛の育て方、注意事項を説明されて、ふんふんとメモを取りながら聞いている。

 ミコトはもうエリナやクレアから教わって読み書きは問題ないし、エマも最近は少しずつ読み書きできるようになってきているのだ。

 俺たちも三人目の説明を聞いておくかと思い、エリナ、クレアと一緒に説明を聞いているのだが、ところどころで「ま、魔物じゃし頑丈じゃから適当で平気じゃよ」とか言っているのが気になる。

 飯も別に食わせなくていいとか言うレベルだからな。なんなの魔物って。


 三人目から説明を受けたミコトとエマは早速生まれたばかりの雛に餌を与えたいと言い出したので、すぐに準備をする。



「出来たぞミコト、エマ」


「「ありがとー!」」



 白米をメインに少し雑穀を混ぜた物をすり潰し、粥状に煮込んだあとに、体温ほどまで冷ましたものをふたりに渡す。

 ついでに、給餌用に作った匙も一緒に渡す。俺たちは双子だとわかっていたからあらかじめふたつ用意していたのだが、ミコトとエマは特に疑問に思うことなくそれらを受け取る。



「わざわざ手をかけなくても生米で平気ですじゃ」


「本当に魔物って扱いが雑なのな。だがそういうわけにもいかないだろ、今後は魔物じゃない雛を育てたりする機会があるかもだし」


「はいヤマト! ごはんだよ!」


「むさしはこっちね!」



 青いアホ毛がヤマト、黄色いアホ毛がムサシと名付けられたようだ。

 ミコトがヤマト担当、エマがムサシ担当なのかな。


 ヤマトたちはまだ目が開いていないので、口元まで餌を持っていき、口を開いた瞬間に餌を入れてやる。



「たべてる!」


「むさしおいしい?」



 もう真夜中に差し掛かる時間なのに、ミコトとエマはもちろん、ガキんちょも総出でふたりの餌やりを見守っている。

 動物の世話って未経験なんだよな。

 学園の片隅には飼育小屋と厩舎が建てられ、来週には兎や鶏、仔馬が来る予定だ。

 ガキんちょどもの反応を見ていると、授業に取り入れるのはやはり必要だろうな。



「いっぱいたべるねー」


「おなかすいてるのかな?」



 もっともっと! と言うように口を広げるヤマトとムサシに餌を与えまくるミコトとエマ。大丈夫なのかね?



