第四十三話 チョコレートラスク
「孤児は以前視察したときは六人だったが、受け入れは六人のままか?」
「はい。あとは孤児院長と副孤児院長をそのまま教師兼職員として受け入れます」
「なら現状のままでも寮の部屋はまだ余裕あるから問題ないか。その孤児院長と副院長の二人は女性だったが家族は?」
「お二人とも独身とのことです」
「ならそちらも問題ないか」
職員棟には男性用の風呂とか用意してない。ハンナとニコラのように大人の男を怖がる子がいるからな。
「生活を共にする環境ですからね、男性職員は今のところ考えておりません」
「寮生の人数が増えたら男子棟、女子棟と完全に分けるから、男性職員はその時だな」
「男子棟と女子棟で分ける前に、平民と貴族で分けるお考えはありませんか?」
「無い」
当たり前だ。学力や魔力の有無で区別はするが、身分ごときで差別する必要はない。
ましてや未成年のガキんちょどもだぞ。
「かしこまりました」
「む、アイリーンは反対しないのか?」
「無論です。血統のみで差別するなどくだらないですから」
「じゃあなんで平民と貴族で分けるかて聞いたんだよ」
「甘えた貴族の子弟に最底辺の生活を味あわせるつもりはございますか? という意味ですが? 貴族用には亜人国家連合仕様の犬小屋で生活させるのも良いかと思いましたが」
「わざわざ嫌がらせをして恨みを買うつもりもないわ。それに今回留学してくる貴族はシャル派の連中だろ? そこまでする必要はない。優遇するつもりもないが」
「そうですか。残念です」
「残念っていうな。とはいえ、寮生活は下手な貧乏貴族よりマシだと思うぞ割と。飯も美味いしな」
「そうですね、当代限りの騎士爵や準男爵より、下手に格式を維持しなければならない世襲貴族の男爵家や子爵家の方が生活に困窮しているなんてのはよく聞く話です」
「特にシャル派の貴族家は少し前までは冷遇されてた連中だしな」
「閣下のために働くように洗脳しましょう」
「シャル派の貴族だっつーの」
だからなんで過激なんだファルケンブルク領の官僚たちは……。
「では閣下、私は任務に戻りますので」
「わかった。ご苦労さん」
「はっ」
アイリーンはすっと立ちあがると、エリナたちに挨拶をして城に戻っていく。
今日は学校は休みだが、アイリーンは仕事のようだ。官僚には土日休みっていうのは無いからな。交代制で週に二日ほど不定期な休日はあるけど。
アイリーンの去ったあとのリビングを見回すと、一号たち男子チームは何か設計図のようなものを囲んで話し合いをしている。
受注した家具の設計図かな。別にもう弁当販売で十分稼げてるから男子チームは工作物を作らなくても良いんだけど、元々あいつらの工作物が売れるようになったから本格化しただけで、最初から稼ぐための物づくりじゃないからな。
楽しんで作ってる分にはいいか。
女子チームというか、ハンナとニコラ姉妹とミリィは掃除や洗濯をしたりエマやミコトの相手だ。
エリナやクレアは、学校の無い日の日中だけはミコトとエマ、家事から少し解放される。いい気分転換になるんじゃないか?
