第十九話 酒類は提供していません
サクラから手渡されたメニューを早速のぞき込む。早くメニューを決めないと……。
……。
一品料理には冷奴に枝豆、漬物、鶏ナンコツ、焼き鳥などの串物、だし巻き玉子などなど純和風の料理というかおつまみが並び、コーンバターやフライドポテト、から揚げ、ソーセージなどの定番もしっかり揃っていた。
もちろん学園内の施設なので酒類の提供はしていないんだが、なんなんだこの居酒屋メニューは。
メインというか定食のページを開くと、そこには前菜とはまた違った日本のファミレスメニューと変わらないほどの豊富なラインナップが揃っている。
「じゃあ俺はミックスグリル定食に……」
「お兄ちゃんミックスグリル定食大好きだよね」
「ハンバーグにチキンステーキ、ソーセージと色々食べられるからな。んでミックスグリル定食にチーズオムレツを追加トッピングして、ライスとサラダのセットにしてくれ。飲み物はオレンジジュースで」
「お兄ちゃんまたチーズオムレツを食べるの? 今朝も食べたよね?」
「好きなんだよ」
「かしこまりましたっ! お飲み物はお先にお持ちしますか?
「エリナたちはどうする?」
「じゃあ先に貰おうかな? ミコトちゃんとエマちゃんは?」
「「さきにのむー」」
「はいっ! すぐにお持ちしますので少々お待ちくださいねっ!」
サクラは俺たちからメニューを受け取ると、ぱたぱたとバックヤードに戻っていく。
俺の頼んだミックスグリル定食は、ライスもしくはパン、サラダ、スープ、ドリンクがついて銅貨五十枚と、日本円で約五百円という価格だ。
追加したチーズオムレツは銅貨十枚なので百円相当。合計銅貨六十枚で日本円換算で六百円相当。
滅茶苦茶安い。
バイト代は民間より少し良い程度の時給設定なので、地代がかかってない分安く抑えられているのだろう。
カフェテリアというかすでに居酒屋風のファミレスといった状態にはなっているが、流行創出のために赤字覚悟の官営ではなく、あくまでも学園の予算を獲得するための施設で、利益を出す必要があるので、この価格設定でもしっかり利益が出ているのだろう。
「そういやエリナたちは何を頼んだんだ?」
「焼き鳥つくね重セット!」
「わたしもー」
「えまもー」
「あっそ」
「ヤマトとムサシが外で食べる用に焼き鳥串とつくね串の単品をお土産で買ったけど、良いよねお兄ちゃん?」
「良いけどさ、あまり鳥に鳥を食わすなよ……」
◇
店内が混んできたので食事を終えるとすぐに席を立ち、明日にでもレストランと名前を変えようと決意しながらカフェテリアをあとにする。
料理は普通に美味しいし値段も安い。少々遠くてもわざわざ足を運んで来る客も多いようだ。
これなら赤字になるようなことはなさそうだ。
「ヤマトおいしい?」
「ピッピッ!」
「はいむさしあーん!」
「ピー!」
店を出ると近くのベンチに腰掛け、早速ミコトとエマがずっとポケットの中で大人しくしていたヤマトとムサシにお土産を与えてはじめた。
串を差し出されたヤマトとムサシは、器用にクイっと串からつくねを抜き取って食べているんだが、なんかムカつくなこいつらの食い方……。
「お兄ちゃん、午後はどこに行くの?」
「工作部だな。火を使ったりするし騒音もあるから、一般部室棟とは離れた場所にあるらしい」
「ミコトちゃんとエマちゃんのランドセルを作ってくれた部だよね? 楽しみ!」
「皮革製品だけじゃなくて、焼き物、木工、鉄工、魔導具なんかも扱ってるらしいけど、学生でそこまでできるんかね」
「アランも窯とか陶器とか色々作ってたからね、大丈夫じゃないかなあ?」
「一号はもう卒業したけど、工作部の中心メンバーはうちの男子チームだと聞いたな」
「へー、あの子たちも器用だからねー」
「家具とか炬燵とか色々な物作って好評だったからな。その事業も引き継いでるみたいだし」
「そうなんだね!」
「「ゲプッ! ピッピ!」」
……どうやらヤマトとムサシの食事が終わったようだ。食事を終えるたびに毎回ゲップをしてるんだけど品がないなこいつら。
「じゃあ工作部に行くか」
「「「うん!」」」
腹がいっぱいになって満足したのか、ヤマトとムサシはいつものミコトとエマの頭の上ではなく、ポケットの中にもぞもぞと入っていく。
工作部だから頭の上でも良いとは思うんだが、まあ流石にそこまでの判断は鳥の頭では無理なのだろう。
構わずミコトとエマを先導に工作部へ歩いていく。
「ミコト、エマ、その角を右に行くみたいだぞ」
「「はーい!」」
ぽてぽてと歩いていると、煙突付きの建物が見えてきた。
「お、あれかな?」
学園のパンフレットと見比べながら確認するが、たしかにこの場所で問題がないようだ。
煙突付きの小さめの戸建てに見えるがこれは鍛冶場用の建物で、奥にはまだ他の施設もあるらしい。
随分優遇されてるんだなと思ったが、男子生徒が多く所属する部活動らしく、更なる拡張も考えているらしい。
売上でも貢献してるみたいだしな。
ちょっと楽しみだなと思いつつ、俺たちは工作部の部室棟へと向かうのだった。
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