第四十九話 魔導駆動車を作ろう!
「じゃあ兄ちゃん行ってくるな!」
「おう頑張って来いよ」
「ご主人様の代わりは任せてくださいねっ!」
「なんで俺がピッチャーなんだよ。サクラがやればいいだろ」
「わんわんっ! 先発ピッチャーが二人必要だってご主人様が言ってたじゃないですかっ!」
「俺より全然いい球投げるやつ他にいるだろ」
「ご主人様は投げられる変化球の数が多いですからねっ!」
「うーん、特に練習したわけじゃないんだけどな。握りを教わったらそこそこ投げられるようになっただけで」
「十分凄いですっ!」
先日、イザベラ学園チームのポジション決めを行った際に、先発ピッチャー候補としてサクラと俺が選抜されてしまったのだ。
ストレートは百キロちょっとくらいしか出ないが、フォーク、スライダー、カットボール、ツーシーム、チェンジアップ。
結構色々投げられるな。それも亜人国家連合でピッチャーやってたサクラが驚くほどの変化量らしい。
というかサクラはイザベラ学園チームに所属なんだな。亜人国家連合との統一選はまだやるかさえ決まってないが、もし開催したらサクラは亜人国家連合ではなく、ファルケンブルク統一チームで出るらしい。
なのでサクラはいきなりうちのエースになったのだ。
「まあ今日は城の会議に出るから練習には行けないが頑張ってくれ」
「わかりましたっ!」
今日はアイリーンもいないので一人で城に向かう。クリスもレギュラーなので野球の練習だ。会議に出ろよ。
「今日は百六十キロ投げますよー!」とかサクラが腕をぶんぶん回しながら言っているが、あいつの最高速度は百二十キロそこそこ。絶対に無理だ。
玄関を出て俺含め全員で魔導コースターに乗る。ガキんちょどもは徒歩でも十分近いのにいちいちこれに乗りたがるんだよな、通勤通学用ならチケットなしで乗れるように決めたのは俺だけど。
「では旦那様よろしくお願いいたしますわね」
学園駅にコースターが停車し、クリスが降車して俺に挨拶をする。ポジションセンターらしいけど、こいつがピッチャーやればいいのに。
「まあいいけど、高度な政治判断が必要な議題とか領主家の予算関係とかはお前にそのまま投げるからな」
「はいお任せくださいませ。ですがもう旦那様お一人でも十分政治を行うのは可能だと思いますけれど」
「責任はちゃんと取るけど、あくまでも俺は素人だ。お前やアイリーンの補佐は絶対に必要だからな」
「ふふふっありがとう存じます旦那様」
クリスの笑顔に見送られてコースターが発車する。今コースターに乗ってるのは俺一人だ。すごく恥ずかしい。
と言っても学園駅から城のバルコニー駅までは人目に付きにくい場所なので、公園に来ている領民に見られにくいのは助かる。
とはいえ、魔導コースター通勤はシュール過ぎるから別の方法を考えたい。馬も良いけど馬糞とかあるし、まだ歩いて城まで行く方が気は楽だ。
色々考えているうちに、コースターが城のバルコニー駅に滑り込んでいく。
「閣下、おはようございます」
「おはようアイリーン」
「皆すでに揃っています」
「出席率は良いんだよな。昼飯とおやつ目的だから」
「否定はできませんが、みな有能な官僚なのですけれどね」
「俺は仕事ぶりは見てないからなあ」
「まあ普段の彼らを見てたらそう思われるのは仕方がないですね……」
残念な部下の話をアイリーンとしながら会議室に入る。
すでに着席している連中を確認すると魔導士協会の爺さんが今日も出席している。まあ城壁とか魔導遊具関係で最近は色々仕事を発注してるしな。
「よしじゃあ始めるか」
席について会議の開始を合図すると、いつものようにすっとアイリーンが挙手をする。
いつもの光景だなと、頷いてアイリーンに許可を出す。
「はっ。本日の議題ですがまずはこれを」
アイリーンの合図で女官が書類を配っていく。
「お、魔導自動車の試作品が完成したのか」
「はい。ロイド卿、ご説明をお願いいたします」
「おう。魔導コンバインの駆動部分だけをコンパクトにして、異世界の自動車をもとにデザインした乗り物に搭載しただけじゃがの」
「写真を見るだけで十分凄いんだが、なんで見た目がハイ〇ースなの?」
「子どもを乗せるんじゃろ?」
「まあそうなんだけど。なんか……まあいいか」
「儂らが入手したカタログだと、普通乗用車ではこれが一番使い勝手が良いと書いてあったぞい」
「うんそうだね」
「なんじゃノリが悪いのうトーマよ」
「ちょっとかっこいいバギータイプかなあって妄想してたわ。異世界で魔力で動く自動車って舗装されてないところを走る前提だったけど、これって領内で走るバスの試作だからそうだよな、輸送量で選ぶよな」
「まあその辺は別途予算をくれればいくらでも作るんじゃが……。ともあれ魔導士協会では、魔導自動車ではなく魔導駆動車と名称を変更することを希望する」
「いいけどなんで?」
「かっこいいじゃろ?」
「まあわからんでもない」
「試運転は安全確認が終わり次第実施の予定じゃ」
「わかった。そのあたりはアイリーンと調整してくれ。テストコースは旧城壁と新城壁の間とかいくらでもあるからな」
「テストで問題が無ければそのままバスの試作に入るぞい」
「うむ。バンバン作ってくれ」
「魔力消費次第じゃがな」
魔導駆動車か。バギーで荒野をぶっ飛ばすイメージなんだが、実際に完成したのはハ〇エースでした。
まあでもそうだよな。ちょっと残念。
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