◇
今日の昼はハンナとニコラとミリィが作ったサンドイッチだ。
二人は弁当販売のときに、たまごフィリングや鶏マヨなんかのサンドイッチの具材をいくつか担当しているので腕には問題が無い。
学校が始まってお手伝いができないからという理由で、休日の家事や昼飯は女子チームが担当してくれるようになったのだ。
「おお、ハンナ、ニコラ、ミリィ! 今日の昼飯も美味いぞ!」
俺がトーストされたパンに挟まれたふわふわな玉子サンドを食べてつい大声を出してしまう。
ふわふわたまごやトーストサンドは最近新メニューに加わったサンドイッチだが、やはり出来立ての方が美味い。
就職活動のOB訪問のとき、職場近くのコーヒーチェーン店で先輩がおごってくれたアレの美味さが忘れられずに提案したメニューなのだ。
「「……ありがとーおにーちゃん」」
ハンナとニコラは顔を真っ赤にしてうつむきながらも小さい声でお礼を言う。
相変わらずなかなか目を合わせてはもらえないが、ちゃんと返事をしてくれるようになったのが嬉しい。
「おにーさん、ぱんのみみいっぱいできたからねー」
「わかったわかった。今日のおやつはラスクにするから」
「わー、ありがとーおにーさん」
「ミリィは相変わらず飯の時にしか絡んでこないのな」
◇
「兄さま、かかおますってなんですか?」
「カカオって言う実から取れるものでな。これからチョコレートっていう子供に大人気なお菓子ができるんだよ」
「楽しみです」
「カカオマスからココアバターを抽出すればココアができるんだが、抽出方法を知らん。これは後で調べるとして、今日はチョコラスクとホットチョコレートドリンクだな」
「わかりました!」
カカオマスを包丁で削り、バター、砂糖、牛乳を入れて湯煎する。これでチョコレートの完成だ。簡単だな。
これを器に入れて、ラスクにディップして食べさせよう。冷やして固めるのめんどくさいし。
チョコレートフォンデュみたいだな。
あとはホットミルクにチョコレートと砂糖を入れてチョコレートドリンクも完成。
ストックしてあるプレーンなラスクを大量に皿に盛ったらおやつの完成だ。
ちなみにミリィが皿に残しておいたパンの耳は、あとでまとめてラスクを作ってストックするので、マジックボックスに収納しておく。
「ほれガキんちょどもおやつだぞー!」
リビングに入ると、すでにガキんちょどもが席について大人しくしていた。
「おにーさん、なんかいいにおいがするよー」
「チョコレートっていう俺が前にいた世界では人気のお菓子の匂いだ。プレーンなラスクを、このチョコレートに付けて食べるんだぞ」
「おいしいのー?」
「甘くて美味いぞ。チョコレートドリンクも用意したが、チョコレートが苦手な奴はシナモンパウダーでラスクを食え。ホットミルクもあるからな」
「「「はーい!」」」
テーブルの上に、溶けたチョコレートの入った器とプレーンラスクの盛られた皿を交互に並べる。
「よし食っていいぞ!」
「「「いただきまーす!」」」
「チョコレートの二度付けは禁止だからな! 一度口に入れたラスクをチョコレートにつけるなよ! チョコレート単体で味わいたいやつは別皿でチョコレートを取れよ!」
「「「はーい!」」」
「お兄ちゃん、チョコレートドリンク美味しいよ!」
「おう、良かったよエリナの口に合って」
「兄さま、チョコレート美味しいです! ねーミコトちゃん?」
「あい!」
クレアにチョコレートドリンクを飲ませて貰ってるミコトもご機嫌だ。
「おにーさん」
ミリィがぽてぽてと俺の側に歩いてくる。
俺のチョコレートドリンクを狙いに来たのかな?
「どうだミリィチョコレートは」
「すごくおいしー! びっくりしたー!」
「久々に声張ったなミリィ。チョコレートラスク気に入ったか?」
「うん! ありがとーおにーさん!」
「俺のチョコレートドリンクやるから自分の席で食え。二度付けしたかったら自分の小皿にチョコレートを取り分けてからやれよ」
「わかったー。ありがとーおにーさん。だいすきー」
しゅぱっと俺の差し出すチョコレートドリンクの入ったマグカップを奪うと、ぽててーと小走りで自分の席に戻るミリィ。
普段はおっとりしてるのにこういうときだけ素早いのな。
こんなに好評なら次はカカオマスからココアを作るかな。もしくは亜人国家連合からココアパウダーを直接輸入する方が良いかな。
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