第二十四話 繭


 今日の晩飯である、チーズインハンバーグとエビフライが完成したのでリビングに持っていき、テーブルに並べる。

 クレアの作った副菜の鶏と大根の煮物や、常備菜の鶏のから揚げなども並べていく。



「いいかお前らー。エビフライは一人三本でお代わりは無いぞー。ハンバーグも無いからなー」


「「「はーい!」」」


「エビフライにはウスターソースとタルタルソースを用意したが、少なくとも一本はウスターソースで食えよー」


「「「はーい!」」」


「特にサクラと一号は絶対にウスターソースを使うように」


「「えー」」


「よしじゃあ食っていいぞ!」


「「「いただきまーす!」」」



 食事前の挨拶が終わると同時にガキんちょどもががっつき始める。



「うめー!」


「エビフライおいしー!」


「やっぱタルタルだよなサクラ姉ちゃん!」


「そうですねっアラン君!」



 ガキんちょどもにエビフライは好評のようだ。

 相変わらず一号とサクラはタルタルをアホみたいに盛って食ってるが。


 淡水海老でもこれだけ好評なんだし、養殖とか考えても良いのかもしれない。

 エルフの猟師が持ってきたものなのだが、やはり市場で流通している豚肉や鶏肉と比較しても手が届かないほどではないが高価なのだ。

 スライムの養殖もやってるし、一緒にできないのかね。可能だけど単にエルフがめんどくさがってやる奴がいないとかってオチかもしれないけど。

 あとでマリアとエカテリーナに相談してみるか。



「「ピッピッピ!」」


「ミコトちゃんエマちゃん、今日はヤマトとムサシはいっぱい食べるんだね」


「うん! 今日はお外をたくさん飛んだからかなあ」


「いっぱいとんだもんね!みこねー!」



 そう言いながら、ミコトとエマは、ナイフとフォークで小さく切り分けたハンバーグをフォークに刺し、肩にとまってるヤマトとムサシに差し出している。

 ヤマトとムサシは凄い勢いでガツガツと凄いスピードでハンバーグをつついて食べまくっている。

 見た目はスズメサイズの小汚い鳥なのに、その体のどこにそれだけのハンバーグが入ってるんだ……。



「「ピー! ピー!」」


「あーうるさい。わかったわかった。俺のハンバーグも分けてやるから黙って食え」


「「ピッピッ!」」



 俺のハンバーグも貰えるとご機嫌を直したのか、俺がハンバーグを切り分けると俺の左右の肩にヤマトとムサシが飛び移ってくる。



「ほれ」



 フォーク二本を使って切り分けたハンバーグをヤマトとムサシに差し出すと、先ほどと同じくガツガツとついばみだす。



「「ピッピ!」」


「ミコトとエマは今のうちに自分の分を食べるようにな」


「「はーい」」



 最近のミコトとエマは、自分たちのことよりヤマトとムサシの世話を優先してるからな。

 少しは手伝ってやらないと。



「「ピー! ピー!」」



 ヤマトとムサシがフォークに刺したハンバーグを食べ終わったので、もう一切れ食べさせるかとハンバーグを切り分けていたところに、ピーピー鳴きだす。



「なんだ? 次は米を食いたいのか?」


「「ピッピッ!」」



 めんどくさいなこいつらと思いながら、なぜ意思疎通できるんだろうかという疑問が頭をよぎったがスルーする。

 言語変換機能の影響かもしれないな。完全な意思疎通とまでは言わないが、ある程度は影響してるのかもしれん。

 今度はスプーンで白米を掬い、ヤマトとムサシにそれぞれ差し出す。



「「ピッピ!」」



 こいつら雛の時から米を良く食うんだよな。最近は肉の比率が高くなってきたけど、それでも必ず米を食いたがる。



「「ゲプッ。ピー」」



 腹がいっぱいになったのか、ヤマトとムサシは鳥の癖に人の肩でゲップをしたあと、以前に三人目が用意した鳥カゴに向かって飛んでいく。

 態度悪すぎだろ。というか鳥ってゲップするんか?

 大きく膨らんだ腹で、よたよたと飛んでいくのはアホすぎるだろ、自然界でそんな事態に陥ったらすぐに捕食されちゃうだろ。野生のかけらもないのなあいつら。


 鳥カゴにたどり着いたヤマトとムサシは、器用に入り口を開けて中に入る。

 完全に扉の意味がない。あいつらは眠くなったら勝手に鳥カゴに戻るし、昼寝が終わったら自由に出てくるしな。



「ヤマトはもうおやすみなのかな?」


「むさしもいつもよりはやいね」


「すげえ食ってたからだろ。腹いっぱいになったら寝るとかもうおっさんだぞ」


「パパ! ヤマトとムサシはおんなのこだもん!」


「ぱぱ! おっさんじゃないよ!」


「そのうち酒とか飲みそうで嫌だな」


「のまないもん!」


「そうだよ!」


「はいはい」



 娘ふたりの抗議をスルーし、やっと落ち着いて食事をする。

 俺の食事が終わるころには、ミコトとエマを含めてガキんちょどもも全員食べ終わっていた。



「兄さま片付けちゃいますね」


「おう、食器は俺が持っていくから」


「お願いしますね」



 よっこらしょと立ち上がって食器をマジックボックスに収納していると、ミコトとエマが「パパ!」「ぱぱ!」とリビングの片隅から声をかけてくる。



「どした?」



 ミコトとエマの方へ行くと、ふたりが鳥かごを指さしながら



「たいへん! たいへん!」



 と声をあげている。

 ふたりが指さすその鳥かごを見ると、鳥籠の中いっぱいに繭が出来ていた。



「クリス、マリア、エカテリーナ」



 まだリビングにいた三人を呼び寄せ、鳥籠を見せる。



「繭……ですか……」


「クリス、知っているのか?」


「いえ、昔聞いた信憑性の無い話ですので」


「少しでもヒントになるかもしれないから知ってれば話してほしいんだが」


「そうですね、旦那様、まずはベルトロ卿に連絡を取ります。わたくしのそのお話をもっと詳しくご存じかもしれませんし」


「センセ! 私も魔物に詳しいエルフを呼んできます! たしかファルケンブルクに移住してたのですぐに連れてきますね!」


「トーマさん、ロイドさんもお呼びしたほうが良いかもしれません」


「頼む」



 クリスが三人目を、マリアが魔物に詳しいエルフを、エカテリーナが爺さんをそれぞれ呼びに向かう。



「パパ! ヤマトとムサシはだいじょうぶなの⁉」


「ぱぱ! へいきなの⁉」


「ちょっと待ってろ」



 鳥カゴの扉を開け、繭に少し触れてみる。

 魔力を感じるような気もするし、少し動いてる感じもする。何より温かい。

 何かに変態するのかな? さっきおっさん化するかもとか言ったが、もちろんそう意味ではない。



「パパ!」


「ぱぱ!」


「ああ、温かいし大丈夫だ。今専門家を呼んだし心配しないようにな」


「「うん!」」



 ミコトとエマが俺に寄り添い、心配そうに鳥カゴの中の繭を見守る。

 ヤマトとムサシは元々種類もわからないような魔物だったしな。死んだりはしないだろうが一体どうなるんだろうか。

 凶悪な魔物とかが生まれた場合、ミコトとエマの目の前で倒さないといけなくなるかもしれない。

 それだけは避けたいけどな。



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