第五十五話 今更だけど言語変換機能ってどうなってんの


「じゃあ悪いけどクレア、爺さんと一緒に厨房で白米を炊いて貰えるか?」


「わかりました兄さま」


「すまんのうクレア嬢ちゃん」


「すまないアイリーン、一緒についていってもらえるか? クレアの技術がどれくらい魔導具で応用されているかの基準的なものが知りたい」


「パテント料の割合にかかわりますからね」


「今後の魔導調理具の基準にもなるだろうからな」


「お任せください」


「休暇なのに済まないな」


「いえ、睡眠魔法で強制睡眠させられるまでは結局書類整理などをしてしまいがちですので」


「爺さん、こんなワーカーホリックなんだけど治癒魔法で治るかな?」


「無理じゃ」


「まあそうだよな」



 強制睡眠中なら効くかもとクリスが治癒魔法かけたけど全く効果が無かったしな。状態異常でもバッドステータスでもなく、仕事人間のアイリーンが正常だということだ。

 ならもう睡眠時間の確保だけはきっちり取らせないと。


 クレアと爺さん、アイリーンが厨房へ行く。

 米はどれだけ炊いても炊きたててマジックボックスにストックできるし、クレアの腕前ならあり得ないが、万が一炊飯に失敗しても雑炊とかいくらでも使えるからバンバン実験してくれと言ってある。



「お兄ちゃん、クレアの魔導具できると良いね」


「多分あいつらならやるぞ。どこまでクレアの味に近づけるかはわからんが」


「クレアはお仕事にまだ就けないから、少し気にしてたみたいだしね!」


「弁当販売とか孤児院の経営、予算管理に加えて家事全般してるんだぞ。今まで家事を手伝ってたガキんちょが学校行くようになったから一人で。クレアが一番働いてるわ」


「そうなんだけどね。お兄ちゃんありがとうね!」


「ありがとうか、そういや言語変換機能の件があったな」


「げんごへんかんきのう? かんじふぉんととかお兄ちゃんが言ってた件?」


「漢字フォントはまた別だけど、現地の言葉と俺のいた世界の言葉を自動的に変換してるんだよ。俺の頭の中でな」


「お兄ちゃんがたまに変なことを言うのはそういう理由だったんだね! よかった!」



 違うぞ嫁。それは俺の病気だ。



「まあそれでちょっとエリナに付き合ってほしいんだが」


「いいよ! 面白そう」


「『ありがとうオリゴ糖』」


「いえいえ!」


「今俺がなんていったかわかるか?」


「? 『ありがとう』って言ってたよ?」


「なん……だと……。『オリゴ糖』は?」


「おりごとう?」


「オリゴ糖って二十世紀に入って見つかったんだっけ? 異世界本で伝わってても製造されてなかったり別名をつけられてる可能性はあるな。 じゃあエリナ『グラニュー糖』って知ってるか?」


「お砂糖の事だよね?」


「あれ? なら『上白糖』は?」


「お砂糖」


「『砂糖』」


「お砂糖」



 ちょっと変換雑じゃないか? ファルケンブルクの砂糖は白いのと三温糖っぽいのの二種類しかないし。あ、黒糖もあったっけ。



「じゃああれか、しりとりかな」


「しりとり! やる!」


「じゃあ『ゴリラ』」


「ごりら? お兄ちゃんごりらってなに?」



 あ、そうか俺も生息域とか知らないけど、この辺りじゃいないのか。ゴリラが出てくる本も無かったしエリナが知らない動物ならそうだろうな。



「ゴリラってのは筋肉ダルマっぽい動物だな。じゃあ次は『いちご』」


「卵!」


「へ?」


「苺のあとでしょ? なら卵」



 えーと? ストロベリー? エーアトベーレン? あ、エーアトベーレか。あれドイツ語圏なのかここ。

 でも以前にケーゼクーヘンとかって言っても通じなかったよな? ガキんちょどもはケーキを知らなかったんだっけ。

 なるほど、わからん。



「じゃあしりとりじゃなくて、ことわざはどうだ?」


「ことわざ? いくつか知ってるけど」


「『善は急げ』は知ってるか? 意味も含めて」


「知ってるよ? えーとね、良いことはすぐにやろう!」


「あってるな。同じく仏教系のいただきますも一般的だし。なら『四面楚歌』」


「しめんそか? うーんわかんない」



 流石に故事成語は駄目なのか? まあわかる気がする。サンドイッチは挟みパンみたいに変換できても、意味が複雑になると変換しきれないとかなのかね。

 四方を敵に囲まれている状況、とまでは理解できたとしても、楚の歌を歌った理由とか結果とかまでは伝わらないだろうし。そもそも楚ってなんだって話になるしな。戦国時代の国の名前まで出てくるめんどくさい言葉は変換したくないみたいなことなんだろうか。

 砂糖の変換も雑だったし、めんどくさいってのは意外と正解かもしれん。あのアマのことだし。



「じゃあことわざじゃなくて、面白いギャグを言うぞ」


「うん!」


「『いきなり出てきてごめーん。誠にすいまメーン』どうだ?」


「意味わかんない。つまんないし」



 韻を踏むギャグはやっぱ無理か。まあしりとりが駄目だった時点で予測はできたけど。

 こんなに面白いギャグが通じないのは残念すぎる。

 そうするとあの最高に面白いコンビ芸人は<転移>したら大変なことになるぞ。



「うーん。色々試してみたけどよくわからんな。というか今までよく生活できてたな」


「お兄ちゃん前はご飯の挨拶のときいつも何か言ってたよ?」


「引っかかってたのは『いただきます』だけなんだよな。しりとりみたいな言葉遊びとかはしたことなかったから気づかなかった」


「そういえばお兄ちゃんが来てからしりとりってしたことなかった気がする」


「絵本読んだり玩具で遊んでたけど歌は無かったな。ガキんちょどもは飯時以外はおとなしいし」



 歌に関しては完全に吹き替え版みたいに聞こえてたから全然気にならなかった。口パクも合ってるように見えてたし。内容も簡単なのばかりだしな。

 結局言語変換機能のことはわからなかったけど。

 言語変換機能がいきなりなくなったときどうするかな。気にし過ぎかな? でもヘタレだし仕方がないだろ。

 現地語を自動変換しちゃうから現地語として認識できない以上、習得することさえ無理なんだし。

 そうなってくると流石に怖くなってくるな。



「お兄ちゃん、なにかわかった?」


「何もわからなかった。言語変換機能が使えなくなったらボディランゲージしか無いな」


「私はお兄ちゃんと話せなくなっても、お兄ちゃんが今どんな気持ちかわかるよ? だから心配いらないよ!」


「……そか。そうだよな」


「うん!」



 だよな。俺も言語変換機能がなくなっても何とかなりそうな気がする。

 流石エリナ、俺の理解者だ。

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