第二話 共同生活


「閣下、どうぞ」



 アイリーンが俺を会議室からバルコニーまで案内し、魔導コースターへの搭乗を促す。

 たしかに学園に行くにはこれが一番早いけどさ……。

 チラと後ろを見ると、ファルケンブルクの幹部連中がずらっと並んでいる。

 このメンツで乗るのか? というかなんで着いてきたんだこいつら。

 たしかに会議で話す内容は全て終わって、そのまま解散しても良かったんだが、俺が『学校に行くぞ』と立ち上がったせいで、着いてこいという命令に聞こえたのかもしれん。



「そういえば今日はクレア様が調理部で指導する日らしいな」


「今日のメニューは炊き込みご飯らしいぞ」


「うう、婆さんの作る残ぱ……夕食の前にクレア様の作る食事を食べられるとは!」



 なるほど、こいつら俺の用事のついでにクレアの作る料理が目当てなんだな。

 というか三人目、今残飯って言いかけただろ……。虐待でもされてるのかよ。


 あまり躊躇している時間は無いので、絵面を気にしないでさっさと魔導コースターに乗ることにする。

 なにしろ他の客も乗っているからな。あまり停車時間を長くして迷惑をかけるわけにはいかない。



「じゃあ乗るぞ。帰りたい奴は帰っていいからな。クレアの飯は食えるとは限らないから食えなくても文句言うなよ」


「「「はーい」」」



 妙に幼児化している幹部連中は結局全員が魔導コースターに乗って俺とともに学園に向かうことになった。



「婆さん、貴族が連れてきた従者連中はどこにいるかな」


「今は授業が終わって部活動の時間ですから、各自、主人の個室で迎え入れる準備をしてる頃じゃないでしょうか?」


「じゃあ寮に行って個室をひとつひとつ回っていくか」





「なんだ、ここはアルバート伯爵が嫡子、ルイ・アルバート子爵の部屋であるぞ」



 寮に入って最初の個室のドアをドンドンとノックして返ってきた返答に、思わず頭痛がする。

 いきなり身分を持ち出すのか。学園内では身分の上下は無いという旨の誓約書にもサインをさせたし、そもそも今留学生として受け入れている連中は、ラインブルク王国の貴族として素行に問題がない家の子弟を受け入れたはずなんだが。

 まあ立派な親の子も立派というわけにもいかないか。



「とりあえずドアを開けろ、話が出来ん」



 ガチャリと開いたドアから、三十台半ばくらいの男が出てくる。



「一体何の用だ。ルイ様はまだお帰りになられていないぞ」


「ルイとやらは知らんが、その前にお前は学園生じゃないだろ。すぐに学園の施設から出ていけ」


「いきなり何をわけのわからんことを言い出すのだ」


「はいはい『イザベラ学園ファルケンブルク校則 学園施設の取り扱いについて 第十条 正当な理由がなく、かつ、所定の手続きを行わずに学園施設内に立ち入ることを禁ずる』に違反してるからお前は強制退去な」



 俺の後ろについてきてる幹部連中は婆さんの許可済みだから大丈夫だろう多分。

 というか校則ももっと事細かく決めておかないと駄目だな。今回は部外者の立ち入りについてたまたま決めておいたからよかったけど。



「私はアルバート伯爵より直々にルイ様のお世話を任されているのだ。そんな校則とやらに縛られるわけがないだろう」


「もうめんどくさいから強制退去な。アルバート伯爵とやらの元に送り返してやるからそれまでは城の個室で大人しくしてろ。メイドさーん」


「なっ!」



 どこからともなく現れたメイドさんが従者の男をあっという間に拘束する。



「城に連れてって。丁重にな」


「はっ」


「貴様! こんなことをしておいてただで済むと思うなよ!」


「ただで済まないのはお前じゃなくてお前の主人のルイとやらだぞ。『生徒の規律について 第一条 本学園の生徒は貴族、平民を問わず公平に扱うこととし、また、生徒は身分の高低によってその立場を利用してはならない』。それと『第二条 生徒が本校の定める諸規定を守らず、その本分にもとる行為のあったときは懲戒処分を行う』に違反してるんだよ」


「そんなものは知ったことではない!」



 覚えてろよーとか言いながら複数のメイドさんに連行されていく従者。お前は校則すら覚えてなかっただろ。



「……ちわっこに書簡を送らないとな。あとアルバート伯爵とやらとにもか。アイリーン」


「はっ。申し訳ございません閣下」


「ちわっこ派の貴族で素行が良い家の子弟でもこんな感じなのか。めんどくさいな貴族って」


「いえ、トーマさん。ほとんどの貴族の生徒は真面目に授業を受けて生活をしていますよ」



 婆さんが生徒を庇うようにそう言う。婆さんには苦労を掛けてるな。

 ファルケンブルク伯爵の義母という立場を行使すればなんて事の無い問題なのに、婆さんは一切そういう身分を持ち出したりしない。

 なので生徒は婆さんが領主の義母ということすら知らないのが大半なのだ。



「それでも従者を連れ込んでるのはひとりふたりじゃないんだろ?」


「そうですね……ひとりで生活をさせるということに不安を覚える貴族の方は多いですね。それでも何人かは説得に応じてくれて退去して頂けましたが」


「そのあたりをきっちりとちわっこに話しておかないとな」


「やはり以前閣下が仰っていた『体験入学』というのを行うべきではないでしょうか?」



 何やら副官らしき女性とこそこそ話していたアイリーンが以前俺が提案した体験入学の案を持ち出してくる。

 元々は学校制度を知らない領民のための施策だったんだが、貴族に対しても有効かもしれない。



「一週間くらい従者無しで生活させるのもありかな。できれば一度父兄に『生徒たちは従者に頼らずこういう生活をしています』と見せたいところだが」


「シャルロッテ殿下、いえ、シャルロッテ王国宰相代理閣下にそうお伝えしておきます」


「ちわっこも収穫祭を目の前にして忙しいだろうけどな。この問題は早めに解決しておかないと、来年度からは一気に生徒数が増えるし」


「はい」



 しかし問答無用で強制退去させたけど、これをあと何回繰り返せばいいのか。

 次の個室に行く前に、制服を試作する話はクリスにはしておかないとな。これも早めに対処したい。

 平民が貴族の高価な服を汚したとか大騒ぎする馬鹿が湧くかもしれないしな。



「アイリーン、クリスにも制服の件伝えておいてくれ。ちょうど今は部活動の時間だろ?」


「すでに連絡済みです」


「いつもながら仕事が早いな。じゃあ次の個室に行くか」



 とはいえ、いきなり大人数で押しかけるのも相手を威圧しているようで嫌だな。

 婆さんとアイリーン以外は別に何かしてるわけじゃないんだけど。

 せめて少しでも場を和らげるために大きなしゃもじを用意してもらおうかと思ったが、誰も突っ込んでくれなさそうなのでその考えは捨てる。

 まあさっさと従者を強制退去させて、個室を取り上げるか。



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同時連載しております小説家になろう版では、十一章の水着イラスト、十三章の制服イラストをはじめ200枚近い枚数の挿絵が掲載されてます。

九章以降はほぼ毎話挿絵を掲載しておりますので、是非小説家になろう版もご覧いただければと思います。

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