第二十一話 着せ替え


 新商品開発のためと言いながらカルルや工作部のガキんちょ連中はきゃっきゃと魔導ミニ四駆を走らせて遊んでいる。



「ちょっと楽しそうだな」


「兄ちゃんのいた世界だと当たり前かもしれえないけど、俺たちにとっては動く玩具って少ないんだよ。特にあんなに動き回る玩具は見たこと無いし」



 一号の言うことは確かにわかる。

 こっちではコマとか車輪の付いた馬車なんかの玩具はあるが、動力を持って動く玩具が少ないのだ。

 ゼンマイ駆動で動かすのがせいぜいだったから仕方がないんだがな。ゴムも貴重なんで、ゴム動力の玩具に至ってはほぼ皆無だし。



「一号は魔導ミニ四駆は流行ると思うか?」


「流行ると思うけど値段次第だと思うぞ兄ちゃん」


「現状だとどれくらいで市場に出せそうなんだ?」


「量産効果で銅貨五百枚くらいにはできるだろうけど、問題は魔導モーターなんだよな。魔導モーター単体で銀貨三枚ってところかな。あとは専用の魔力を込めた極小魔石も必要だけど、これはひとつ銅貨十枚くらいで半日は遊べるから安いとは思うけど」



 銅貨五百枚ってそれでも日本円換算で五千円くらいか。結構高いな。

 それにモーターで銀貨三枚って日本円換算で三万円だろ? 子どもの玩具にしては高すぎだな。

 もはや電池みたいな扱いになってきた極小魔石に関しては、供給が安定しているから値段は抑えられているのは良かった。



「おう、今日はトーマたちもおるんじゃな。アラン、試作した量産型の魔導モーターを持ってきたぞい」



 魔導ミニ四駆の値段について考えていると、大きな木箱を抱えた爺さんが現れた。



「爺ちゃん、ありがとうな」


「サイズそのままに出力向上を図ったモデルじゃ。魔石の消費魔力効率も上がっておると思うぞ」


「これ以上速くなったらもうあいつらじゃ追いつけなくなるな……。兄ちゃんの言う通りコースを作ったほうが良いのかな」



 一号が爺さんから木箱を受け取って中を確認しながら、ぶつぶつ呟いている。結構色々考えてるんだな。



「爺さん、西の要塞はどうなっている?」


「順調じゃよ。とりあえず外壁は完成したんで物資や防御兵器を運び込んでおるぞ。全てが終わるのは一ヶ月はかかるじゃろうが、現状でもそこそこの防御力はあるとおもうぞい」


「助かる。それと魔導エンジンや魔導モーターの研究状況はどうだ?」


「ぼちぼちじゃのう……。魔導エンジンの研究は停滞しておるが、魔導モーターの方は少しずつじゃが魔力や魔素の変換効率なんかは良くなっているの」


「魔導ミニ四駆用の魔導モーターをやたらと量産しているようだしな」


「とにかく試作数を増やしておるところじゃからの。小型の魔導モーターを有効活用できる玩具を考案してくれたおかげで無駄にならんし」


「性能にばらつきがある試作魔導モーターを市場に流すのかよ」



 魔導モーターを確認していた一号が、俺と爺さんの会話に入り込んでくる。



「兄ちゃん、ある程度性能にばらつきが出るのはしょうがないよ。それに、あえてそのばらつきを利用して、性能に応じて魔導モーターを種類分けして売ればいいわけだし」


「まるほどな。高性能なのは高値で低性能なのは安値で売るってことか。選別の手間はかかるけど、それなら性能にばらつきがあっても問題ないな」


「おう。現状だと、『ハイパーダッシュモーター』『ゴールドモーター』『ノーマルモーター』の三種類があるけど、この箱に入ってる魔導モーターの性能次第でもっと上のランクが必要かもな」


