第十五話 缶詰


「なんじゃと! 西の宿場町の付近に要塞を建設すれば債務の半分を帳消しにしてくれるじゃと⁉」



 ちわっこから帝国の話を聞いた翌朝。

 いつものように朝食をタカりに来た爺さんに、ちょうどいいと西の平原に要塞建設の要請をする。

 ちなみに債権の件はアイリーンからすでに許可を取っている。

 アイリーン曰く、「一旦債務を全て帳消しにしてもよろしいのではないでしょうか? どうせすぐに債務を抱える体質ですからね魔導士協会は」と優しいんだか酷い事を言っているのか理解できないようなことを言っていたが、とりあえずは半額で話を切り出してみたのだ。



「そうだ爺さん。常駐する兵は騎士百名を中核に、一般兵、傭兵、志願兵含めて千人規模を考えているから、それなりの大きさが必要だぞ」


「ふむ。そこまでの軍備をするということはドラゴンの巣でも見つかったのかの?」


「帝国へのけん制だよ」


「なるほど、任せろ。帝国兵が近づいたらすべてを消し炭にするような兵器を並べればいいんじゃろ?」


「全面戦争になるから駄目だ!」


「何故じゃ! 攻めてきたのならそれなりの覚悟を持って来ておるわけじゃろ? 消し炭になることくらい相手も想定してるじゃろうが」


「してないしてない」


「近頃の兵士は軟弱じゃのう」


「そういう問題か? あと要塞建設に加えて缶詰の量産体制の確立だな。備蓄や戦闘糧食にも使えるし」


「試作はしておったじゃろが。トーマがブリキ製の缶詰は錆びるから嫌だとか言って開発を中止したじゃろ。中身が外気にさえ触れなければ品質に問題なんぞ無いんじゃぞ」


「錆びて穴が開くこと自体が問題だろがよ。錆防止用にスチール缶の内側にスライム材をコーティングすれば何とかならないか? 万が一食品に溶けだしても、あれ植物だし栄養は無いけど食っても問題ないって聞いたしな。なら口に入っても問題ないだろ?」


「ふむ。変質しにくい性質を持つ樹脂があるから試してみるかの」


「できれば缶詰の加工工場を亜人国家連合にも置きたいんだよ。だから魔力をできるだけ必要としない構造で機会を設計して欲しいんだけど」


「あそこは魔物が少ない土地だしの。わかったぞい。要塞建設と缶詰工場の件は任されたぞい」


「要塞は見た目だけでもいいからできるだけ早くな」


「わかったぞい!」



 ガツガツとチーズトマトオムレツを味噌汁で流し込んで食事を終えた爺さんが、律儀にヤマトとムサシの巣を掃除をしてから退室していく。

 毎日回収していくのは良いけど、あれっぽっちのフェニックスの素材を何に使うのかね。



「お兄ちゃん、チーズオムレツ美味しい?」


「美味いぞ。それに最近は綺麗にオムレツが巻けるようになったんだぞ」


「ふーん」


「おい聞けよエリナ。見ろ、中をとろとろの半熟に保ったまま作るのって大変なんだぞ。とろとろの玉子とチーズのマリアージュが最高なんだよ……ってエリナ聞いてるか?」


「「ピッピ! チーオム!」」


「うっさいぞ駄鳥」


「パパ! ヤマトとムサシだよ!」


「だちょうじゃないよ!」


「はいはい」



 騒がしい朝食を終えるとガキんちょどもと一緒に学園に向かうことになった。

 収穫祭まで一週間ということで、講義を全て中止して収穫祭の準備期間になったのだ。

 無論、収穫祭の出し物や帰宅部などのために特別教室を設け、それぞれ希望する講義を受けられるシステムなので、収穫祭を楽しみたい派、そんなことより勉強したい派の両方ともに評判が良いらしいのだ。

