第四十七話 星型城塞都市建設中


 城壁の建設がひとまず終わったということで視察をすることになった。

 まだ建設決定してから一週間ほどだから

 ポクポクと馬蹄を響かせながら南門へと向かう。

 今までは正方形の城壁だったので、東西南北の四門だったのだが、新しい城壁は正五芒星なので北東門、北西門、西門、南門、東門の五門になるのだ。

 王都に通じる北門は北西門になり、亜人国家連合へと続く街道は北東門となった。

 まだ門は仮設状態だが、城壁が完成次第現在の城壁と門は撤去され、新区画へと整備されることになる。



「つーか東門の方ってダンジョンが無かったっけ?」


「もうありませんわ旦那様」



 俺の横で同じく騎乗しているクリスが答える。



「ダンジョンが無くなった?」


「魔導士協会の連中が、『ここの竜種が巣を作ると面倒だから埋めていいか』と言ってきたので許可いたしました。一応内部を完全に探索させましたが、財宝の類や希少な鉱石などもありませんでしたので問題はありません」


「ダンジョンってお宝があるイメージだったんだけどな」


「盗賊がアジトにしていたとかならわかりますが、そもそも入口から水や煙を入れられたら全滅必至なダンジョンをアジトにするとか意味がわかりません。換気されているとか複数の出入口があるとかならまだわかりますが」


「知性のある魔物が、冒険者から奪った装備を置いてさらに冒険者を呼び込むとか」


「知性があるのならもっと効率のいい方法を取ると思いますわ。それに冒険者の装備なんかほとんど価値が無い物でしょうしね。わざわざ解錠が必要な宝箱に入れるとかもっと意味が分かりません」


「俺やシルの武器は貴重じゃないのか? クリスも魔法石の指輪やら持ってるし。それなら貴重なアイテムを守る意味でも鍵付きの宝箱とかあっても良さそうだし」


「高価な装備を持つ冒険者自体がほぼいませんし、そもそも高価な装備を購入できるような人間がそんな割に合わない無謀なことをするとは思えませんしね。それに何故そんな宝箱をあちこちに分散して置くのですか?」


「ダンジョンの奥に設置されたダンジョンコアでどんどん竜種のような希少な素材を持つ魔物が生成されてるとか、その魔物の内ボスクラスは、ダンジョンコアと宝を守るために生み出されるとか」


「そのダンジョンコアって何でしょうか?」


「お前異世界本で俺のいた世界の知識が豊富なんじゃないの?」


「いえ、ダンジョン物でよく見た設定ではありますが、そんなある意味『打ち出の小づち』のような非現実的な物が存在するイメージが湧きませんので」


「うるせー。実際ここだって竜種がぽんぽん湧いてるだろうが」


「竜種の生態は今だ謎に包まれていますからね。それこそダンジョンコアのように次々と竜を生み出すような物が存在すれば魔導士協会が黙っていないと思いますが」


「夢も希望も無いな」


「むしろただの洞窟に夢や希望を抱かないでくださいませ」



 わかってはいたけどロマンのかけらもないのなここ異世界なのに。

 ダンジョン攻略したいかと言われたら否だけど。ヘタレだし。


 市場を抜けて、旧南門を通ると、広大な更地が広がっていた。

 森があった形跡がない。霞んで見えるあれが城壁か? 何キロくらい離れてるんだ?



「随分殺風景だな」


「大森林を伐採して更地にしましたからね。区画割はまだですが」


「正五芒星の一番旧城壁と近い門だろ? 何キロ離れてるんだ?」


「当初の予定より必要な土地が増えましたので二キロ程ですね」


「五芒星の面積の出し方がめんどくさいな」


「有効に使える中央の正五角形部分で既存の面積の倍以上ですね」


「三角形のところに遊園地とか野球場を作るのか」


「軍事演習場や魔導士協会本部などが予定されていますね。あとは防衛関連施設です」


「防御関連施設って爺さんが言ってたワイバーンみたいに空を飛ぶ魔物用のバリスタとか高射砲って言ってたな」


「一応火薬を使用した火砲なども設置いたしますが、主戦力は魔導士協会の連中です」


「……なんでファルケンブルク領の防衛戦力に魔導士協会の連中が組み込まれてるんだよ」


「魔導士協会本部を守るという建前で協力すると……」


「意図がわからん」


「たとえ王都の兵であっても、向かってくるのなら容赦なく消滅させると言っておりますが」


「不穏過ぎだ。しかも消滅て」



 ポクポクと殺風景な景色の中、馬に揺られて進んでいく俺たちの後ろをミニスカメイドさんが小走りで着いてきている。馬糞を回収するためだ。

 商会の馬車が行き来するような大通りには毎日清掃業者が馬糞などの掃除をしているが、俺たちが視察に行くような場所には業者を入れてないからな。

 領主が馬糞を撒き散らかしていると言われないためのでもあるが、衛生的なことも考えての対応だ。


 だが魔導コンバインがあるんだから魔導車なんかあっても良さそうだけど、というか多分亜人国家連合で設計まではしてるだろうな。

 魔石のコスト次第だけど、ファルケンブルクでも採用すべきかもしれない。

 領内が広くなりすぎたから、最大でも十数人しか乗れない送迎馬車よりはもう送迎魔導バスの方がいいだろうな。

 長距離移動が必須な交易用途には使えなくても、領内で運行しながら魔力を充填したり、充填済み魔石と交換するとかで魔石自体のサイズを抑えることもできるし。

 いや、それならレールを敷設してレールから魔力供給できるようにしたほうが良いか? いや初期投資がかかり過ぎるな。



「旦那様、南門です」



 思考中の俺にクリスが声をかけてくる。

 門扉はまだ取り付けられていないので解放状態だ。



「門扉は?」


「現在制作中です。鋼鉄で制作しておりますのでもう少し時間がかかります」


「鋼鉄ねー」


「ト-マ!」



 門の側でクリスと会話していると、魔導士協会の爺さんが声をかけてくる。



「おお爺さん、今日は現場作業か」


「ま、完成後のチェックってところじゃの」


「流石だな、城壁だけとは言えこんな短期間で作るとは」


「ま、魔導士協会本部総出じゃったからのう」



 馬から降りて、爺さんと話しながら門を抜ける。



「って爺さん、空堀に跳ね橋かよ」


「今は空堀じゃがの。灌漑設備拡大と同時に工事して水堀にするからの」


「どこと戦う気なんだよ……」


「備えあれば患いなしじゃぞトーマよ」



 跳ね橋も随分でかいなこれ。

 両方からせり出している防壁に目を向けると、銃眼のようなものが多数設けられている上に、防壁の上にはバリスタやら大砲が並んでいる。



「なあ爺さん。もう一度聞くけどどこと戦う気なんだ?」


「万が一じゃよ万が一」


「大砲とか良く予算出たなこれ」


「火薬を使った高価な火砲は各防御区画に一門だけじゃぞ。あとはそれっぽい形をしてるダミーじゃ」


「魔物相手にはダミーとかあまり意味はないんじゃないのか?」


「有事の際はダミーに上級魔法の魔石を取り付けて魔法攻撃できるんじゃがの」


「もはやダミーじゃないなそれ」



 想像以上の防御力を発揮しそうな城壁を見てめまいがしそうになる。

 だが竜種相手と考えるならこれでも怪しいところだろうな。地を這う魔物ならともかく空を飛ぶ魔物には対抗手段が少ないわけだし。

 シャルや王都、周辺領には城壁拡張の連絡は行ってるはずだけど、これ見られたら不味くないか?

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