「世代を混ぜないほうが良いと思うぞ。『ライトダッシュモーター』とか『トルクチューンモーター』とかの方が受けそうだ。チューンしてるわけじゃないけど、回転数が高いモーターやトルクの出るモーターとか特性別に分けるのはありだと思うしな。平坦なコースだけじゃなく、起伏のあるコースとか作れば回転数だけじゃなくて高トルクのモーターも活かせるし」


「なるほどなー。さすが兄ちゃん。ちょっと考えてみるよ!」



 一号は俺に礼を言うと、さきほどからずっと一号に抱き着いているミコトとエマの頭をひと撫でして、魔導モーターの入った木箱を持ってガキんちょどもの方へ走っていく。

 早速新しい魔導モーターを試すのかな。

 なんだかんだあいつも楽しそうにやってるんだな。



「閣下」


「ん? セーラか」



 一号が走り去っていった方向を目で追っていると、後方からセーラに声をかけられる。

 セーラも爺さんと同じように木箱を抱えているんだが、また魔導モーターか?



「わー! セーラおねえちゃんだー!」


「せーらおねーちゃん!」


「ミコトちゃんエマちゃんこんにちは」


「「こんにちわ!」」



 早くもセーラに懐いたミコトとエマが、仕事に戻った一号の代わりなのか、セーラの腰に抱き着く。『セーラねー』じゃなく『セーラおねえちゃん』なのはまだ少し遠慮している証拠だが、多分そのうちに『セーラねー』になるだろう。



「「ピー! ピー!」」



 そして先ほどまでミコトとエマのポケットの中でいびきをかいて寝ていたヤマトとムサシが騒ぎ出す。

 まだセーラには慣れていないのか、少し威嚇をするように鳴きだすが、「ヤマトだめ!」「めっ!」とミコトとエマに怒られてまたポケットの中に入りこむ。



「ううっ。やはり陰キャな私は動物には懐かれないのでしょうか?」


「あの駄鳥はよくわからんから気にしないでいいぞ。それにしてもその箱はなんだ? 魔導モーターか?」


「いえ、魔導ミニ四駆のボディパーツですね。スライム材で作られているので軽くて頑丈ですよ」


「ボディパーツ?」



 箱の中を覗き込むと、魔導ミニ四駆の外装が入っていた。



「車体というかシャーシ部分がまだ高いですからね。ボディパーツを別売することによって、ひとつのシャーシと魔導モーターがあれば、色々な魔導ミニ四駆を着せ替えて楽しめるというわけです」


「どこかで見たようなデザインだらけなんだけど、参考資料そのままパクってないか? 超龍とか火龍とか雷龍のボディパーツが入ってるけど」


「分厚い雑誌の特集から参考にしたと聞きましたが、デザインに関してはよくわからないです」


「間違いなくコ〇コロだな。もっと新しい雑誌とか無かったんかな」



 ごそごそと探してみるが、俺の世代のボディパーツは見当たらない。というか他メーカーから出てたパチモンのデザインまでそのままパクってるんだな。



「今は異世界本の物を参考にしていますが、これからはオリジナルデザインのパーツも増やそうと思っています」


「それは良い心がけだな」


「いずれ魔導モーターで動くガン〇ラを!」


「俺の居た世界でもまだ部分的にしか動かせてなかったんじゃないかな? 流石に難しいと思うが」


「いえ、やります! やってみせます!」


「等身大で動かせるようになったら魔導砲ベースの携帯火器を持たせたいのう」


「良いですね!」


「ビー〇サーベルも既存の技術で何とかなると思うんじゃが」


「素晴らしいですね! 魔導士協会の技術力は大陸一ですね!」



 急に饒舌になったセーラと、それにつられた爺さんがやたらと張り切っている。

 等身大ロボットの機動兵器にロマンを感じてしまい、いつものツッコミができない状態だ。


 作れるのか? いや、技術的に無理だよな?



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九章以降はほぼ毎話挿絵を掲載しておりますので、是非小説家になろう版もご覧いただければと思います。

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