第五話 魔法


「あ、クズさんお待ちしてました」



 冒険者ギルドに入るといきなり罵倒された。

 くっそ、わざとやってるだろこの職員。



「頼むから名前で呼んでくれ」


「トーマさん、丁度講師の方がいらっしゃったので今からでもよろしいですか?」


「こちらは問題無いぞ」


「では奥の訓練場へお願いしますね。あと前金ですので」



 銀貨二十枚を払って奥にあるという訓練場へ向かうと、爺さんがすでに待ち構えていた。

 白い髭が地面につきそうなくらいに長い。

 あと高級そうなローブのようなものを着てる。



「儂が今回講義するロイドという者じゃ、お前さん達か? 全属性の<転移者>やら潜在魔力が高い平民というのは」


「トーマとエリナという。よろしくな爺さん」


「ク」


「トーマな」


「やるな若造」


「いやさっさと始めてくれ、二時間なんだろ」



 〇プカシを見ると十二時四十五分だ。

 アホなやり取りの分は勿論延長させる。



「まぁ良い。儂が丁度ここのギルド長に会いに来たタイミングとはおぬしら運が良いぞ」


「事務員も言ってたな。ま、二人ともまったく知識が無いんでそのあたりよろしく頼む」


「まかせろ。何しろ儂は相手の魔力を操作できる技能持ちじゃからな。一番最初の難関もこれで簡単に突破出来るという訳じゃ」


「ほー、それは本当に運が良かったみたいだな」


「じゃろじゃろ? じゃあ早速始めるぞ」



 そういうと爺さんは俺の頭に手をかざす。



「丁度腹の真ん中あたりかの。こう何か今までにないような力を感じぬか?」


「おお、確かに感じる!」


「それが魔力じゃ。ちとその力を操作してみよ。ぐるぐる回してみたり手の方に移動させたりとかじゃな」



 言われるままに腹に集まった違和感を操作しようと力を入れてみる。



「腹に力を入れたって駄目じゃ。魔力を操作するのに力は必要ないぞい。意思で動かすのじゃ」


「やってはいるんだけど中々難しいな」


「魔力の励起は終わったぞい。あとは少し試してみると良いぞ。次はお嬢ちゃんじゃな」


「よろしくおねがいします! おじいちゃん!」


「ほっほっ。可愛いのう! 儂の孫には女の子がいないのが残念じゃわい」


「お兄ちゃん聞いた!? 私可愛いって!」


「ちょっと待って、今それどころじゃない」


「ぶー!」


「じゃあお嬢ちゃん始めるぞい」


「はい!」



 爺さんがエリナの頭に手をかざす。



「おお、お嬢ちゃんは素晴らしい素質を持っておるな」


「ほんとですか! ありがとうございます!」


「うんうん、礼儀正しい良い子じゃの、ちょっと魔力量が多いから励起に時間がかかるぞい」



 爺さんがしばらくエリナの頭に手をかざしていると、エリナが急に騒ぎ出した。

 俺の魔力は全然動かない。



「あっおなかが変な感じ!」


「それが魔力じゃ。よし、魔力の励起が終わったぞい。そこのヘタレと同じようにその腹の魔力を色々動かしてみるんじゃ」


「はい!」


「突っ込む余裕が無い」


「あっ! すごいすごい、思い通りにあちこちに動く!」


「ほう、たしかに魔力が移動しておる。お嬢ちゃんは魔力操作の才能もあるんじゃな」


「え、マジで。俺全然動かないわ」


「魔力はイメージじゃ。自分の思い通りに動くものだと認識せねば動かんぞ」


「なるほど。おっ、ちょっと動いた!」


「確かに少し動き出したようじゃな。優秀だと教え甲斐があって良いぞ。よし、じゃあ一旦魔力操作は止めるんじゃ」


「はい!」


「ふう、意外と何とかなるもんだな」


「一度励起した魔力は呪いや魔力封じでもしない限り消えんのでな、常に体のどこかに仕舞っておくイメージで慣れておくんじゃ。そして魔力の発動じゃが、先ほども言ったように魔力はイメージじゃ。これから儂の使える初級魔法を全て実演するから、見てイメージを固めるのじゃぞ」



