第十四話 帝国の噂
クレアの豚角煮の調理も順調だ。
なんせあく抜きも煮るのも魔導圧力鍋のおかげで短時間で済むからな。
バカでかい器に山のように盛った豚角煮タワーともいうべきものを五皿ほど用意する。
煮卵もしっかり味が染みこんでて美味そうだが、あいつらに掛かったらあっという間に無くなってしまうだろう。
「さあリビングに持っていくか」
「はい兄さま」
完成した料理をマジックボックスに収納してリビングに向かうと、洗濯カゴを抱えたアイリーンと鉢合わせになった。
アイリーンは何故かメイド姿なんだけど、どういうことなのこれ……。
「あっ、閣下、これはミコトちゃんエマちゃんのお手伝いで洗濯物を一緒に取り込んでいたんです」
「それはありがたいけどその恰好は……?」
「閣下とシャルロッテ殿下がお召ということで服飾部に向かったのですが……その殿下に試着を勧められて……」
「断れなかったのか」
「ええ……まあ……はい……」
なんとも歯切れの悪い返事をするアイリーン。ひょっとして少し気に入ってるんじゃないのか?
頬を赤らめて恥ずかしがっているようだが、嫌ならすぐに脱げばいいんだしな。
「まあわかった。晩飯のあとに話をする予定だから一緒に食っていけ」
「はっ。ありがとうございます。ではこれを片付けてしまいますので」
「ああ。もうすぐに飯にするからな」
「はい」
そう返事をしたアイリーンは、何故かニコニコと洗濯カゴを抱えて女子の部屋へ向かう。やっぱ気に入ってるんじゃん。
中身は乾いた女子チームの服などだろう。畳むのは各々自分でやることになっているので、部屋にカゴごと置くだけでアイリーンの仕事は終了だ。
料理の前に食器を並べ始めると、時間通りに部活を終えたガキんちょどもが帰宅してきた。飯の時間はきっちり守るんだよなこいつら。
「お前らちゃんと手洗いうがいをして来いよ」
「「「はーい!」」」
「あとエリナ、なんでお前まで制服を着てるんだ?」
「えへへ! お兄ちゃんどう? 似合ってるかな?」
エリナの着ている制服はスタンダードな紺のセーラー服で、ミニスカートではなく膝丈くらいなのでちわっこの煽情的な制服より健全なのだが、エリナはもう二十歳なのに似合いすぎてて怖い。
「……似合ってるぞ」
「わーい!」
「エリナままかわいい!」
「ままかわいいよ!」
「「ピッピ!」」
ミコトたちもエリナの制服姿を絶賛する。
いやマジで似合いすぎだろ。もう健全だし制服はセーラーでいいかな?
「兄ちゃん! エリナ姉ちゃんに見とれてないで早く夕飯にしようぜ!」
「ああ、すまんすまん」
「ま、兄ちゃんの気持ちもわかるけどな!」
一号にニヤニヤしながら急かされたので、手早くテーブルの上に料理を並べていくことにする。
なんかむかつくな。
「お前ら全員揃ったかー?」
「「「はーい!」」」
「クレア特製の豚角煮は今出てる分しかないからな。タコライスはおかわり用のタコミートがまだ残ってるから、お代わり希望者は白米をよそった皿を持ってくるように!」
「「「はーい!」」」
「じゃあ食っていいぞ」
「「「いただきまーす!」」」
ガキんちょどもの挨拶とともに着席して、俺の席の前に置いてあるタコミートを山のように盛った巨大な器を見る。
どうせすぐなくなるんだろうなこれも。残ったらストックにしてタコスとかサラダに使えるんだけど。
「ママ! このおにくほろほろでおいしい!」
「くれあままおいしーよ!」
「ありがとうございますミコトちゃん、エマちゃん」
「俺は一緒に入ってる煮卵が好きなんだよなー」
「私もー!」
セーラー服姿のままのエリナが煮卵を箸で割り、片方を口に入れながら言う。
「お前もその制服汚さないようにミコトとエマみたいにエプロンつけたほうが良いんじゃないのか?」
「ぶー! こぼさないもん!」
制服を着ているからなのか、いつも以上に精神年齢がアレなアホ嫁を放置して飯を食う。
タコライスのお代わりの行列ができるだろうし今のうちに食べておかないとな。
◇
「西方の動きが怪しい?」
