第二十三話 エビフライ


 爺さんが魔導士協会に戻ったあとは、いつも通りにおやつの時間を挟み、収穫祭の準備について話した。

 おやつの時間の際、いつもの三人が騒いだくらいで無事に領主会議が終わる。



「収穫祭の準備は各部門しっかりやっておくように。来月の会議は収穫祭直前になるから、会議の準備も含めて大変だと思うが頼んだぞ」


「「「はっ」」」


「じゃあ解散」


「「「おつかれっしたー!」」」



 最近調子に乗ってる連中をスルーして会議室を出る。どこの体育会系だ。


 サクラは婆さんと少し打ち合わせがあるとのことで、晩飯の買い物は俺ひとりで行くことになった。

 といっても今日はハンバーグの日なのでメニューを考えなくて済むので問題はない。

 早速買い出しのため、城を出て徒歩で市場に向かう。


 市場のある商業区域は区画整理で位置を変更したため、既存の店舗や露天商には任意で移動して貰うことになったのが、その際に移動に応じてくれた店主には税金の優遇措置、建物の実質的な無料提供などの移転推進策も同時に行った。

 肉屋の親父曰く「新しい店舗を用意してくれてありがたい。広くなったしな!」と喜んでくれたし、野菜売りのおばちゃんも、露店販売から実店舗を持った店に変わったのだが、「大きな倉庫付きの店舗を実質無料で貰った上に商品管理が楽になって売り上げも伸びたんだよ! 税金の優遇期間が終わってもこれまで以上に稼げそうだよ! ありがとうねお兄さん!」と言っていた。

 ただ、おばちゃんの店に関しては、店舗をほぼ倉庫みたいに使って、商品である野菜類を店舗前の露店で売ってるから、単にバックヤードが出来ただけって感じだろうな。


 買い物ついでに、市場調査というか、店の売り上げとかなどを聞いて回る。

 エルフが買い出しに来ることも増え、出稼ぎなどで移住してきた亜人なども商店を利用するため、物産展後でも売り上げは右肩上がりでよくなっているようだ。

 商品の売り上げが良いという割には物価もそれほど上がってないので、一応経済的には順調なのかね?

 ファルケンブルクでは平均給与所得が上昇傾向とのことなので、物価上昇がそれを上回らない限りは問題ないようだけど、そのあたりはもうアイリーンと財務担当官に丸投げである。

 素人が口出ししても意味がないどころか邪魔することになるからな。


 買い物などを済ませている間に、肉屋の親父に形成をお願いしていたチーズインハンバーグを受け取って帰宅する。



「パパおかえり!」


「ぱぱおかえりー!」


「お兄ちゃんお帰り!」


「兄さまおかえりなさい」



 帰宅すると、いつも通りエリナたちに出迎えられる。



「晩飯を作っちゃうか、婆さんとサクラもそろそろ戻るし、ガキんちょたちも学校が終わるだろうし」


「はい兄さま」



 早速クレアと厨房に移動し、晩飯の準備を始める。



「今日はハンバーグの日だからチーズインハンバーグを買ってきた。メインはこれだな」


「兄さま、付け合わせはどうしましょうか?」


「今日は珍しくスジエビっていう川海老を市場で見つけたんで、チーズインハンバーグとエビフライをメインにしようかと思う。いわゆるミックスグリルだな」


「海老ですか、珍しいですね。以前マリア姉さまが持って来てくれたのを食べたことがあるだけです」


「エルフが売りに来ているらしいな。聖なる湖で漁をしてるってのも凄いけど、最近外貨獲得のために働くエルフが増えたみたいだし良い傾向だ」


「魔導具を買って楽に生活をしたいっていうエルフの方は多いですね……」


「相変わらず動機はそこなのな。まあ良いんじゃね?」


「ですね、働いていることには違いはないですし」


「エビフライは俺が作るから、クレアはそれ以外を頼む」


「わかりました。では副菜に大根と鶏肉の煮物を作っちゃいますね」


「みりんが出回るようになってからはクレアの作る料理に煮物が増えた気がする」


「美味しいですからね。煮物にしちゃえばお野菜もたくさん食べられますし」


「酒造好適米の栽培量を増やすとサクラが言ってたからな、日本酒だけじゃなく、みりんなんかの流通量も増えると思うぞ」


「流行ると良いですね兄さま」


「正直現状でもまだみりんが浸透してないんだよな。みりんをつかったレシピなんかも店頭に置いてるんだが」


「料理酒としてならワインとかを使うのが一般的ですしね。それも庶民だとなかなかそういう料理酒を使った料理をする機会も無いですし」



 クレアと雑談しながらも料理の手は休めない。

 米から作った日本酒やみりんは官営商店でのみ扱っていて、正直赤字にしかならない価格で販売しているのだ。

 日本酒はそれでもだんだん売れ始めたが、みりんは余っている状態なので、みりんを使ったレシピを添付しているのだがそれでもまだ売れない。

 官営の大衆食堂やレストランでみりんをつかった料理のキャンペーンでもやるかな?



「まあみりんの流通は今度考えるとして、川海老は以前マリアが持ってきたのと同じ種類だし、味は問題なく美味いだろうし楽しみだな」


「あの子たちも喜んで食べてましたしね」


「前回マリアからもらった海老もエビフライにしたけど、タルタルソースを大量につけてたからエビフライの味わかんねーんじゃねーの?って連中が多かった印象だけどな。特に一号とサクラ」


「エビフライとタルタルソースの相性は抜群ですからね」


「ソースでも美味いんだけどなー」



 エビフライの本数は大体ひとりあたり三本か。一本はタルタル以外で食べさせるかなとアホなことを考えながら作業を続ける。

 まず川海老の頭を取り、殻を取る。尻尾の先端を切っておくことも忘れない。尖ってて食べるときに危ないし、内部に汚れや、水が入ってることもあるからだ。水が入っていると油跳ねの原因になるから、きっちり処理をしておく。怖いし。

 尻尾を切り取った海老に、水と片栗粉をまぶしてボウルに入れもみ洗いする。

 洗った海老の背ワタを取ったら、塩水で洗って下処理は終了だ。


 下処理が終わったら、海老の身に包丁で切り込みを入れ、真っすぐになるようにしたあとに軽く塩コショウで下味をつけ、小麦粉をまぶし、卵液に浸してパン粉をまぶして準備完了だ。

 凄くめんどくさいので、次回からはこの状態でマジックボックスにストックしておくかな。

 半日以上海老の下処理に費やすだろうけど。


 ジャーという音とともにどんどん海老を上げていく。加熱された油に海老を投入する際には少しへっぴり腰になっているのだが、クレアはちゃんとそのタイミングで眼を逸らしてくれているので、俺の威厳は保たれていると思う。多分。


 俺もかなり料理の手際が良くなったと思う。クレアは俺以上にどんどんレベルを上げてるけど。

 クレアが目を逸らしてくれているので、その間にどんどんエビフライを揚げていく。



「兄さま、終わりました」


「早いなクレア。こっちも今終わるぞ」



 最後のエビフライを油から引き上げ、油を切ってハンバーグの横に添えてメインディッシュの完成だ。

 タルタルソースと、念のためにウスターソースを入れた容器を添える予定だが、一号とサクラには最低でもエビフライの一本はウスターソースで食べさせよう。



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