「まずは照明の魔法じゃ。これは白魔法じゃから二人とも属性があるな。照明ライト



 爺さんは掌を上にした状態で呪文を唱えると、光の玉がほわんと掌の上に現れる。



「これが照明の魔法じゃ。光量、持続時間は込める魔力とイメージで決まる。あとはこういう応用もある」



 そういうと爺さんの掌の光の玉が空中を自由自在に飛び回る。



「おじいちゃんすごい!」


「これで初級魔法か」


「ふぉっふぉっふぉ、すごいじゃろう! すごいじゃろう! さぁやってみよ。あと登録証の魔力量を確認して、どの魔法をどの程度の魔力量で使用するとどれだけ減るのかを常に確認するんじゃ」


照明ライト! わっ! 出た!」


照明ライト! 出ない......」


「イメージじゃイメージ。照明ライトでなくとも自分のイメージしやすい名前を呼ぶのも一つの方法じゃぞ」


「詠唱の必要はないのか?」


「んなもんないぞ。慣れれば魔法名を叫ばずとも魔法を発動させることも可能じゃ」


「エロイムエッサイムとか黄昏れよりもとか言わないで良いのか?」


「自分の魔力を行使するのにイメージ以外は必要無い。外部の魔力を使うエルフとかなら違うかもしれんがな」


「エルフいるのか......」


「逢ってみたいんじゃがの、エルフの国は遠い上にエルフ自体が排他主義らしくめったに人の前に姿を現さんのじゃ」


「<ライティング>! おっ! 小さいけど出た! 見てみろエリナ! ほら!」



 エリナを見ると、すでに馬鹿でかい光の玉をあちこち超高速で飛ばしまくってた。



「なあにお兄ちゃん?」


「なんでもない......」


「光の玉を消すのもイメージじゃぞ」


「あっ! 消えた!」


「むぅ、イメージか。なら閃光弾フラッシュバン!」



 掌に浮かんでた光の球がスマホのフラッシュのように一瞬大きな光を出して弾ける。



「おおおおおお、出来た! オリジナルで出来た!」


「お兄ちゃんすごい! すごい!」


「オリジナルじゃなく実在する魔法なんじゃが、知らずに出来たということはコツを掴んだようじゃな。なら次はこれじゃ」



 爺さんは懐からナイフを取り出し、自身の腕を傷つける。



「でじゃ、治療ヒール!」



 傷がみるみるふさがっていく。



「失った血は戻らないから傷をふさぐだけのものじゃがな。初級はこれが出来て一人前じゃ。じゃあ次は儂の腕につけた傷を治してみよ。とにかく今見た傷が塞がっていく状態をイメージするのが手っ取り早いのじゃ」



 爺さんはそう言ってまた自身の腕に傷をつける。



「おじいちゃん! すぐに治すからね! 治療ヒール!」



 みるみる傷が塞がっていく。そして爺さんはまた傷をつけた腕を俺に向けてくる。



治療ヒール!」



 だが爺さんの傷が治らない。

 ちっ駄目か、やはり昔養護施設のガキんちょどもと一緒に見た、再放送していたあのファンタジーアニメのイメージが強いのか。

 いや、あの某有名RPGゲームのイメージもある。

 しかしホ〇ミとかケ〇ルって色々まずそうだ。



「<リカバリィ>!」



 エリナ程のスピードではないものの、ゆっくりと傷が塞がっていく。

 傷も残っていないようだ。

 あとちょっと恥ずかしい。



「ほう、優秀じゃのう。この分なら二時間で応用を少し教えられるかもしれんな。では次に攻撃魔法じゃ。二人の持つ火からじゃの」



炎の矢ファイアアロー!」



 爺さんが標的に向かって十センチほどの炎の矢を放つ。



「そして込める魔力量によって矢のサイズや本数を増やすこともできる炎の矢ファイアアロー!」



 次に放たれたのは先程より三倍は大きい炎の矢が十本出現し、全てが標的にささる。



「更に炎の矢を一纏めにした応用編じゃ! 炎の槍ファイアランス!」



 長さ五メートル、直系二十センチ程の巨大な炎の槍が標的を吹き飛ばす。



「槍が出せればこれも使えるようになるぞい火球ファイアボール!」



 直径一メートル程の火の玉が放物線を描き、隣の標的に着弾すると同時に標的を燃やし尽くす。



「おおおお、やばい! かっこいい!」


「おじいちゃんすごい!」



 爺さんはその後各属性の魔法を次々に披露していく。

 すっごいノリノリで。

 俺とエリナはもう大興奮だ。



炎の矢ファイアアロー!」



 一通り初級攻撃魔法を見終わった俺達は実演に入る。

 エリナは一発で魔法の発動に成功する。

 こいつ天才か。

 そういや名前も似てるのな。

 髪の色は違うけど。

 あれ? アレに飲みこまれたら髪の色も一緒じゃね?

