第四十五話 魔導公園


 左右にハンナとニコラをくっつけて公園に向かってゆっくり歩いていく。歩幅が全然違うからな。

 もし「おにーちゃんと歩くと早くて嫌!」とか言われたら死ねる。


 てくてくと歩いていくと公園の片隅に婆さんとクリスとシル、職員たちと寮生の集団が見えてくる。

 ほぼ全員揃ってるのかな?

 ひーふーみーと職員と寮生の人数を数えていると、両脇にいたハンナとニコラがぱっと俺から手を放し、寮生の方へ向かって走っていく。

 あっ……と慌てて二人に手を伸ばすが、姉妹はあっという間に俺から離れていく。

 普段大人しいのにすんごいスピードで。あれ魔法使ってないか?



「しまった、歩く速度はあれでも早かったか」


「違うよお兄ちゃん。ハンナとニコラは照れてるんだよ。ほら耳が真っ赤!」


「おお、マジだ。よかった嫌われたわけじゃなかったんだな」


「次はもっと長い時間手をつなげるようにならないとね」


「ま、ゆっくりとだな」


「そうだね!」



 クリス、シルたちと合流し、その場にいる全員に乗り物チケット十枚綴りを渡していく。



「いいかー。乗り物一回につき一枚を係員に渡すんだぞ。使い切ったら今日はおしまいだからな。他のガキんちょから取ったりしないように!」


「「「はーい!」」」


「あと全員に銅貨百枚ずつ小遣いを渡すから、のどが乾いたりしたらあそこの軽食販売所で好きなものを買えよ。ただし昼飯は用意してあるから食い過ぎないように! あとでお釣りは回収するからなー」


「「「はーい!」」」



 ガキんちょ一人一人に、紐に通された銅貨百枚の束を一本ずつ渡していく。必要枚数だけ紐から銅貨を抜いて使用するのだ。

 銅貨一枚で日本円で十円くらいの価値だから銅貨百枚の束で千円くらいか。小遣いとしてはちょっと高額だけどこいつら無駄使いしないでお釣りはちゃんと返してくるからな。店も軽食販売所しかないから構わないだろう。

 ただ、銅貨を束で持ち歩かせてると治安の問題も出てきそうだな。公園の中は魔法で対策されてるから変な奴はいないけど。

 市民登録証とかギルド登録証には銀行機能があったから店単位で直接残高から料金を徴収すればいいんだが、システム改修するのに予算が必要そうだしな。

 個人店で導入するにも端末の価格とかもあるし、そのあたりも考えないと。



「年長組は年少組の面倒をちゃんと見るようにな! 銅貨も落とすなよ! 年少組の銅貨は年長組が管理してやれよ! じゃあ昼飯まで自由行動!」


「「「わーい!」」」



 最後は「はい」じゃないのかよ。兄ちゃん返事にはうるさいぞって何度も言ってるのに。まあ今日は乗り物チケット十枚に小遣い付きの大盤振る舞いだし仕方がないか。


 ガキんちょどもは仲良しグループを形成して各々散っていく。クリスやシルもガキんちょどもに誘われて連れていかれる。ハンナとニコラも女の子の友達と魔導観覧車の方へ向かうようだ。

 仲良しグループに入れない子とかいないよな? 心配しながら注意深く観察してみる。特に婆さんはよくハブられてるから注意しないとと思ったが、みんなちゃんとグループに入れたようだ。よかった、仲間外れになる子なんかいなかったんだよ。と安心して俺の周囲を見ると、誰もいない。

 エマを抱いたエリナもミコトを連れたクレアと一緒に魔導観覧車に向かって歩いている。


 あれ? 俺ハブられた?

 いやいや、俺は引率者だ。ガキんちょのグループに入るわけにはいかないし!

 そう言い訳しながら公園の片隅にある軽食販売所に向かう。



「いらっしゃいませ。ファルケンブルク官営軽食販売所魔導公園支店へようこそ」


「すみません、オレンジジュースください」


「はい。銅貨十枚です……ってお客さん! どうしたんですか? 大丈夫ですか?」



 店員がオレンジジュースを注文した俺の顔を見てびっくりしたように声をかけてくる。



「何でもないです。はいこれ銅貨十枚ね」


「滅茶苦茶泣いてるじゃないですか……」



 コトリとオレンジジュースの入った木製のタンブラーを俺の前に置く。



「どうも」


「飲み終わったタンブラーはこちらへお持ちくださいね」



 近くのベンチに腰掛けて、少ししょっぱいオレンジジュースを飲む。

 この大きめのタンブラーで一杯銅貨十枚、日本円で百円相当ってのはお得だな。官営なんであまり利益追及してないってのもあるんだけど。というか店員は公職の人間なのに俺の顔知らなかったっぽいな。新人かな?

