第二話 追跡
「駄姉、どう思う?」
「どうとは?」
「野盗なんて実際いるのかね? ファルケンブルクの町じゃ聞かなかったが」
「城塞都市である王都内はともかく、城壁の外の治安が良くないのは本当ですよ」
「盗賊ギルドは何をしてるんだ? こういう連中を一纏めにするっていう建前すらできないのかよ」
「そういう不条理がまかり通るからこそ、この国の命数が尽きかけていると申す者も多いのですよ旦那様」
「もし実在するんだとしたら生け捕りにしたいな。盗賊ギルド廃止の名目になるかもしれないし」
「数人であれば風縛や氷の棺で拘束は可能ですけれど、あまり人数が多いと何人かは殺さないと対応しきれませんね。一箇所に纏めればわたくしの魔法で纏めて拘束すること自体は可能ではありますが、それでも半径十メートル程とお考え下さい」
「まあ人殺しは正直抵抗あるが、人さらいを平気でやる連中なんざ殺しても良心が傷まないからその辺は臨機応変だな。最悪一人残して残りは殲滅してもいいし。そういや貴族の立場で登録証に殺人者って出たらどうすんの?」
「指名手配されているような犯罪者であればその首を持っていくか、殺した者の犯罪が証明出来れば無罪ですわ。今回は近衛騎士団が一緒ですからその辺りの心配は必要ありませんけど」
「じゃああまり気にしなくても良いか。クレアがいるから少しでも危ないと思ったら躊躇なく殲滅するけどな」
「ですね」
駄姉の細い腰に手を回しながら考える。
「ベルナール、その野盗の連中ってどれくらいの規模なんだ?」
問われたベルナールは、俺に馬を寄せて答える
「二十人前後の規模と予測されています」
「ちょっと多いかな?」
「魔法が使えないのならばものの数ではありませんわ旦那様」
「そのあたりどうなんだベルナール」
「数名、初級魔法を使う者がいるという程度でしょうか」
「お前らは魔法をどれだけ使えるんだ? 一応親衛騎士団って事は貴族ではあるんだろ?」
「我ら三名、中級魔法であれば行使可能です」
「なら大丈夫か。最悪こちらに被害が出そうになったらメギドフレアで一掃するが構わんか?」
「あの……王女殿下の救出が主目的ですからね、お願いしますよ本当に」
「すっかり忘れてた。人質に取られたりでもしたら面倒だな」
「それでも数人であれば問題無く拘束できますから大丈夫だと思いますわ」
「ま、最悪の事態は想定しておいてくれベルナール」
「いやいや、本当に頼みますクズリュー閣下。王女殿下のお命だけは確実にお救い下さい」
「まーでも野盗に出会うことなくその辺を逃げまどってるだけかもしれないしな。何騎か護衛もついてるんだろ?」
「一応親衛騎士団の中でも手練れの者がついてますが、地竜をたやすく屠れる閣下達ほどではありませんので……」
心配性なベルナールの案内で十分ほど走ってるが、形跡すら見当たらない。
うーん、手分けするか?
