第八話 天丼


 今日は先日収穫した新米を食べる日だ。

 実験で作られた早生の『太陽のこまち』ではなく、ファルケンブルクの土地にあうだろうと本格栽培した『コシヒカリ』だ。

 見た目の質はかなり良いそうで、試食したサクラは絶賛したらしい。


 これで病気になった時や食欲のない時はポリッジやリゾットの他におかゆという選択肢が出てくる。

 あ、でもガキんちょどもって風邪ひとつひかないんだよな。エリナが妊娠初期に少し食欲を落としたくらいか。それもメロンパンとクリームパン、スポドリで解決したけど。


 ということで、今日の夕食は新米をメインに、天ぷら、とんかつ、カツ煮、豚肩ロースの生姜焼きと完全に俺の好みで固めた。

 汁物は味噌汁を作りたかったが、ファルケンブルクでは大豆は油をとるのがメインで、加工食品としては扱われていないので、味噌や豆腐が無いから諦めた。昆布はあるけどわかめも無いしな。



「じゃあ俺は天ぷらを揚げちゃうから、クレアはカツと生姜焼きを頼む」


「はい兄さま」


「あと俺の天ぷらを揚げるところを見ておいてくれな。次回以降はクレアにレシピを改良してもらうから」


「任せてください兄さま!」



 海から距離があるために海産物が非常に高価なので、鶏天とかしわ以外は基本的に野菜の天ぷらがメインだ。

 昔は鶏天とかしわ天の区別がつかなかったが、某うどんチェーンが定義づけしたのでそれに倣おうと思う。

 すなわち鶏天は鶏もも肉の天ぷら、かしわ天は下味をつけた鶏むね肉の天ぷらとうちでは定義する。


 から揚げ、竜田揚げ、かしわ天、鶏天と、似たような料理に別々の名前がついているが、俺がそう決めた。

 そういやパンの耳ラスクもうちではラスクと呼ばれるようになってしまった。将来ぷげらされてしまうのだろうか。恐ろしい。


 鶏天、かしわ天の他には、ナス、玉ねぎと人参のかき揚げ、かぼちゃ、さつまいも、ピーマン。

 南米原産の野菜が何故かここにあるのはもうスルーする。異世界だし気にしたら負けだ。


 まずはこの日のために用意した竈と羽釜で新米を炊き始める。



「天つゆも作らないとな、大根おろしとショウガもおろさないと」


「兄さま、アランが作ったおろし器は使えそうですか?」


「試しに使ってみたが問題はなかった。というか鬼おろし器とか色々な種類のおろし器を作りやがったぞ一号は」


「アランは凝り性ですからねー」


「食い物関係になると更に凝るからな」



 クレアと話しながらじゃんじゃん具材を揚げていく。

 時々竈の火加減を調節しながらクレアと二人で手早く調理をする。



「兄さま、てんぷらって美味しそうですね」


「俺とサクラの分だけは、その天ぷらを米の上に乗せた天丼にしちゃうけどな」


「別々に食べるのとは別なんですよね」


「丼物ってのはそうなんだよな。乗せる乗せないで別物なんだよ。タレの染みた白飯と一緒に掻き込む感覚とか」


「お米に慣れたら私もやってみたいです!」


「海老とかホタテとかキスとか穴子があればもっと良かったんだけどな。新鮮なの海産物はほぼ不可能だし、マジックボックスや魔法を使った輸入方法だと恐ろしく高額になるし」


「でもいつか食べて見たいです!」


「ああ、チャンスがあれば食べさせてやるよ」



 クレアと話ながら料理を終わらせ、米も問題なく炊きあがったので、リビングに運んでいく。

 リビングに到着すると、シルや一号たちも手伝い、あっという間に料理が並べられた。



「いいかお前ら! 米は十分に用意したが、合わないと思ったやつには中華蒸しパンとパスタも用意してあるからな!」


「「「はーい!」」」


「天ぷらは天つゆか塩で食えよ! 天丼のたれも用意したから天丼にしたいやつはそれを使えよ!」


「「「はーい!」」」


「よしじゃあ食っていいぞ!」


「「「いただきまーす!」」」



 挨拶が終わったので、早速俺もと天丼の蓋をぱかっと取る。すると何とも言えない懐かしい香りが漂ってくる。

 早速がふがふとかっ込んで食べ、その味に感動していると、隣に座るサクラも同じように天丼をかき込み始めた。



「おふゅふぃんふぁま! ほいふぃーふぇふ!」


「わかったから口に物を入れてしゃべるな」


「んくっ! ご主人様美味しいです! お米も美味しいですし、天ぷらもすごく美味しいですっ!」


「亜人国家連合では一般的な食べ物なんだろ?」


「はい! でも亜人国家連合で食べる天丼より美味しいですよっ!」


「海老とか海産物が無いのがな」


「犬人国でも海老や穴子の天ぷらは中々食べられないですからね。たまに魔法で鮮度を保ったまま行商に来る人がいるくらいで」


「高そうだな……」


「亜人国家連合でも東端にある魚人国は海に面しているので、海産物はそこから送られてくるんですけどね。馬車で一ヶ月かかるので、どうしても値段が高くなっちゃうのですよ」


「ファルケンブルクからだと一ヶ月と一週間か。遠いな。マジックボックスを持たせて行かせるにしても中容量じゃ馬車一台分にもならないしな。なら大規模な隊商を組んで、魔導士数人で魔力を供給しながら運んだほうが効率がよさそうだ」



 などと考えていると、あっという間に天丼を食い終わったサクラが、鶏天とかしわ天をおかずに米を食べだしていた。



「ご主人様っ! 鶏天とマヨネーズの組み合わせ最高ですよっ!」


「わからんでもないけど、もう俺のことをマヨラー仲間として扱わないでくれる?」


「わんわんっ! なんでですか!」


「サクラ姉ちゃん流石だな! 鶏天、かしわ天とマヨネーズの組み合わせはマジヤバいよな!」


「ですよねっアラン君!」



 一号は「おう」っと返事をして、流れるような所作でマヨネーズのたっぷり入った器に、鶏天とかしわ天をドボドボとぶち込んで自分の席へ戻っていく。

 せっかく俺の席の近くにマヨネーズを置かないようにしたのに、マヨネーズを入れた容器ごと持ってくるとは思わなかった。

 というかもうおかずにマヨネーズをかけるんじゃなくて、マヨネーズにおかずを浸けて食べるとかヤバすぎだろあいつ。そろそろ注意するべきか。



「そういや米も結構受け入れられてるな」



 周りを見ると、普通に米を食べてるガキんちょが多い。カツ煮や天ぷらに天丼用タレを使えば好みの味になるようだ。



「わふわふっ! これならおにぎりも受け入れられるかもしれませんねご主人様っ!」


「具を肉そぼろとかハムで挟んだハムむすびとかにすれば受けそうだな。ライスバーガーもありか」


「ライスバーガーは犬人国でも流行ってましたよご主人様っ!」


「色々考えてみるか。大量に米を作っても食われないんじゃ意味ないし」


「はいっ!」



 何が受けるかなーとサクラと相談しながら晩飯の時間は過ぎていくのだった。

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