 しかしなんちゅー店名だ、しかも魔導公園って。そういやこの公園って名前決めてなかったな。有名になったらネーミングライツで運営資金の足しにできるかな?


 まあいいやと、ぼけーと空を見ながらオレンジジュースをちびちび飲む。

 軽食販売所の店員がたまに心配そうにこちらの様子をうかがってくるけど気にしない。



「む、空か」



 タンブラーが空になったのに気付くと同時に周囲を見回すと、一号が俺に向かってダッシュしてきていた。



「兄ちゃん! 腹減った!」


「ん? もうそんな時間か? というか俺ベンチに座ってオレンジジュース飲んでただけなんだけど」


「もうすぐ昼の鐘が鳴るぞ兄ちゃん」


「じゃあ広い場所で弁当を食うか」


「おう!」



 タンブラーをほっとした表情の店員に返却して、一号と公園内に設けられたフリースペースに行き、マジックボックスから取り出したむしろをキャンピングシート代わりに大量に広げる。

 そういやダッシュエミュー狩りのときに罠に使うために筵を大量に購入したけどもう使ってないんだよな。俺の風縛でもダッシュエミューを捕まえられるようになったから罠の必要がなくなったし、そもそも最近狩りに行ってない。

 星型要塞の城壁建設が始まったらしいけど、門から出てないから状況もわからん。一度視察に行くべきか。



「よし、こんなもんか」


「じゃあみんなを呼んでくる!」


「別に呼びに行かなくても鐘がなれば集まるだろ」



 呼び止める間もなくダッシュで俺の前からいなくなった一号が、すぐにみんなを連れて戻ってくる。

 素早いな。

 戻ってきた連中に弁当箱を順番に渡していく。



「ありがとうな兄ちゃん!」


「全員揃うまでは勝手に食うなよ」


「おう! 飲み物買ってくる!」



 軽食販売所までダッシュする一号。落ち着きがないなあいつ。一番はしゃいでるんじゃないか?



「お兄ちゃん楽しんでる?」



 エマを抱いたエリナが俺に声をかけてくる。すごく充実した笑顔で。



「空が滅茶苦茶綺麗だったぞ。オレンジジュースも少ししょっぱかったけど美味かったし」


「ふーん」


「聞けよアホ嫁。滅茶苦茶充実した午前中だったんだぞ」


「ベンチに座ってただけなのに?」


「そうだよ! 凄くリフレッシュしたんだからな!」


「じゃあ午後はリフレッシュしたお兄ちゃんと遊んであげるからね!」



 にへらと俺をからかうような笑顔を向けるエリナをスルーしつつ、どんどん弁当を配っていく。

 まだ鐘がなってないのに、いつの間にか全員揃ってるな。



「よし、じゃあ食べていいぞ! 飲み物買ってこなかった、お金を使うのに躊躇したって奴は水を配るから取りに来いよ」


「「「はーい!」」」



 何十枚も広げた筵の上に、各々グループを作り座って弁当を食うガキんちょども。

 俺も適当に座ると、エリナとクレアが側に座ってくる。



「はいお兄ちゃん! あーん!」


「おにぎり突き出されてもな。普通おかずじゃないのか?」


「午前中のお返しかな?」


「意味わからん」



 と言いつつ、あーんとエリナの差し出すおにぎりを一口食べる。全部は無理だからな。



「豚角煮おにぎりっぽかったけど具まで到達できなかったぞ嫁」


「お兄ちゃんめんどくさーい」


「うるさい、もう一回あーんしろ」


「はいはい。お兄ちゃんあーん」



 む、二口目でようやく具の豚角煮にたどり着く。滅茶苦茶上手い。八角が無かったから少し香りが弱いけど十分美味い。



「美味いぞ。エリナも食え」


「あーん!」


「お前もめんどくせー!」



 しょうがねえなとおにぎりを差し出すと、ぱくっと一口食べるエリナ。



「あ、これ鶏マヨだ。美味しいよお兄ちゃん」


「鶏マヨは当たりだよな。ツナじゃなくても十分美味い」


「つなまよってのも食べてみたいな!」


「そのうちな」



 あちこちでワイワイと楽しそうに弁当を食べている。

 遠足っていい思い出が無かったけど、こいつらにとっていい思い出になればいいなと思いながら、エリナのしつこいあーん攻撃で腹を満たすのだった。


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