第十七話 豆乳カルボナーラとチーズトマトカレーリゾット


 料理が完成したので、マジックボックスに巨大鍋を六個と普通サイズの鍋一個を収納してリビングに向かう。

 ガキんちょと大人併せて二十人ちょっとなんだが、本当にこの量食えるのか? と毎回思うが、事実無くなるんだから仕方がない。



「お兄ちゃん、手伝えなくてごめんね!」



 リビングに入ると炬燵に入ったエリナがエマをあやしていた。



「何言ってんだ、エマの世話の方が大変だろ、気にするなっての」


「えへへ、ありがとうお兄ちゃん」



 三十人で囲んでも余裕があるほどの巨大なテーブルに、まずは特製巨大魔石コンロを等間隔に六個並べ、俺とエリナ、クレアが座る付近には通常サイズの魔石コンロを置く。

 魔石コンロの上にトマトカレー鍋、豆乳鍋と交互に置いていき、俺の前の魔石コンロの上にはトマト鍋を置く。


 クレアもマジックボックスから白飯の入ったおひつや、副菜としての常備菜、調味料などをどんどん並べていく。

 マジックボックス便利過ぎだな。



「ご主人様! お風呂あがりましたっ! ってカレーの匂いがしますよっ!」



 サクラを先頭に、入浴組が次々とがリビングに入ってくる。

 流石に犬耳族は鼻が良いのか、いきなり鍋の中身を当ててくる。



「カレー風味だけどな。まだファルケンブルクだとカレーは一般的じゃないから。それより髪をちゃんと乾かせよ」


「わふわふっ! カレー楽しみですっ!」



 そう言いながら、サクラはシルと、女子チームはそれぞれペアを組み魔石ドライヤーで髪を乾かし合う。



「一号たち男子チームも早く髪を乾かせよ。冬なんだし風邪ひくぞ。っていうかお前らって風邪ひいたことないんだよな……」


「一応乾かしておくぜ兄ちゃん!」


「おう」



 魔石コンロのスイッチを入れていく。火を使ってるわけじゃないからIHっぽいなこのコンロ。養護施設じゃカセットコンロしか無かったからIHって使ったことないんだけど。

 コンロに置いた土鍋の蓋の穴から蒸気が出始めカレーの香りが周囲に漂うと、腹を空かせたガキんちょどもが騒ぎ始める。



「お兄ちゃん、なんだか美味しそうな香りがする!」


「カレーの匂いだぞ。というかクミンの香りなんだけどな」


「クミン?」


「カレーに使われてるスパイスの内の一つだ。百科事典のスパイス配合を基に、辛いチリパウダーを抑えた俺のオリジナルだから味はわからんが、次からはクレアがブラッシュアップしたレシピになるからもっと美味くなるぞ」


