第十八話 クリスマスプレゼント
以前調査した亜人国家連合でのサッカーと野球の普及率だが、サクラの言う通り野球の人気が出始めているとのことだった。
競技人口ではまだまだサッカーには及ばないが、亜人国家連合との遠征試合などを考えた場合、まだレベルが比較的低いこと、接触プレイが少ないので性別関係なくチームを作れることなどから、まずは野球を普及させたほうが良いのではないかとのアイリーンの調査報告が上がってきたのだ。
サッカーはそのあとでもいいしな。まずは球技、スポーツへの理解を深めていかないと。
日本のメジャーでセカンドな野球漫画で中学野球部のほとんどの部員が女子っていうのもあったしな。続きが見られないけど主人公が高校に進学したらどうするんだろうかアレ。
というわけで、寮生を含めたクリスマスプレゼントは野球道具一式と決まった。
事前に行ったクリスマスプレゼントに何が欲しいかというアンケートでも、野球道具一式というのが圧倒的多数だったからだ。
サクラの持ち込んだ野球道具は数が限られていて全員が一度にキャッチボールすらできなかったからな。
ついでに俺たちも毎回クリスマスプレゼントを別途用意するのも大変なので、ガキんちょどもと同じように野球道具一式だ。
もちろん婆さんにも用意した。と言ってもプレイヤーじゃなくて監督をやってもらうつもりなんだけどな。
「いいかガキんちょども! 今日は飯食って風呂に入ったらすぐに寝るように! 起きてるやつが一人でもいたらサンタさんは帰っちゃうからな!」
「「「はーい!」」」
今日はクリスマスイヴなので、ケーキはもちろん、から揚げ、ピザ、クリームシチューなどを大量に用意して、寮の大食堂で俺たち孤児院組も一緒に食事をするのだ。
サクラは次の元旦で一人前として扱われる十五歳になるお祝いのために、年末年始を実家で過ごすので留守だ。
こちらでのクリスマスパーティーに参加できないことを凄く残念がっていたが、亜人国家連合ではラインブルク王国よりクリスマスを派手に祝うらしく「来年は犬人国でやりましょう」と言い残して帰っていった。
多分行かないけどな。遠いし。
寮生は入学式の時だけ参加してたミコトや、初めて見るエマに構いまくっていたが、料理が並べられ始めるとすっかりそちらに夢中になっていた。
「では皆さん、頂きましょう」
「「「いただきまーす!」」」
婆さんの合図で食事が始まる。
入学祝での食事の時には食事マナーが全然できていなかった子たちも、びっくりするほど上達している。
寮母や職員たちが優秀な上に、預かっている子たちも素直なんだろう。
テーブルから一通りの料理を取り皿にとって、乳幼児専用テーブルへと戻る。
「エリナ、クレア取ってきたぞ」
「ありがとうお兄ちゃん!」
「兄さまありがとうございます」
「ぱぱ! しちゅー!」
「今日はミコトの好きなクリームシチューだからな。いっぱい取ってきたぞ」
「あい!」
ミコトも「ちちゅー」じゃなくて「しちゅー」と発音できるようになったし、感慨深いものが込み上げてくる。
みんな成長してるんだな。エマもミコトみたいに良い子に育ってくれるのだろうか。
「大丈夫だよお兄ちゃん!」
察しが良すぎる嫁の言葉に「そか」と返し、食事を続ける。
全校生含めた初めてのクリスマスパーティーは盛況のうちに終わった。
◇
「お兄ちゃん、準備できたよ」
「エマは?」
「院長先生が見てくれてるよ」
旧託児所のリビングに、俺とエリナ、クレア、クリス、シル、一号が揃っている。
「なあ兄ちゃん、なんでまた俺がここにいるんだ?」
「男子チームでサンタの正体を知ってるのはお前だけだからな。今年は寮にも忍び込むからお前の案内が必要だし」
今日は十二月二十四日。すなわちクリスマスイヴだ。
寮生と孤児院メンバーに用意した野球道具一式をこっそり枕元に置くために一度集合したのだ。
男子部屋に侵入するのは俺と一号。
男子チームのプレゼントは俺のマジックボックスに収納してあるが、誰がどこに寝ているのか不明なため、一号にあらかじめ調査させていたのだ。
いつもの服屋が張り切って作ったユニフォームのサイズもあるから適当に置けないし。
「兄ちゃん、普通に渡せばいいのになんで夜中にこっそり置くんだよ」
「お前ガキんちょの癖にロマンの欠片もないのな。良い子にしてたらサンタさんからプレゼント貰えると聞いただけでワクワクするだろ普通は」
「俺は最初から兄ちゃんがプレゼントを置いてるところを見ちゃったからなー」
「一号には本当に申し訳ないことをしたけどな、ただこっち側に男が一人増えたというだけで大分助かってるんだよ」
「まあいいけどな」
「じゃあ頼むぞ。暗闇だし誰が誰だかわからんからな」
「任せろって兄ちゃん」
「よしじゃあサンタ作戦開始!」
「「「おー!」」」
◇
ガキんちょどもへのプレゼントを配り終え、サンタチームへのプレゼントも渡し終わった後に解散する。
部屋に戻ろうとしたところに「お兄ちゃんはリビングで待ってて!」とエリナが言い出したので、誰もいないリビングでポツンと待っていた。
照明の魔法があるから暗くはないけど、広い空間に俺一人しかいないから怖い。エリナ早く戻って来て。
しばらく一人でビビっていると、どたばたと騒がしい音とともにエリナがリビングに入ってくる。
「お兄ちゃん見て見て!」
えへへー! と俺の前でくるんと回るエリナのその姿は、ミニスカサンタそのものだった。
回った時にちょっとパンツが見えそうでドキッとしたぞ嫁。
「……すごく可愛いんだけどさエリナ。ひとつ、いやふたつ聞いていい?」
「可愛い? やったー! うん! なんでも聞いて!」
「じゃあひとつ目な。誰の入れ知恵?」
「クリスお姉ちゃんが見せてくれた本に出てたんだよ!」
「なるほどね。異世界本の収集癖があるとは聞いてたけど、ジャンルとか関係なく集めてるのな。
「やきゅうの本もクリスお姉ちゃんが貸してくれたものだしね!」
「ふたつ目。なんでそんなスカートが短いの?」
「可愛いかなって!」
「可愛いけど、そんな中身が見えそうなスカートは駄目だぞ」
「お兄ちゃんの前でしか着ないよ?」
「うーん。ならセーフかな」
「しまぱんも履いてるよ!」
「なるほど。最高のクリスマスプレゼントだぞ嫁」
「わーい!」
このあと最高のクリスマスプレゼントをしっかり堪能しました。
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