第四十四話 遠足にいこう!


 連休最終日。といっても連休なのは学校だけで、世間的にはまだ週休一日が一般的なのだ。今日は日曜日なので弁当販売は無し。

 言語変換機能で日曜日と認識できてるけど、現地語だと休息日とかなのかね。どうでもいいことだけどな。

 その貴重な日曜日。一週間ぶりにゆったりと朝飯を食い終わり、食後のお茶を楽しんでいるとガキんちょどもがどたばたと俺の側にやってくる。



「なーなー兄ちゃん。俺たち公園で遊びたいんだけど」


「勝手に遊んで来い。昼飯までには帰って来いよ」


「兄ちゃんも行こうぜ!」



 今日の一号はしつこいな。今までは勝手に遊びに行ってた癖に。



「……おにーちゃん一緒に行こー」


「……行こー」



 なんと! あの人見知りの極地、ハンナとニコラの姉妹が俺を誘うだと⁉



「よし行くか! いやまて、せっかくだから弁当を作って公園で昼飯にするか? 遠足するぞ! すげえ近いから近足だけど、遠足でいいか!」


「えんそくってなんだ兄ちゃん?」


「遊びに行った先で弁当を食べる行事だぞ」



 多分な。遠足自体にあまりいい思い出が無いからよくわからん。

 小さいころに先生の作ってくれた弁当がまっ茶色だったことだけは強烈に覚えているがな。

 ちょっとクラスメイトに見られたくなくて隠しながら食べてたなー。切ない。

 あれ以来養護施設では俺が飯を作るようになった原因でもある。



「おお! なんか面白そう!」


「じゃあ弁当をちゃちゃっと作ってくるから着替えてリビングで待ってろ。外は寒いからちゃんと温かい格好をしておけよ!」


「「「はーい!」」」


「クリスとシルは寮生の参加者を募ってこい。強制参加じゃないから無理に連れてくるなよ」


「かしこまりましたわ旦那様」


「じゃあクレア、弁当作っちゃうか。寮生の分も含めて」


「はい兄さま」



 クレアを連れて厨房に行く。

 今日は朝の弁当販売が無かったが、結局弁当を作るのか。まあいいけど。



「炊いた米はマジックボックスの中に大量にあるから、おにぎりを握っておかずは常備菜でいいか。玉子焼きと唐揚げとタコさんウインナーとか適当で」


「じゃあ私がどんどん握るので兄さまはおにぎりの具の準備をお願いしますね」


「わかった」



 クレアのおにぎりを握る速度は異常だ。おひつから米を取り出し、具を入れて握ったら一発でおにぎりの形ができてしまうのだ。もちろん海苔も巻かれている。

 なんらかの魔法を使ってるんじゃないかというほど早い。


 豚角煮、鶏そぼろ、鶏マヨ、高菜の四種をそれぞれ器に入れ、クレアの前に置く。



「じゃあ兄さまお願いしますね」


「任せろ」



 クレアがおにぎりを弁当箱にどんどん入れていくので、俺はおかずを入れていく。

 何故か常備菜を入れるだけの俺と同じ速度でおにぎりが収まっていく。

 一分もかからずに弁当が完成したので弁当箱に蓋をしてマジックボックスにしまい、空の弁当箱をクレアの前に置く。


 ひたすらこれをガキんちょと俺たちや職員用に多めに作っていく。公園に行かない連中の昼飯にもなるからな。あとお代わりするやつが絶対にいるだろうし。



「飲み物はどうしましょうか?」


「マジックボックスがあるからわざわざ用意する必要はないけど、せっかくだから公園内にある官営の軽食の店で買うか。ガキんちょどももいろんなものが飲みたいだろうし」


「お弁当だけじゃ足りないでしょうしね」


「恐ろしいことにな」



 一時間もかからずに弁当を作り終わったのでリビングに行くと、すでにガキんちょどもは準備万端整えて大人しく待っていた。



「兄ちゃん遅い!」


「弁当用意してこのスピードはかなり早いと思うんだがな。じゃあさっさと行くか」



 コートを羽織ると、ハンナとニコラがそそくさと近くに近づいてくる。



「……えんそく楽しみ」


「……楽しみ」



 姉妹で俺のコートの端をぎゅっと握ってきて可愛い。

 双子じゃないし、身長も姉のハンナの方が少し高いんだけど、セリフがユニゾンするんだよな。

 俺が来る一年半前に両親を事故で一度に失って心を閉ざしてたって聞いたけど、二人は少しずつでも頑張ってる。

 最近妙に懐かれだしたので嬉しいし、大人の男に慣れるのは良いことだ。

 最初は孤児院や託児所職員に女性しか採用しなかった主な理由がこの姉妹だけど、周辺領から預かった孤児にも男が苦手な子がいるので、しばらくは女性職員と女性教師のみ採用している。

 魔法科の授業だけはたまに爺さんが参加するが、その時はクリスか女性魔導士が必ず副教員として参加してるから今のところ問題はない。



「お兄ちゃんもてもてだね!」



 防寒具をしっかり着込んだエリナがエマを抱いて嬉しそうに俺に声をかける。

 ハンナとニコラを一番心配してたのがエリナだからな。



「そうだな。ハンナ、ニコラ、もし気にならなかったら手をつないで公園まで行くか?」



 あ、しまった、つい調子に乗ってしまった。男に触られるのとか滅茶苦茶難易度高いじゃないか。

 女子チームで順番にリボンを結んでやった時ですら二人は滅茶苦茶緊張してたくらいなのに。

 ちらっと二人の反応を見るが、うつむいたままだ。

 つい差し出してしまった手をどうしようか考えていると



「……うん。おにーちゃん」


「……つなぐー」



 俺の両手に、そっと。少し緊張した二人の手が添えられた。



「……よし行くか!」


「「うん」」



 いつもより少し元気に聞こえた二人の声。

 多分今の二人を見たら恥ずかしがってしまうだろうから、目線は動かさずにゆっくりと玄関に向かって歩いていく。

 三人並んで移動できる広さがあってよかったな。


 エリナが凄く驚いた顔をしていたが、すぐにこちらに向かって嬉しそうに微笑んでくる。

 知らない女性店員に服のサイズを測られそうになっただけで泣いちゃう子だったからな。

 ハンナとニコラも頑張ってるんだなと思いながら外に出る。



「ハンナ、ニコラ。もし寒かったらおにーちゃんにくっついてもいいからな」


「「うん」」



 家を出て公園に向かう途中、俺の言葉を聞いて手をつないだままぴたっと体をくっつけてくる姉妹。

 目線を動かすと姉妹が恥ずかしがるかも知れないからわからないけど、俺たちの後ろを歩くエリナは多分凄い笑顔なんだろうな。


 頑張ったな、ハンナ、ニコラ。

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