「なあ三人目、餌ってどれくらいあげればいいんだ?」


「通常の初週の雛なら一回の食事量で六グラムから九グラムを一日三回。でも魔鳥だから適当で大丈夫ですじゃ」


「だから扱いが雑だって」


「パパ!」


「たいへんぱぱ!」


「どうした?」



 ミコトとエマが急に俺を呼ぶので、雛たちを見てみると、口から餌がはみ出ている。

 餌をあげすぎだ。



「もう今日の餌やりはこれで大丈夫ですの。明日の朝、先ほど与えた量の半分ほどを与えるといいですじゃ」


「へいきなのー?」


「おくちからでちゃってるよ?」


「というかヤマトとムサシは腹だけじゃなく喉までパンパンじゃないか……」


「魔物だし平気ですじゃ」


「扱いが酷い」



 ヤマトとムサシは、給餌の手が止まったのでもう餌をくれないのかと理解したのか、口からお粥を垂らしながらお互いに身を寄せ合って動かなくなる。



「ねちゃったのかな?」


「だいじょうぶなの?」


「大丈夫じゃよ」


「今日お前大丈夫しか言ってないだろ……。夜中に来てくれたことには感謝するけどさ」


「さあ、ミコトちゃんエマちゃん。ふたりもそろそろ寝ようね!」


「「はーい」」


「ガキんちょどももいい加減に寝ろよー。明日も学園あるんだからな」


「「「はーい」」」



 パンパンと俺が手を叩いて解散させ、三人目は夜食を食べたばかりなのでラスクをお土産に持たせて帰らせる。

 あと別れ際に、ヤマトとムサシは雌だと言われたんだが、女の子にしては随分勇ましい名前になってしまった。

 魔物だし頑丈だから似合ってると言えば似合ってるんだが、あの二隻ってあまり活躍してないんだよな……。

 活躍した金剛とか、もしくは鳥類由来で翔鶴とか瑞鶴の方が良くないかと思ったが、鶴じゃなかったら可哀そうか。といって飛龍はこの世界じゃハズレ扱いだし。



「パパ! ヤマトたちをおへやにはこんで!」


「雛は音に敏感だから、部屋じゃなくリビングの静かなところに置くって言っただろ」


「そっかー」


「さあさあ早く寝るぞ。明日も朝からヤマトとムサシの世話をするんだろ?」


「「そうだった!」」



 エマちゃんはやくねよ! とエマの手を握り、ぽててーと部屋に戻るミコト。お姉さんになったと思ったらもうヤマトとムサシの母親気分か。

 さて、巣箱の上に布を被せてから俺も寝るか。





「パパおはよー!」


「ぱぱ! おはよー!」


「お兄ちゃんおはよう!」



 翌日、起きたら部屋に誰もいなかったのでリビングに向かうと、ミコトとエマが巣箱に張り付いたまま朝の挨拶をしてきた。

 何時に起きたんだこいつら。まだ他のガキんちょどもは寝てる時間なのに。



「エリナ早いな」


「ミコトちゃんとエマちゃんに起こされてねー。クレアは今ヤマトとムサシのご飯を作ってるよ」


「じゃあそれが終わったら朝飯を作っちゃうか」



 巣箱を見ると、起きたのかミコトとエマに起こされたのか、ヤマトとムサシがぴーぴー騒がしい。

 目は見えないが、ミコトとエマの声に反応しているのか、声のする方に向かって歩いて行き、巣箱の壁にゴスゴス体当たりをしてて凄く元気だ。



「パパ! ごはんのときいがいもだっこしていい?」


「生まれたばかりの雛はあまり触らないほうが良いらしいんだけど、魔物だしそのあたりは気にしないで平気だと三人目が言ってたから抱っこして良いぞ。ただし優しく。あとずっと抱っこしててもヤマトとムサシが疲れちゃうだろうから、眠そうにしたり疲れてるようならすぐに巣箱に戻すんだぞ」



「わかったー!」


「わー!」


「おっと、雛の前で大きな声を出したらびっくりしちゃうから気を付けような」


「あっそうだった」



 やった! とばかりに、ふたりはそれぞれ雛をそっと抱き上げる。



「かわいーねみこねー」


「うんかわいい」



 ミコトとエマに抱っこされたヤマトとムサシは、嬉しそうにぴーぴーと鳴いている。



「しかしこんなアホ毛が雛のうちからある種類って初めて見たわ」


「アホじゃないよー」


「おりこうだよー」



 即座に娘ふたりから抗議の声があげられるのと一緒に、ヤマトとムサシも同じように「ピー! ピー!」と騒がしい。怒ってるのかなこいつら。



「アホ毛っていう名前ってだけで、ヤマトとムサシがアホって意味じゃないんだぞ」


「そっか でもかわいいよあほげ」


「うん。かわいい」


「「ピッピ! ピッピ!」」



 アホ毛を触ってみたけど、鶏みたいに肉質の冠状突起じゃなくてただの毛なんだよな。

 もうこれだけで鶏ではないのは確定した。

 というかヒヨコにはこんなアホ毛は無いし、そもそも黄色くてきれいなイメージがある。

 ヤマトとムサシは赤茶色でなんか小汚い色してるしな。



「「ピー! ピー!」」



 色々考えていると、ミコトとエマの手に乗せられたヤマトとムサシがまるで俺に抗議するように鳴き始める。



「え、なんなのこいつら」


「パパはヤマトとムサシにきらわれてるのかなー」


「ぱぱへんなことかんがえたでしょ」


「思考を読むのか? 魔物ならあり得そうで怖いな……」



 なるべくあまりこいつらの前で悪口を考えないようにしないと。



―――――――――――――――――――――――――――――――――


同時連載しております小説家になろう版では、十一章の水着イラストをはじめ100枚を軽く超える枚数の挿絵が掲載されてます。

九章以降はほぼ毎話挿絵を掲載しておりますので、是非小説家になろう版もご覧いただければと思います。

その際に、小説家になろう版ヘタレ転移者の方でもブクマ、評価を頂けましたら幸いです。


面白い! 応援してやってもいい! という方は是非☆評価、フォローをよろしくお願い致します!

つまらない! 面白くない! といった場合でも、☆1つでも頂けましたら幸いです!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る