いや流石にな。
「ブルダリアス卿! あれを!」
ベルナールの配下らしき親衛騎士団の一人が遠くを指してベルナールに声をかける。
魔力を行使して視力をあげているのか、俺には良くわからん。
「あれは、親衛騎士団の鎧! 閣下!」
「ああ、連れて行ってくれ。俺には見えん」
遠視の魔法って白魔法だっけか、属性はあるけど苦手なんだよな。
それでも便利すぎるから駄姉にでも習っておくか。
速度を上げて近づいていくと、馬と共に倒れている騎士がいた。
「モルガン! 大丈夫か? 王女殿下はいずこか⁉」
ベルナールが馬から飛び降りて、倒れていた騎士の上半身を起こす。
「ブルダリアス卿、申し訳ありません、王女殿下は、野盗の群れに追われてあちらの方へ」
モルガンと呼ばれる男が更に遠くを指差す。
「どれほど前だ?」
「五分ほど前です……、すぐに王女殿下をお救い下さい」
「クレア、馬に乗ったまま治癒をかけられるか?」
「はい兄さま!」
鎧を纏っているので怪我の具合は良くわからんが、骨折とかまでは行ってないようだ。
駄妹がモルガンに馬を寄せ、クレアが馬上からモルガンと馬に治癒魔法を行使する。
馬にもか、サービス精神旺盛だなクレア。
「? 兄さま、一応終わりました……」
少し納得いかないような反応をしたクレアが治癒の終了を告げる。
鎧を脱がしている時間は無いからな、応急処置さえ終わればあとは王都の治療院に任せた方が良いだろう。
「ありがとうクレア。とりあえずはこれでいいだろう。動けるようなら王都に戻って治療院で診察してもらえ。ベルナール急いで追うぞ」
「はっ、部下への治癒魔法ありがというございます」
「お前たち戦闘要員の魔力を減らすわけにもいかんからな」
モルガンは俺とクレアに感謝の言葉を述べ、馬に跨って王都へ向かう。救援も呼ぶとの事だが、救援を待つ時間は無いので、ベルナールの後に続いて進んでいく。
移動しながら簡単に作戦会議だ。
「シルは二人を守ってくれるか? 基本は俺とクリスで片づける。打ち漏らしたらのが近づいてきたら対応してくれ」
「お兄様、しかし」
「お兄ちゃん! 私だって戦えるよ!」
「出来ればエリナには人殺しはして欲しくないんだよ、俺のわがままだけどな。ただ身の危険を感じたら躊躇なく殺せ、相手は犯罪者だから遠慮しなくていい」
「でも!」
「姉さま、兄さまのいう事を聞きましょう」
「クレア……うん」
「クレアはさっきと同じように防御魔法を使ってくれ、矢とか初級魔法が飛んでくる可能性がある。あとクレアの魔力はでかすぎてムーンストーンだとあまり持たないから、ここぞという時以外は増幅をするなよ」
「わかりました兄さま」
「シル、頼んだぞ」
「かしこまりましたお兄様」
「クリスは馬に乗ったままで良いから俺の援護だ。俺は疾風を使って接近戦を仕掛けるから頼んだぞ」
「お任せくださいませ旦那様。旦那様に指一本触れさせませんわ」
「ベルナール、もし王女とやらが捕まってたら俺が一気に接近して救出する。その後は一気に離脱して連中を纏めて吹き飛ばすかもしれんから、可能な限り遠巻きにして逃がさないようにしろ」
「わかりました閣下。……っ! あれを!」
ベルナールが指差す方向を見ると、馬群のような塊が見えてくる。
「あれか、まだ王女殿下とやらは捕まって無いようだな。ベルナール、クリス、シル速度を上げるぞ」
「「「はい」」」
大きく弧を描くように移動している馬群を、直線で追うようにして距離を縮めていく。
まだこちらには気づいていないようだ。
その馬群の先頭、数十メートル先を一騎の近衛騎士団の鎧を纏った騎兵が走っている。
その騎士が一人の子供を抱えているが、あれが王女だろうか?
「ベルナール、あれが王女か?」
「はい、あのお召し物は間違いありません」
「なら一気にやるぞ、クリスはまずあの馬群の後方に魔法をぶち込んでやれ。混乱に乗じて俺は一気に疾風で接近してあの騎士を救出する。ベルナールたちは奴らを逃がさんように散開しておけ。シルはクリスからあまり離れないように距離を取りつつ周囲の警戒だ。徒歩の野盗がいるかもしれんからな。見つけたらクリスと合流しろ」
「「はい!」」
「はっ!」
ベルナールたち三騎が俺達から離れ、大きく散開していく。
クリスが馬の疲労を考慮せずに速度を上げる。
「さあ、面倒ごとはさっさと片付けるか」
「ええ!」
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