第二十話 魔導モーター


「お兄ちゃん、ここには誰もいないのかな?」



 工作部の敷地に入り、まずは鍛冶場にお邪魔しようとしたが施錠されていた。

 昼休みの時間はもう終わっているので、単に鍛冶場での作業が無いだけだろう。



「鍵が掛かっているからな。別の所じゃないか?」


「じゃあ行ってみようよお兄ちゃん!」


「そうだな」



 遊歩道のようになっている小道を、随分広い敷地だなと思いながら進んでいく。

 先ほどから大人しいヤマトとムサシは、腹がいっぱいになったからか、ミコトとエマのポケットの中に入って寝ているんだが……。



「グー」


「スピー」



 ミコトとエマに近づいて耳を澄ますと、あの駄鳥はいびきをかいて熟睡してやがるのだ。



「なんでヤマトとムサシはこんなに態度がでかいんだ」


「パンとやきとりをたべてねむくなっちゃたんだよ」


「そうだよ、おひるねなんだよ!」


「甘やかしすぎなんじゃないのか?」


「「そんなことないもん」」



 ミコトとエマが即座にヤマトとムサシを庇うが、あいつらはゲップはするわいびきかいて寝るわ、俺の頭皮をつつくわとやりたい放題なんだよなあ。

 口も悪いし、そりゃ人間に追い出されるのも無理ないわ。


 てくてくと遊歩道を歩いていくと急に視界が開け、グラウンドのような広場にガキんちょどもが集まって何かをしているようだ。



「お兄ちゃん、あの子たち何やってるのかな?」


「ラクロス、いやランドホッケーか?」



 ガキんちょどもはホッケーで使うようなスティックを持って、広場の中を走り回りながら何かを叩いているように見える。



「あれ? 兄ちゃん?」



 とりあえず広場に行ってみるかと歩いていると、ガキんちょの集団を少し離れて見ていた一号が声をかけてきた。



「あ! アランにーだ!」


「あらんにー!」


「おう。ミコトにエマ。飯食ったか?」


「「たべたー!」」


「そっか。ここには色々危ない物も多いから気をつけてな」


「「うん!」」



 一号は駆け寄ってきたミコトとエマの頭をさっと撫でながら言う。

 かっこいいじゃねーかこいつ……。



「一号、お前なんで学園に? 親父のところでまだ仕事中のはずだろ?」


「兄ちゃん、朝飯のときに話したろ……。今日はこいつらを見てやる日なんだよ。兄ちゃんだろ? 領主会議で、各部門から専門の講師を出してほしいって言い出したの」


「お前講師で来てるのか」


「今日は鍛冶をしない日だから俺が寄越されたんだよ兄ちゃん。まだ他人に教えられるほどできるわけじゃないけど、工作とかちょっとしたこと程度ならアドバイスできるかもしれないしな」


「なるほどなー。んで一号、今あいつらは何をやってるんだ?」


「ああ、あれか。魔導ミニ四駆の試作品だな」


「魔導ミニ四駆って。……まさかあのスティックって」


「ガイドスティックだよ。兄ちゃんの世界じゃ大ブームだったんだろ?」


「いや、あの棒使ってるやつなんて一度も見たこと無いぞ。第一あいつらの足じゃ追いつけないだろ。滅茶苦茶早いんだぞミニ四駆って」


「へー、でもあいつら凄くハマってるんだよな。人気出そうだからって商品化を計画してるみたいだけど、良かったら兄ちゃんもアイデアを出してやってくれよ」



 言われて広場のガキんちょどもを見ると、たしかに手のひらサイズのミニ魔導駆動車のような玩具をガイドスティックを持って追いかけまわしている。

 俺の世界のアレより相当遅いのか、子どもの足でも十分に追いかけられるスピードしか出ていないようだ。


 そしてあのガイドスティック。

 前の世界では実物を一度も見たことがないというか、俺が知ってるのはかなり後年になってからのブームだったので、すでに専用コースやコース内を抵抗なく走らせるためのローラーやら様々な特性を持ったモーターが数種類も売られていた世代だ。

 ゴールドモーターなんて知らん。俺は両軸モーターのPRO世代だからな。


 真っすぐにしか走れない魔導ミニ四駆をガキんちょたちは追いかけ回し、手に持ったガイドスティックで魔導ミニ四駆の進路を調整するのだ。

 滅茶苦茶疲れそうだな……。



「コースも一緒に作れよ。バンパーとかに付けるローラーもな」


「走り回りながら遊べるのが良いんじゃないか」


「あのスピードなら確かにそうかもな……」


「ただ魔導ミニ四駆に使われている魔導駆動モーターはまだ試作だから、もっとスピードが出るようになるってロイドのお爺ちゃんが言ってたからコースも作ったほうが良いかもな」



 魔導駆動モーターか。魔力や魔素を電力に変換とか色々試してるみたいだけど、段々形になってきたな。

 隣の帝国は蒸気機関車が完成したらしいし、こちらも有力な輸送手段を得ないと。



「にーちゃん!」



 ガイドスティックでの操作をミスしたのか、ガキんちょの一人が魔導ミニ四駆を追ってこちらに小走りでやってくる。



「おお! カルル! 俺の癒し! 半年ぶりくらいか? いや作中の時間だと三年くらいか?」


「なにいってるんだよにーちゃん! はずかしいし、わけわからないよ!」


「兄ちゃん、今朝も一緒に飯を食ったし昨日も俺たち一緒に風呂に入っただろ?」


「そうだっけか? まあいいや。カルル! 兄ちゃんと遊ぼう!」


「今ともだちと魔導ミニ四駆のテストしてるからダメ! じゃあねにーちゃん!」



 魔導ミニ四駆を捕まえたカルルは、逆方向に向けてそのまま走り去っていく。



「ああ、カルルがつれない……。昔はにーちゃにーちゃって甘えてくれたのに……」


「兄ちゃんカルルはもう七歳だぞ。あまりベタベタするのはやめたほうがいいぞ」


「反抗期かー」


「違うと思うよお兄ちゃん」



 エリナが冷徹に言い放つが、反抗期じゃないのにカルルが俺にあんな態度を取るわけがないだろう。

 まあいい。カルルとの関係はゆっくり修復していこう。

 まずは俺専用の魔導ミニ四駆を用意してもらって、カルルと一緒に遊んで仲良くなればいいんだよな。

 それに小遣いが少なかったから諦めてたけど、シューティングプラ〇ドスターが欲しかったんだよな実は。



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