「兄さま任せてください!」


「楽しみ!」


「ま、今日はメインの後の〆もあるから、あまりメインを食べ過ぎないようにな」


「うん!」



 エリナは、抱いているエマに「楽しみだねーエマちゃん」と話しかけてるがエマはまだ食べられないからな。

 そうこうしているうちにガキんちょどもが髪を乾かし終わり、着席を終えていた。

 俺自らでかい土鍋の蓋を取っていく。というか俺かシルくらいしか蓋を片手で取れないんだぞこれ。設計ミスだろ一号よ。



「よしじゃあ食っていいぞ!」


「「「いただきまーす!」」」



 エリナの横の席に座り、早速エリナにトマトカレー鍋をよそって渡す。



「ほれ。スパイスが母乳にあまりよくないから、これを食べたらあとは豆乳鍋か目の前のトマト鍋だからな」


「うん! ありがとうお兄ちゃん!」


「熱いから気をつけろよ」



 エマを受け取ると、両腕が自由になったエリナが早速よそった鍋の具材を口に入れる。



「美味しい! お兄ちゃんかれー美味しいよ!」


「お、口に合って良かった。辛みは抑えてるけど香りはまんまカレーだからな」


「お米に合うよね!」


「ナンを用意しておけばよかったかな、いやカレー風味の鍋には合わんな。クレアがアレンジしたカレー次第だな」


「兄さま、かれーすごく美味しいです。兄さまからもらったスパイスも奥深そうですし、かれー作り楽しそうです!」


「インド式カレー、欧風カレー、スープカレー、出汁を使った蕎麦屋のカレーとか色々あるからな。頼むぞクレア」


「任せてください!」



 ふんす! と気合を入れるクレア。全然力強く見えないのが可愛い。

 クレアならあっという間に日本にある全てのカレーを再現しそうだ。



「わふわふっ! ご主人様っ! カレー鍋は亜人国家連合では一般的ですけど、ここまで美味しいカレー鍋は初めてですっ!」


「サクラが美味いっていうのなら安心かな。〆もあるから食べ過ぎるなよ」


「お兄ちゃん! 豆乳鍋も優しい味がしてすごく美味しいよ!」


「豆乳は体にいいからな、沢山食えよエリナ」


「うん!」



 エリナを挟んで座るクレアが、ミコトにカレー鍋を食べさせて、「ミコトちゃん美味しい?」「まま! おいしい!」とやり取りしてる。

 だがクレアが色々食べさせた結果、ミコトはトマト鍋の鶏肉をクレアにほぐしてもらったのが一番好きらしい。ミコトは肉好きなんだよな。野菜も美味そうに食うけど。

 一号みたいにアホな食い方するような子にならなきゃいいけど。



「兄ちゃん! カレーヤバい! 滅茶苦茶美味いぞ!」



 その一号が何故か乳幼児ゾーンにやってくる。ここにしか無いトマト鍋を狙いに来たのかね、まあいいけど。



「カレーは俺のいたところでもお子様に大人気なメニューだからな。段々本格的なものを作っていくから期待しておけ」


「わかった! 頼むぜ兄ちゃん!」



 ざっぱざっぱと持参したでかいどんぶりにトマト鍋をよそって自分の席に戻る一号。

 ミコトが鶏肉好きなのを知ってるのか肉を少なめに持って行った。兄貴分の自覚があるのか最近振る舞いが妙にかっこいいんだよなあいつ。


 トマトカレー鍋も豆乳鍋もガキんちょに好評で追加の具材もあっという間に無くなった。

 そろそろ〆の準備をするか。



「ねーねーおにーさん。 かれーなべもとーにゅーなべもおいしかったよー。もうおなべこれでおしまいなの?」


「ミリィは飯以外の時も俺に絡んで来いよ。鍋の具材は無いけど、残りの汁を使った〆の料理をするからちょっと待ってろ」



 まず豆乳鍋には軽く炒めたベーコンとパスタ、塩コショウを投入したあとに蓋をして加熱する。

 火が通ったら蓋を取り、卵、チーズを入れて混ぜ、少し蓋をして余熱で仕上げる。そのあとに蓋を開けて粉チーズを振りかければ完成だ。



「ほれ、豆乳カルボナーラが出来たぞ。ブラックペッパーは刺激が強いから、希望者のみ使えよ」


「「「わーー!」」」



 ガキんちょどもが豆乳カルボナーラをよそっている間に、トマトカレー鍋には刻んだ玉ねぎとチーズ、白米、塩コショウを入れて加熱する。

 火が通ったら蓋を取り、よく混ぜた後に粉チーズとパセリを振りかけて完成だ。



「ガキんちょども! チーズトマトカレーリゾットが出来たぞー」


「「「わーい!」」」



 席に戻るとエリナとクレアの前にカルボナーラとリゾットがそれぞれ目の前に置かれていた。

 ガキんちょどもはちゃんとエリナやクレア、ミコトの分をちゃんと取り分けたようだ。

 こういうところはしっかりできる子たちなんだよな。



「おにーさん、ちーずかれーりぞっとととーにゅーかるぼなーらおいしーよ」


「おう、今日はもうこれでおしまいだからもう無いぞ」


「あのねー。りょうのこたちも、これたべたらよろこぶとおもうの」



 追加の料理の要求だと思ったら、寮の連中にも食べさせたいという要望だった、すまんなミリィ。



「クレアがレシピを作ってくれるからな。そうしたら寮でも豆乳鍋やカレー鍋が出るぞ」


「ならよかったー」



 ぽててーと小走りに自分の席に戻るミリィ。

 うん。良い子に育ってるじゃないか。ラスクや食べ物に執着するのとセクハラな行動は別として。


 そういやもう十二月になるんだよな。

 良い子にしてるガキんちょどものクリスマスプレゼントをそろそろ考えないと、と思いながら想像以上に美味しく出来た豆乳カルボナーラとチーズトマトカレーリゾットを食べるのだった。

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