第十三話 親
ヤマトとムサシが卵から孵って五日目。
ミコトとエマは、ヤマトとムサシが生まれた日からずっと甲斐甲斐しく二羽の世話をしている。
もうすっかり母親だ。
「パパおはよー」
「おはよーぱぱ」
ヤマトとムサシの飯を作ろうと、厨房に向かう途中のリビングでミコトとエマに挨拶をされる。
今日も誰よりも早く起きてヤマトとムサシの世話をしてるんだな。
ヤマトとムサシが昼寝をするタイミングでミコトとエマも昼寝をしてるから睡眠時間的には問題は無いんだが、流石に健康に良くないし困ってるんだよな。
「今ヤマトとムサシの餌を作るからなー」
「「……」」
「ん? どうした?」
「パパ、ヤマトとムサシのめがあいてるの」
大きな声を出しちゃいけないという言いつけを守り、ミコトは興奮を抑えて、ゆっくりと普段通りの声で話す。
エマは両手で口を塞いだ状態で、目が開いたばかりのヤマトとムサシをじっと見つめている。
「そうか。鳥はな、最初に見た物を親だと思うから、ミコトとエマはヤマトとムサシに親と思われているかもな」
凄くうれしそうな顔をしたミコトが声には出さずに「おー!」と大きく口を開け、ヤマトとムサシから目が離せないでいるエマにもそのことを伝える。
「「おいでー」」
ミコトとエマが巣箱の中のヤマトとムサシに手を出すと、ヤマトがミコト、ムサシがエマの手に乗る。
「「ピッピ! ピッピ!」」
「「かわいいー」」
「おお、意外とかしこいな」
「「ピー! ピー!」
「パパ、いがいとじゃなくてヤマトとムサシはかしこいんだよ」
「そうだよぱぱ」
「わかったわかった」
「「ピッピ!」」
ヤマトとムサシはミコトとエマの手の中でご機嫌に鳴いている。完全にふたりのことを親だと思っているようで、この日以降、どんどんミコトとエマに懐いていくようになる。
ヤマトとムサシはまだ飛べないのに、少しでもミコトとエマの顔に近づこうと、手のひらから肘の内側までちょんちょんと羽ばたきながら移動する。
二の腕が登れないから諦めたのか、肘と体の中の隙間に入り込もうと頭を突っ込んだりして、常にミコトとエマから離れない。
そして疲れると手のひらまで戻って寝てしまうのだ。
そんなヤマトとムサシを母親のように見守るミコトとエマ。
そしてそっとヤマトとムサシを巣箱に戻したミコトとエマも、ヤマトとムサシのように身を寄せ合って昼寝をするのだ。
「お兄ちゃん、ミコトちゃんとエマちゃん頑張ってお世話をしてるよね」
「そうだな。すっかり母親だ」
「学園にも兎と鶏、仔馬が来たんだっけ」
「ああ、生徒たちが一生懸命に世話をしてるみたいだな」
「あの子たちもヤマトとムサシを可愛がってたしね」
「ひとりだけヤマトとムサシを見て食欲が出た奴もいるけどな」
◇
「あー!」
ヤマトとムサシが孵化して十日ほど経過したある日。ヤマトとムサシの前では大声を出さないように気を付けていたエマが大声を出す。
「どうしたのエマちゃん」
「みこねー、ここにむさしが」
「あー、フンしちゃったんだね。ちょっとまっててね、いまふいてあげるから」
「ありがとーみこねー」
数秒ならばジャンプしながら飛べるようになったヤマトとムサシは、常にミコトとエマの手や肩に乗るようになった。
そしてエマの肩に乗っていたムサシが、エマの肩にフンをしてしまったようだ。
鳥って飛ぶために体を軽くする必要があるから結構な頻度でフンをするんだよな。
今までは巣箱の中でフンをしていたし、毎日ミコトとエマがオガクズを交換していたので問題にはならなかったけど。
「はい、きれいになったよエマちゃん」
「みこねーありがとー」
「どういたしまして」
「ねーぱぱ」
エマの肩についたフンをミコトが掃除する様子を「まーたイチャイチャしてるな」と見守っていた俺に、エマが話しかけてくる。
「なんだ?」
「ヤマトとムサシってフンをするばしょをおしえられるかなあ?」
「どうかな、ある程度フンをする場所を躾たり出来る種類もいるみたいだけどな」
「じゃあヤマトとムサシはかしこいからおぼえられるよね?」
「一応、教えてみてもいいかもな。でも出来なかったりしても叱ったりしたら駄目だぞ」
「わかった!」
早速ミコトとエマはヤマトとムサシを巣箱に入れ、「ここにフンをするんだよ!」と巣箱の片隅を指さして教え込んでいる。
ミコトとエマは、ヤマトとムサシと遊ぶ以外にも、いろいろなこと教えたり、言葉まで教えたりしている。
インコやオウムとは違う種類だと思うしヤマトとムサシは流石にしゃべったりはしないが、言葉はなんとなく理解してるんじゃないかと思うような素振りを見せている。
初めてのペットとして、魔鳥は意外と初心者向きなのかもしれないな。
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