第二十二話 缶詰の中身


 収穫祭を翌日に控えた今日、毎月開催されている定例会議に出席するために朝食を終えるとすぐに登城した。

 本来なら収穫祭の警備とか色々な議題をこなす予定なのだが、西ガルバニア帝国の対策も話し合うために長丁場になりそうなのだ。

 最悪晩飯に間に合わないとエリナとクレアに伝えてあるので遅くなるようなら先に食っておいて貰うので飯の支度の心配はいらない。



「じゃー始めるぞー」


「「「はっ」」」



 普段はおちゃらけているけど、最初と最後の挨拶は真面目なんだよな。こいつらなりの矜持とかなのかもしれない。

 仕事もちゃんとこなすし、有能だしな。



「旦那様、こちらです」



 俺の左側に座るクリスから書類を受け取る。

 今日は西ガルバニア帝国の議題もあるので、久々にクリスとシルも参加しているのだ。

 俺の右側に座るシルはすでに目を閉じて真面目な顔をしたままじっとしている。

 ぱっと見は瞑想をしている武人然といった趣なのだが、ただ単に寝ているだけだ。朝飯を大量に食っていたので眠気に襲われたのだろう。



「結構予算オーバーしているな。許容範囲ではあるけど」


「そうですね、学園関係の出し物や露店販売を追加で許可しましたので、その設営費などが増えております」



 収穫祭の予算関係の書類を眺めて突っ込んだ俺の言葉にアイリーンが返答をする。



「城の敷地を増やしまくったおかげで、収穫祭用に開放した土地も広くなりすぎてスカスカだったからな。特設ステージを複数設置したりしたけど、出展や露店が増えてくれてありがたいくらいだ」


「ですね。亜人国家連合やエルフ王国の方々にも当初の予定以上の露店を出していただきましたから、これでスペースはほぼ埋まりました」


「と言ってもフードコートスペースを増やしたりと結構無理やりだったけどな」


「十万人都市を目指す以上、拡張工事は必須でしたから」


「今でやっと五万人ってところだけどな。倍増するのはいつになるのやら」


「すぐですよ。それで閣下、イベントの件ですが」


「一般参加者がステージ上で歌を歌ったりダンスを披露したりするんだろ? プログラムとかは任せてるけど、あまり羽目を外さないようにな」


「はい。今季収穫した米の美味しさを広く喧伝するためにおにぎりの無料配布をと閣下のご意見ですが、露店での飲食物の売り上げに影響しないでしょうか?」


「米の美味さをアピールするのがメインだからな。具材の無い塩むすびと鶏五目むすびの二個セットをひとりにひとつずつ渡すだけだし。住民には引換券をあらかじめ配ってあるから、ひとりに何個も配るわけじゃないしな」


「たしかにそうですね。そのおにぎりをフードコートに持ち込んで、一緒に食べるための麺類やスープ類がかえって売れるかもしれません」


「ま、収穫祭中は店舗の賃料や燃料代は無料だし、機材も無償で貸し出ししてる。売り上げにも課税はしないから、そのあたりは納得してもらうしかないな」


「まだ米食に慣れてない領民が多いですしね」


「米料理を扱ってない店舗も多いからな、ここで一気に米食を流行らせたい」


「軍部ではほぼ米食に置き換わりましたが、兵たちには好評のようです。ただ……」


「ただ?」


「調理するのに煮炊きをする必要があるので、戦時においては炊煙の問題がありますね。食事の時間などを簡単に把握されてしまいますから」


「それは俺の世界でもあった問題だ、炊煙で奇襲がばれたり、竈の数で兵力を計算されたりな。主にそれを利用して劣勢を覆したって逸話が多いけど」


「米を使った戦闘糧食の開発は進んでいますので、試作メニューが完成次第お持ちしますね」



 米を使った戦闘糧食って缶に入った物かレトルトパックに入ったミリメシしか思い浮かばないな。

 あとは干飯ほしいいとかか?



「そういや缶詰の開発はどうなってるんだ?」


「その件なら儂じゃの」



 アイリーンの次席に座る爺さんが待ってましたとばかりに挙手をして発言の許可を求める。



「おう、どうだ?」


「内側にスライム材をコーティングした缶詰を試作して、食材を封入して調理してみたが全く問題はなかったぞい」


「おお、ならあとは量産する機械を作るだけか」


「いや、問題があっての」


「問題?」


「中にいれる食材などじゃの。中身によって加熱殺菌時間も変わるし、そもそも美味くなかったら意味がないじゃろ?」


「缶詰の中身のレシピか、そこまでは思いつかなかったな」


「じゃのでクレアの嬢ちゃんの力をまた借りたいんじゃよ」


「クレアに聞いておくが、亜人国家連合で生産する缶詰に関しては海産物とかがメインになると思うんだよな、クレアは魚介類の料理ってあまりしたこと無いと思うぞ」


「ならサクラの嬢ちゃんか、亜人国家連合の料理人の協力を取り付けてほしいんじゃが」


「わかった。情勢もどう転ぶかわからんから、早めに手配しておく」


「頼むぞい。缶詰を製造する機械はもう亜人国家連合の方に設置し始めても良いんじゃろ?」


「土地はすでに用意してもらってあるからな、あとで詳細な資料を渡す」


「了解じゃ」



 とりあえず缶詰の中にいれるメニューが完成するまでは蜜柑の缶詰とかを生産しておいて貰うか?

 亜人国家連合では蜜柑は高価ってサクラが言ってた気がするけど、加熱処理をする関係で酸味の強い果物じゃないと美味しくないんだよな。

 もしくは鯖の水煮とか調味の必要がない物ならレシピは必要ないかも。

 向こうでも色々試作してもらうか。



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