 婆さんの柔軟な教育指導方針は流石と言いたいが、ちょうど婆さんに話があったのでちょうどいいと、まずは学園長室で話そうということになった。

 家で話しても良いんだが、金の話になるので避けたかったのだ。



「じゃあお兄ちゃん、私たちは服飾部に行ってくるね!」


「最近ずっと服飾部に入り浸りだな。今日は他の所も回るから、婆さんと話が終わったら迎えに行くからな」


「わかった!」


「じゃーねーパパ!」


「ぱぱあとでね!」


「「ピッピッ!」」


「兄さま私は行かなくていいんですか? 特許とかのお話ですよね?」


「今回はクレアの魔導具とか関係ない部分だからな。エリナたちと楽しんで来い」


「わかりました兄さま。ではまたあとで」


「ああ」



 騒がしいのと別れ、すでに先に家を出た婆さんが待っているであろう学園長室に向かう。



「はい。どうぞ」



 俺のコンコンというノックに婆さんから入室の許可が出る。

 なんだろう、ちょっと緊張してきた。

 別に呼び出しを食らったわけじゃないんだが、「斗真君、修学旅行の積立金の話なんだけど……」と校長に切り出された話のことを思い出す。

 単に養護施設の先生が入金し忘れてただけだったので特に問題は無かったんだが、先生に積立金の話をするのがちょっとしんどかったな……。



「すまんな婆さん。忙しい時に」


「いえいえ良いんですよトーマさん。それで、生徒や部活動で新規開発した商品やデザインなどの特許料の取り扱いのお話でしたね。まあまずは座ってください」



 婆さんに促され、学園長室内に設けられた応接セットのソファーに腰掛ける。

 王族も招く可能性があるからと、酷く恐縮する婆さんをなんとか説得して購入した高級品だ。流石に座り心地が良い。



「でな、俺としてはできれば発明やデザインをした個人に特許権を与えたいと思ってるんだよな。就職に有利になるかもしれないし、収入的にも潤うだろ?」


「ええ、それは問題ありません。個人ではなく部活動としての活動での成果の場合の取り扱いや、またはファルケンブルクの方で特許の買取を希望した場合など様々なケースが考えられますが、基本路線はそれで良いかと思いますよ」


「団体での開発や、買取の場合は金額の算出が難しいんだよな。まあ権利料の割合なんかもあるんだけどさ」


「そのあたりは学園としては難しいところですね。お城の専門分野の方に公平に算出して頂くしかないですね」


「そうだよな。まあ算出した金額を提示したうえで、権利者本人と、学園からは婆さんが確認をしてくれるか?」


「構いませんが、学園側からも立ち合いを出すんですか?」


「学園側にも権利を主張できるケースもあるだろ? 学園の施設を利用して始めて開発できた技術だったり、部活動の顧問や講師陣のアドバイスがきっかけに商品化なんてこともあるだろうし」


「そう……ですね。あり得ますね」


「その場合は学園の権利部分に関しては学園の収入にしてほしいんだよな。義務教育制度のおかげで、貴族たちや領地の有力者からの寄付金以外では全部持ち出しだからな」


「そうですね、学園の運営には予算がかかりますからね」


「学園の生徒をバイトとして採用しているカフェテリアや官営商店なんかも、結構な利益を上げているんだけど、それでも全然足りない状況だし」


「学園の予算のほとんどはトーマさんの領主としての収入が充てられてるわけですしね」


「それは別に構わないんだよ。俺は俺で稼げてるからな。税収をそのままポケットに入れるくらいなら領地に還元した方がマシだし」


「ふふふっ。わかりました。基本的にはこの方向で、まずは学園側からの提案として纏めておきますね」


「頼む。次回の領主会議は収穫祭メインになるだろうからその次あたりが良いかな」


「はい」



 とりあえず問題なく話が済んで良かった。

 今のところ、部活動で著作権やらデザイン料が絡みそうなのは服飾部の作る制服あたりか?

 学園で採用した場合や、市場で流通させたい場合は、まあ買取になるのかなあ。流行とか一過性だしな。

 見えそうな丈のミニスカートだけは阻止するけどな。



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九章以降はほぼ毎話挿絵を掲載しておりますので、是非小説家になろう版もご覧いただければと思います。

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