 でもエリナはストレートだしな。

 別人だ別人。



「<フレアアロー>!」


 

 発動したけど恥ずかしい。炎の矢じゃ発動しないのは何かの呪いか、もう完全にあのイメージなのか。



「<ファイア>!」



 あ、発動した。火力MAXにしたライターみたいな火だけど。



「<メ〇>!」



 ......握りこぶし大の小さな火の玉がぽよんって出ただけだ。ゲーム出展だとあまりイメージが沸かないのかな。



火球ファイアボール!」



 エリナが火球魔法を唱えると、バスケットボール大の火球が出現して標的を焼き尽くす。

 エリナは凄いな。これ初級でも難しい奴じゃないの?



火球ファイアボール!」



 出ない。

 やはりアレか。



「<ファイヤーボール>!」



 ぽふん! メラメラメラ


 出ました。

 着弾して焚火みたいになってる。

 かめ〇め波とか出せるんかな。

 周りに人がいる状況で絶対に試したくないけど。

 動画流出されたくないから、防犯カメラの無い所でこっそり試そう。


 一通り実演が終わると爺さんからアドバイスを貰う。



「トーマの方は初級攻撃魔法は一通り使えるの。ただ威力が低いようじゃ。照れをなくすことと反復練習で威力向上や、より難易度の高い応用魔法も発動できるようになるじゃろう」


「照れちゃうんだよな。どうしても」


「ネーミングに恥ずかしさがあるなら自分で発動しやすい名前を付けるとよいぞ」


「そっか、アニメのままだとどうしても照れちゃうからそれもありか」


「お嬢ちゃんの方は素晴らしいぞい。しばらく鍛錬を続ければ中級魔法も割と早く使えるようになるじゃろう」


「ありがとうございます!」


「中級、上級、更にその上と極めると色々な魔法が使えるんじゃ。例えば風魔法なら空を飛べるとかじゃな」


「まじか!」


「すごーい!」


「とはいっても魔力消費が多過ぎて、この国一番の使い手でも数分間空中に浮かぶくらいじゃがな。それでも体を軽くすることによってスピードを上げたりと色々応用が可能じゃ。実演してみせたいんじゃが、歳をとると魔力量がどうしても減ってしまうんでな、今の儂じゃ浮くことすらできないんじゃよ」


「なるほど、奥が深いな魔法って」


「そっか、だから院長先生は......」


「そろそろ二時間じゃな、これほど飲みこみの早い生徒は初めてじゃったよ。素質があっても魔力が励起できなかったり、魔力が励起できても魔力操作が出来なかったり、魔力を集めることが出来ても発動が出来なかったりと、中々魔法を扱える人間というのは少ないんじゃが、ここまで優秀なのは珍しいの」


「爺さんありがとう。たしかに講義料以上の収穫だった」


「おじいちゃんありがとうございました!」


「ほっほっほっ、本当は駄目なんじゃが、二人にはこっそり儂の本をやろう。儂が今まで使っていた魔法の一覧じゃ。イメージさえ掴めればおぬしらはどんどん上達するじゃろう。魔力量を増やすにはとにかく魔法を使いまくる事じゃ。体力と一緒じゃの」


「爺さん、助かるよ」


「ありがとうおじいちゃん! 私頑張るね!」


「うんうん。頑張るのじゃぞ。儂はここのギルド長に用事があるから失礼するが、ここの訓練場はあと二時間は使ってよいからの」


「爺さんありがとな」


「おつかれさまでしたー!」



 チ〇カシを見ると丁度十五時だ。

 爺さんちょっとサービスしてくれたんだな。

 っとそうだ、今丁度二人の魔力は0%だから回復にどれくらいの時間を計るのにちょうどいいな。



「エリナ、今丁度十五時だから、一時間後に魔力がどれくらい回復してるか確認しよう」


「わかった!」


「爺さんからもらった本を読みながら一時間待つか」


「そうだね!」



 上達すればレビ〇ーションとかレ〇ウイングとかも使えるのだろうか。

 でも属性の素質はあっても上位魔法は厳しいって言われたしな。

 ドラグ〇レイブは無理だろな、力を借りる存在がいないし。

 いないよな?


