第四十六話 今度こそ魔導公園で遊ぼう!


 ガキんちょたちは弁当を食べ終わると、またすぐに遊びに行きたいと大騒ぎだ。

 弁当箱を返しに来るたびに乗り物チケット十枚綴りを再度渡していく。結構なペースで遊んでるから残りの枚数が乏しいガキんちょだらけなのだ。

 無料の遊具で遊べと突き放してもいいのだが、一日遊ぶとなると十枚じゃ足りなさそうだな。

 領民にも週一で乗り物チケット十枚を配布してるけど、配布枚数をもう少し増やしてもいいかもしれない。

 二回目以降の配布は有料って形でもいいかも。安くしてだけどな。

 今日は休日なのにそれほど混んでないし、すこし需要と供給のバランスを調整しないと。



「お兄ちゃん、エマちゃんが寝ちゃったから先に家に戻ってるね」


「わかった、ちゃんと暖かくしておけよ」


「うん」


「兄さま、ミコトちゃんが寝むたそうなので私も先に戻りますね」



 クレアの横でミコトが目をこすりながらうつらうつらしてる。

 午前中滅茶苦茶はしゃいだんだろうな。おなか一杯になって眠くなっちゃったか。



「わかった、家の暖房魔法は任せたぞ」


「はい兄さま。晩御飯の支度はどうしますか?」


「帰りに買って行くよ。時間のかからないメニューにするから、クレアもゆっくり休んでてくれ」


「わかりました。ありがとうございます兄さま」



 エリナとクレアがそれぞれおエマとミコトを連れて帰宅する。

 俺もむしろを片付けてさっさと遊びに行くか。


 公園というかいつのまにか公式に魔導公園と名付けられていたここはかなり広い。すべり台のような簡単な遊具も設置されているし、大人数が座って弁当を食べられる芝生スペースはいくらでもある。植樹も行われている上にあちこちにベンチが置かれているので木陰で休めるし、軽食販売所も併設されている。さらに魔導観覧車や魔導コースターを備えてもなお野球場が数面おける以上のスペースがあるのだ。


 簡単に言うと、俺は今そんなところでまたボッチになってしまった。



「いらっしゃいませ。ファルケンブルク官営軽食販売所魔導公園支店へようこそ……ってお客さんまたですか……」


「すみません、リンゴジュースください」


「はい、銅貨十枚です。大丈夫ですか?」



 リンゴジュースを注文した俺の顔を見て店員が憐れむように声をかけてくる。



「何でもないです。はいこれ銅貨十枚ね」


「また滅茶苦茶泣いてるじゃないですか……」



 コトリとリンゴジュースの入った木製のタンブラーを俺の前に置く店員。



「どうも」


「飲み終わったタンブラーはこちらへお持ちくださいね。あと何か辛いことがあったら相談してくださいね」


「大丈夫。ありがとう」



 近くのベンチに腰掛けて、少ししょっぱいリンゴジュースを飲む。店から離れるときに店員に背中越しに「頑張ってください」とか言われたけどよくわからん。

 そういや今日はどうしてここに来たんだっけ? ああ、一号やハンナ、ニコラに誘われたんだったな。

 なんで来ちゃったんだろうなー、遠足なんかいい思い出無かったのに。

 まあガキんちょどもが楽しそうだったしいいか。


 ぼけーと空を見ながらリンゴジュースをちびちび飲む。

 軽食販売所の店員がたまに心配そうにこちらの様子をうかがってくるけど気にしない。

 これで銅貨十枚、日本円で百円程度なら安いんだけど、ゆくゆくは民間に開放することを考えると民業圧迫になるよな。

 輸入品を販売してる官営の店は物価を見ながら販売価格を調整してるから問題は無いんだけど。

 価格を倍にして乗り物チケットを見せれば半額とか、もしくはチケットと飲食物を交換でもいいかもしれない。

 そうするとレートとしては魔導コースターはチケット五枚、魔導観覧車はチケット三枚、サンドイッチはチケット二枚、飲み物はチケット一枚とかか?