結局すべてのタコミートを食いつくされた後、俺とちわっこ、クリス、シル、アイリーンが応接室に集まっていた。
ちわっこが言うには、どうやらファルケンブルクの西側にある西ガルバニア帝国とやらの動きが怪しくなってきているのだとか。
「そう。山脈に隔たれているおかげで大規模な戦争とかは建国以来一度も無いんだけどね」
「民間交流はあるんだよな? 小規模だけど交易団も派遣してるし」
「そうだね、基本的にはお互い不干渉でやってきたんだけどね。二百年前に打倒したガルバニア帝国の残党が興した国だから、遺恨があるか無いかで言えばあるんだよねー」
「でも旦那様。西ガルバニア帝国は正統性も怪しいですし、むしろラインブルク王国が旧ガルバニア帝国を打倒したおかげで建国出来たとも言えます」
クリスがその帝国の正統性に言及するが、俺の世界でも怪しい出自の人間が過去の王朝の末裔を名乗って建国するとか当たり前だったしな。
「といっても建前でも旧体制の継承を謳っているのなら再統一って話が出てもおかしくないよな」
「でねお兄さん。帝国では産業革命に成功して、一気に国力を上げてきてるんだよね」
「蒸気機関車とかが走ってるのか?」
「蒸気機関車の開発に成功して、主要部に鉄道を敷く計画が始まったところみたい」
「輸送革命か。うちはまだそれが出来てないんだよな」
「それに気を良くした軍部が、皇帝をそそのかそうとしてるみたいなんだよね」
「うーん。戦争は絶対避けたいが。外交ルートはあるのか?」
「何年も前から交渉はしてるんだけどね」
「周辺国は?」
「元々ラインブルク王国はガルバニア帝国の縁戚だしね、だから周辺の小国も親戚みたいなもんだし静観じゃないかな?」
「外交に関してはちわっこに任せる。あとはそうだな……クリス」
「はい」
「西の平原の宿場町の防備を固める。それにあたってその防衛施設を任せるに足る優秀な指揮官に心当たりはあるか?」
ちわっこが広げている地図を見ると、ラインブルク王国と西ガルバニア帝国は山脈に隔たれているが、唯一、ファルケンブルク西方とは細い街道で繋がっているのだ。
過去ハンニバルがアルプスの山脈を越えてローマに侵入したように、軍隊が通れないような細い街道でも警戒しておかなければ。
「……現在は東の宿場町の代官をしておりますエルグランデ・グライスナーと、その息子セドリック・グライスナーを推薦いたします」
「お姉様!」
「ほう」
クリスが前領主だった自身の父親と兄を推薦する。
現在は東の宿場町の代官をしているが、それまでは政治犯として幽閉していたのだ。
登録証の機能で叛心が無いのを確認したので、閑職といえる東方の宿場町の代官とその補佐役として登用していたのだが……。
「あのふたりであれば、ファルケンブルクの領民のために命を賭して宿場町を守り抜きましょう」
「お姉様、でも!」
「アイリーンはどう思う?」
「よろしいかと存じます。あとは閣下のご判断かと」
「わかった。エルグランデとセドリックを西の宿場町の代官に任命する。また防衛部隊の指揮も併せて任せる」
「「はっ!」」
「お兄様!」
「心配するなシル。ふたりの働きぶりは報告を受けているが問題ない。責任は俺がとる」
「しかしお父……いえ、エルグランデとセドリックは一度お兄様に刃を向けた人間です」
向けたのは俺であって、向こうは悪政を敷いてただけなんだが……。
「だからこそ汚名返上の機会になるだろ。そもそも戦争にならないかもしれないしな」
「そこは頑張るよお兄さん!」
「任せた。こちらは向こうが戦争を仕掛ける気が起きないような規模の防衛施設を作る。そうすれば交渉にも有利だろ?」
「うん!」
キナ臭い話になってきたが、まずは帝国とその帝国側の勢力やらの調査を始めないと。
一応周辺諸国の内偵は進めさせてはいたし、そこまで脅威ではないという判断だったんだが甘かったようだ。
より詳細な情報を手に入れなければならなくなったな。
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