 ああ今企業の面接試験が受けられたら「特技は何ですか?」「イオ〇ズンです」って言えたんだが。

 いやまだ使えないけど。

 でもあれって閃光魔法だっけ? 爆発とか雷属性とか色々設定変わってるんだっけ?

 とアホな事をむむむと考えてると



「お兄ちゃん、変な事考えてない?」


「良くわかったな、すごいなエリナ」


「だってお兄ちゃんだもん。わかるよ」



 くっそ、何も言い返せない。

 仕方ないので黙って爺さんから貰った本を読んでいく。


 おお、剣に魔法をかけるなんて事もできるのか、これは是非習得したいな。

 ナマクラっぽいけど剣を手に入れたばかりだし。

 探査魔法......風の幕を十メートル四方に張って生物の侵入を感知するのか、応用で幕の強度を上げてバリアみたいにも使えると、なるほど。


 いやすごいな、これは一日じゃ読み切れないし、一つ一つ試してたら時間もかかる。じっくり少しずつ習得していくか。



「お、解毒魔法や病気の治癒魔法があるな」


「院長先生も昔は使えたみたいなんだけどね」


「そうか、だからエリナの病気を治すのにヨモギを取りに行ってたんだ」


「そうそう、帰ったら院長先生に教えてもらえるかも」


「そうだな、覚えたら念の為にガキんちょども全員に治癒魔法掛けてやるか。栄養足りないのは無理だろうけど」


「うん!」



 チプカ〇を見ると丁度十六時だ。



「よし一時間だ。俺は25%になってるな。エリナは?」


「私は10%だって」


「魔力総量がわからんからあくまでも目安だな。回復量は一定なのか個人差があるのかもわからん」


「でも一時間で10%だと今日中には回復しないね」


「寝たり何か食べたりすれば回復量は上がるかもしれないし、魔力回復ポーションみたいなものもありそうだな」


「そっか! 色々試してみようよお兄ちゃん! ってあれ? 私レベルが上がってるよ」


「本当だ、レベル5だったのに7になってる。魔法習得して上がったんだなこれ」


「凄いのかな? これ凄いのかな?」


「凄いんじゃないか? 6を飛ばしていきなり7だろ? これで15歳の平均程度にはなったんじゃないのか?」


「わーい! これでお兄ちゃんの邪魔にならなくて済むね!」


「邪魔なんて思ってないが、魔法をもっと使って、色んな魔法が使えるようになればもっと上がるだろうな。頑張れよ」


「うん! 私もっともっと頑張る!」


「ああ、そうだな。とりあえず買い物して帰るか。あとエリナの野外活動用の服と武器が欲しいな」


「武器?」


「採取に刃物があれば便利だし、いざという時にも安心だしな。ま、ナイフ程度でも無いよりはマシだろ」


「いいの?」


「安全のためだ。遠慮するな」


「うん! じゃあ早速行こう!」



 エリナに手を引かれて受付の前に行くと、丁度あの事務員がぼけーっと座ってたので声を掛ける。



「ちょっといいか?」


「はい、なんでしょう?」


「良い講師に教わることが出来たよ。ありがとうな」


「いえいえ、仕事ですので」


「で、あの訓練場って借りるのは可能か?」


「予定が入ってない限り貸し出し可能です。一時間銅貨百枚で、標的一本につき銅貨十枚です。原状回復していただけるなら地面を掘るような魔法を使っても構いませんが、あまり荒らされるようですと別途整備料金がかかります」


「わかった、魔法の練習をする時には借りるかもしれない」


「かしこまりました。予約も可能ですのでその際はお申し付けください」


「あと、簡単な武器や防具を揃えたいんだがお勧めの店はあるか?」


「こちらの地図を差し上げます。装備関係、薬品関係、道具関係など必要な店が書かれています。印のある店で登録証を見せるという恥ずかしい思いをすれば割引も受けられますよ」


「恥ずかしいって、そりゃ職業ヘタレだけども」


「銀色の登録証を見せた途端に塩対応になる覚悟もしておいてくださいね」


「冒険者ギルドの登録証はクズの証明って事だしな。気を付けるよ」


「はい、お気をつけて」


「ああ、ありがとう」



 エリナと地図を見て、まずは装備だなと武器屋へと歩いていく。

 地図を見ると武器屋の隣が防具屋のようだ、系列店かな?


 エリナのタグを見せてもらうと体力が45%になってた。

 体力無いなこいつ。

 まあ食事事情が改善されて体動かしてればそのうち体力もつくだろ。

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