 魔導遊具のコストがまだちゃんと出てないからちゃんとしたレートは出せないけど、それなら魔導遊具で遊ばなくても飲食できるならと遊びに来る家族がいるかもしれない。

 ゆくゆくは野球観戦チケットも乗り物チケット複数枚で交換できればいいかもな。

 もちろん乗り物チケットが無かったり使い切っても現金で遊具や野球観戦ができるようになればいいし、乗り物チケットが福利厚生の一環になるかもしれない。



「おにーちゃん」


 ぼーっとしながらも結局色々なことを考えていると、ふと声をかけられたような気がした。「ん?」と視線を空から声の方へ向けると、ハンナとニコラがベンチで腰掛ける俺の側に立っていた。



「どうした? 乗り物チケットでも無くなったか?」


「おにーちゃん……いっしょに遊ぼ?」


「……遊ぼ」


「よし! 一緒に遊ぶか! ちょっと待ってろ、おにーちゃんタンブラー返却してくるから!」



 「ごっそさん!」と駅のドリンクスタンドで空のタピオカミルクティーの容器を返却するようなテンションで、ほっとした表情の店員の前にタンブラーを置く。

 ごめん。ちょっと嘘ついた。ミルクスタンドで牛乳瓶の間違いだった。タピオカミルクティーなんて飲んだことが無いからな。牛丼より高かったし。

 だが待てよ? こんなハイテンションでハンナとニコラに接したらびっくりして逃げちゃうかもしれん。

 びっくりさせないように慎重に対応しなければ!


 二人の元に戻って「じゃあ行くか」となるべく感情を抑えて声をかけると、「うん」と、出かけた時のように姉妹が両サイドに分かれて手をつないでくる。

 今日は随分頑張ってるな二人とも。



「チケットはまだあるのか?」


「「うん」」


「そか。何に乗りたい?」


「うーんと……まどうかんらんしゃ」


「うん。かんらんしゃ乗りたい」


「よし、じゃあ魔導観覧車に乗るか」


「「うん」」



 てくてくと普段よりもゆっくり歩いていく。

 そういや魔導コースターだと二人乗りだから三人一緒に乗れないんだよな。二人に気を使わせちゃったかな。

 本番の遊園地を充実させるためにもグループで乗れるアトラクションを考えないとな。バイキングやコーヒーカップあたりかな?

 あとはもうちょっと刺激が欲しい客用にフリーフォールとか。

 お化け屋敷? 俺が無理。しかし提案だけはすべきか。ループのあるジェットコースターなんかも必要だろうしな。



「いらっしゃいませ。三人でお乗りに……って閣下、大変失礼を致しました」


「いやいや、良いって。公式の場でもないし、そもそも公式の場ですらまともに挨拶された記憶がない。特に会議中」


「……かしこまりました。三人でお乗りになられますか?」


「ああ、チケットは……」



 両手がふさがってるな。手を離したら泣いちゃうかな?



「閣下からチケットを頂けませんのでどうぞ」


「いやそういうわけにもいかないというか貴族が並んでてもそういう扱いしたら駄目だからな」


「はいお姉ちゃんチケット」



 ハンナが片手でチケットの綴りを係員の女性に渡す。ちょうど三枚残ってたようだ。あと係員が女性でよかった。



「はい。三人分頂きました。次のゴンドラが来たら乗ってくださいね」



「「はい」」


「ありがとうなハンナ」


「うん」



 三人でゴンドラに乗り込む。流石に手をつないだままでは乗れないので、いったん手を放してハンナとニコラを先に乗せ、最後に俺が乗り込むと係員がドアを閉める。

 ハンナとニコラは片方三人掛けの椅子の両端に座っている。中央を大きく開けてるのは俺の場所だろうな。

 三人で片側に並んで座るためにもう片方は空席になるが、魔力で姿勢制御してるから傾いたりはしないだろう。無駄な機能かと思ったが役に立ったな爺さん。


 ゴンドラがゆっくり上昇していく。ハンナとニコラは窓から見える景色に夢中だ。


「どうだ? 遠足楽しいか?」


「うん楽しい」


「楽しい」


「じゃあまた遠足やるか」


「「うん!」」



 初めて聞いたいつもよりも大きな二人の嬉しそうな声に、返事に。そして窓からずっと外を眺めている二人の真っ赤な耳を見て。

 遠足に来て良かったなと、生まれて初めて思うのだった。

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