第四十八話 豚丼と豚汁


 城壁の視察をクリスと爺さんを引き連れて行う。

 とにかく広大なのですべての城壁の確認はできないが、南門付近の状況や城壁内部の状況などを視察する。

 基部が幅十メートルで高さ二十メートルの城壁の内部には、武装した兵士が余裕を持ってすれ違える広さの通路がある造りになっていた。

 昼食をはさみつつ城壁の上に並べられたバリスタや火砲の説明を受けたが、これだけの装備でもワイバーンならともかく、空を飛ぶ竜種を倒すには威力が足りないというのだから恐ろしい。

 結局は常駐してる魔導士が魔法で撃ち落とすしかないと言われたし。



「じゃあ後は任せたぞクリス」


「はいお任せください」


「トーマよ、後日魔導遊具と魔導車の設計図を届けさせるでな」


「コストをちゃんと考えろよ爺さん。魔力をできるだけ使わない方向で技術力を発揮してくれ」


「わかっておる。採用されねば儂等の借金が減らないのでな」


「良い物作ってくれたらローン残高からいくらか棒引きを検討するから頼むぞ」


「任せい」



 爺さんには新しい魔導遊具の設計と魔力で動く自動車の開発を依頼した。

 魔導遊具は先日の遠足で考えたバイキングやフリーフォールなど、とりあえず実現可能なものならまず設計だけでもしてくれと簡単な図案を書いて渡した。

 魔導自動車に関しては、クリスによれば亜人国家連合では魔導コンバインなんかの農耕具は試験運用段階まで進んでいるが、とにかく魔力不足なので日常的に使う移動手段で魔力を使うという発想自体が無いとのことだった。

 なので魔導コンバインの設計を流用して、魔力で動く四輪駆動車の開発を爺さんに依頼したのだ。

 まずは五人乗り程度の普通乗用車サイズ、問題が無ければ領内を巡回して人を大量に輸送するバスまでは作りたいと考えている。

 交易に使えるほどの長距離を移動する輸送車はやはり難しいとのことだった。

 魔導士が常に魔力供給をすれば可能かもしれないが、大量の魔力を消費する為に魔導士を何人も用意するのはコストがかかるし、護衛の騎士の魔力を供給に使うといざというときに魔法が使えないという事態にもなるからな。


 あとは予算の話になったのでクリスに任せて、俺は晩飯の買い物の為に市場に向かう。

 俺だけ騎乗してて後ろから馬糞回収のメイドさんが小走りで着いてきてるけど、この光景ってヤバすぎじゃね。

 旧南門まで行ったら馬をメイドさんに預けて徒歩で買い物に行こう。



「おう領主さま、お疲れさん」


「門番のおっさんか、なんか久々な気もするが」


「最近狩りをしてないからだろ……」


「そういやそうだ」


「今度またエリナちゃんとエマちゃんの顔を見せに来てくれよ」


「気が向いたらな」


「頼むぜ領主さま」



 馬から降りて手綱をメイドさんに渡し、首から下げた登録証を門番のおっさんに見せて門を通過する。

 その後はいつも通りに野菜売りのおばちゃんや肉屋の親父の店などを回って帰宅する。



「帰ったぞー」


「ぱぱ!」



 ミコトがダッシュして俺に抱き着いてくる。滅茶苦茶可愛い。

 ぐいっと抱き上げると「きゃっきゃ」とご機嫌だ。



「兄さまおかえりなさい」


「ただいまクレア。ミコトをリビングに連れて行ったら晩飯の支度をしちゃうか」


「はい」



 ミコトを抱っこしたままリビングに入る。ガキんちょどもはまだ学校のようだ。



「あっ、お兄ちゃんお帰り!」


「ただいまエリナ。晩飯作っちゃうからミコトを預かってくれるか?」


「うん! ミコトちゃーん、エリナママと一緒にお蜜柑食べようか」


「あい!」



 エリナがミコトを呼ぶと嬉しそうにミコトが俺の腕から抜け出そうとするので、ゆっくり降ろしてやる。

 うーん、この。

 もう少し「ぱぱといっしょにいる!」とか駄々こねても良いんだぞミコト。ちょっと寂しいぞ。

 だがこれでフリーになったので、後ろ髪を引かれながらも厨房へ向かう。



「兄さま、今日のメニューはどうしますか?」


「豚丼と豚汁だな」


「とんじるは前に作りましたが、ぶたどんって豚を焼いたお肉をお米の上に乗せるのですか?」


「ちょっと甘辛く煮た豚肉を白米の上にかけるんだよ。俺の住んでた日本だと代表的なファストフードだな。豚より牛の方がメジャーだけど」


「わかりました。とんじるは任せてください」


「次回以降の豚丼のレシピ調整は任せるぞ。コスト次第じゃ弁当販売に加えたいメニューでもあるし」


「はい、任せてください!」



 クレアの「ふんす!」という気合を入れた声を聞き、安心して豚丼の調理に取り掛かる。

 巨大な寸胴を火にかけてからごま油を引き、スライスした玉ねぎを軽く炒める。

 肉屋で薄切りにしてもらった豚バラを投入して肉全体に火が通ったところで、醤油、砂糖、料理酒、すりおろした生姜を入れて煮込む。簡単だ。

 量が多いからそれだけは大変だけど。



「食紅が無いから紅ショウガがじゃなくて生姜漬けだけどまあ無いよりはマシか」


「ピクルスと相性良さそうな感じしますね」


「豚丼は生姜漬けとベストマッチなんだぞ」


「楽しみです!」



 豚丼の具が大量に入った寸胴をリビングに運ぶ。おひつもあるのでお代わり対策はばっちりだ。



「いいかガキんちょども。豚丼も豚汁もお代わりあるからな。あとマヨラーども! 豚丼はマヨネーズと相性合うけどかけすぎるなよ!」


「「「はーい!」」」


「じゃあ食っていいぞ」


「「「いただきまーす!」」」


「ご主人様っ! 豚丼美味しいですっ!」


「食うの早いなサクラ。口に合ってよかったけど、向こうは牛肉って安いのか?」


「高級ですよ。多分ファルケンブルクより高いと思いますっ!」


「じゃあ牛丼なんかめったに食べられないか」


「そうですね、牛スジ肉の牛丼とかならそこまで高くないですよっ!」


「あー牛スジ肉があったか。下処理に手間がかかるけど確かにそんなに高くないからな。次は牛スジ肉でやってみるか」


「ですですっ!」



 そう言いながらサクラは半分食べた豚丼の上にマヨをかけていく。豚生姜焼き丼とかならもっとマヨと相性良いんだけどな。

 そういやもう一人のマヨラーはと周囲を探してみると、一号がドバドバマヨをぶっかけてるところだった。

 スルーしよう。あいつはもう駄目だ。

 ノンオイルマヨとか作れないかな。せめてカロリーハーフタイプは作りたい。


 魔導遊具よりこっちが先なんじゃないか?

 ガキんちょどもの健康状態が問題ないうちに対策しないと。

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