第五十四話 チキンカツカレーと豆乳キャベツスープ


 アイリーンと晩飯の材料を買って家に戻り、早速厨房に入る。

 メニューはチキンカツカレーの予定だけど、昼飯カツ丼だったんだよな。俺もあいつらみたいに揚げ物が続いても平気な体になっちまった……。

 一応トンカツからチキンカツに変えてみたけど。



「兄さま、お昼のお弁当かつどんにしましたけどお夕飯もかつなんですか?」



 鶏むね肉に衣をつけている俺に、豆乳キャベツスープを作ってるクレアが聞いてくる。そりゃそうだ。

 昼にカツ丼を持たせたのに、帰ってきたら晩飯はチキンカツカレーを作るとか言われたらそら少しは心配する。



「アイリーンが急遽休みになってうちに泊まることになったからな。カレーを食べさせてやりたくなったんだよ」


「優しいですね兄さま」


「うっさい。そうだ、魔導士協会の爺さんがクレアに協力してほしいんだと」


「協力ですか?」


「米食が広がってきてるけど、米を美味しく炊けないって連中が多いんだよ。それで、クレアの炊き方が再現できる魔導炊飯器の開発をするんだと」


「私の炊き方でいいのですか?」


「クレアの炊き方が一番美味しいと思うぞ。おにぎり用に硬めに炊いたりとか料理に合わせて炊き方変えられるし」


「てへへ、兄さまほめ過ぎですよ」


「でな、売り上げの一部をクレアの収入にできるし協力してやってほしいんだ」


「協力は構いませんけれど、売り上げの一部とか私には必要ないですよ?」


「クレア自身で収入があったほうが良いだろ。弁当販売もクレア分の手数料も無い状態で全額孤児院運営に充てちゃってるし」



 クレアはただ働き状態だからな。十二歳だから職に就けないし仕方がない部分もあるんだが。

 クレアブランドの魔導調理器具なんか売り出したら、インセンティブというかパテント料が多分恐ろしい金額になると思うけど。



「うーんと。そうですね、家に入れられるお金が増えるというのは良いですね」


「クレア自身のために貯めておくんだぞ」


「姉さまだって兄さまと一緒に管理してますし、私も同じでいいです」


「エリナの分は俺が預かってる状態なんだが、まあそれでいいなら了解した」


「ありがとうございます兄さま!」



 クレアの収入凄いことになりそうなんだけど。

 開発に失敗してクレアの関与しない普通の魔導炊飯器に落ち着けばそんな心配はいらないけど、あいつらこういうことに関しては無駄に能力発揮するからなあ。


 なんやかや料理も終わり、リビングへと運んでいく。

 いつものように巨大な寸胴でカレーを作ったのだが、煮込んでる最中のカレーの匂いでガキんちょどもが大騒ぎだ。

 あっという間に人気メニューになったな。流石インドからイギリスに伝わって、そこから日本に入ってきた国民食。言っててよくわからん。



「じゃあ食っていいぞー」


「「「いただきまーす!」」」



 エマを寝かせてる簡易ベビーベッドを挟んでエリナの隣に座る。

 二日目のカレー状態でマジックボックスにしまいたいんだが、作るたびにガキんちょどもに全部食われるから、我が家では二日目のカレーが存在しない。

 ストック用に別の寸胴で作ったりはするけどな。



「カレーおいしいねお兄ちゃん!」


「エマが大きくなったら辛いカレーも作るからな。辛いのが好きならそっちも美味いぞ」


「楽しみ!」


「念のために豆乳キャベツスープも一緒に食べてスパイスの刺激成分を中和させておけよ」


「うん! このスープもすごく美味しい!」



 エリナがカレーを食べた後でもエマは特に嫌がる様子もなく、離乳食の割合も増えてきたので、エリナもカレーを普通に食べるようになった。

 と言ってもうちで作るカレーは甘口だけだ。エリナも大好物だと言ってたし、エマに影響が無いのなら食べさせてやりたいしな。



「閣下、とても美味しいです」


「カレーは外じゃなかなか食えないからな。腹いっぱい食ってくれ。ただでさえアイリーンは働きすぎなんだから」


「ありがとうございます」


「ご主人様っ! チキンカツを一番美味しく食べるのはカレーの上に乗せた時だと思うんですっ!」


「いきなりわけのわからんことを言うなサクラ。あと百六十キロで投げられるようになったのか?」


「まだまだなのでお腹いっぱい食べてパワーアップしようと思いますっ!」


「おうそうか。頑張れよ」


「はいっ!」



 ざぱっざぱっと流し込むようにカレーを食べるサクラ。ちっこいのに食べ方は豪快だし、ひょっとしたら百六十キロの剛速球が投げられるようになるかもな。父親が素手で地竜をどつきまわせるし。



「兄ちゃん!」


「一号お前うるせー! サラダにマヨは無いぞ! 大人しくノンオイルドレッシングで食え!」


「違うんだってば兄ちゃん!」


「なんだ? 言ってみろ」


「魔導士協会の爺ちゃんが来たぞ」


「ようトーマ。すまんの儂の分まで」



 一号に連れられて爺さんがやってきた。飯時にしか来ないのはいつも通りだが。

 というかセリフのやり取りを飛ばすなよ。「すまんのう飯時にお邪魔して」「いいさ、爺さんも食って行けよ。今用意させるから」「すまんな儂の分まで」だろ。

 完全に食う前提で来てるじゃねーか。



「兄さま、ロイドさんの分を持ってきました」


「誰だロイドって」


「儂じゃが……」


「まあ食え爺さん。魔導調理具の件だろ? 随分早いじゃないか」


「善は急げというじゃろ? あと今日はアイリーンがおるからここでしか食えない物出すと思っとった」


「なんか微妙に腹立つけど、まあいいさ。好きなだけ食って行ってくれ」


「ふぉっふぉっふぉっ。なんだかんだ甘いのトーマは」



 善は急げってことわざは原典は仏教用語だっけ。言語変換機能の変換基準が良くわからん。

 こっちの世界でも似たようなことわざがあるのかもしれないし、「いただきます」のように<転移者>が持ち込んだ可能性もあるしな。

 今度暇なときにでも色々試してみるか。いきなり言語変換が機能しなくなる可能性も考えたら怖くなってきたわ。

 こっちの言葉を覚えようと思っても自動的に変換するから現地語自体が認識できないし、文字も同様だしな。


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