第五章 ヘタレ王国宰相

第一話 王都へ


 婆さん、事件です。

 俺達は今、三日後の叙爵式に向けて王都へ移動している最中に、地竜と出会ってしまいました。



「やっぱり嫌な予感が当たったわボケ!」


「お兄ちゃん、発作の前にあの人たちを助けないと!」



 騎兵が四騎ほど、必死に地竜の追跡から逃げている。

 どこかで見た光景だ。



「だよな。駄姉妹、準備は良いか?」


「「はい!」」


「クレアはこのまま馬車の中で、防御魔法を目いっぱいの魔力で張って非戦闘員を守ってくれ」


「わ、わかりました兄さま!」


「といっても駄姉のメギドフレアで一発だろ?」


「可能だと思いますけれど、出来る限り少ない傷で仕留めましょう旦那様。領地が潤います」


「剥ぎ取りの心配かよ……。と言ってもメギドアローで地竜の足を吹っ飛ばして首を斬るくらいならやれるとは思うが」


「お兄ちゃん任せて!」


「どうだ駄姉? エリナとメギドアローで両足を飛ばして首を切断する程度の損傷で我慢しろ、もちろん俺がヤバそうだったらメギドフレアで仕留めろよ怖いから。再生魔法が使えるからちょっとくらいは平気かなとか思うなよマジで。フリじゃないからな!」


「かしこまりました旦那様」


「じゃあ行くぞ駄妹。極光の雷剣ライトニングソード!」


「はい、お兄様! 極氷剣フリーズブレード!」



 俺は刀身を倍ほどに延伸する雷魔法を、駄妹も同様に刀身を延伸する水魔法を行使して備える。



「ではエリナ様、わたくしはこちらから見て左の前足を狙います」


「うん! じゃあ私はその逆ね!」


「「天の火矢メギドアロー!」」



 赤光の帯が地竜の左右それぞれの前足を根元から吹き飛ばす。

 エリナの魔法って駄姉と同じくらいの威力じゃないか、これってやっぱりチートってやつだろ。

 頭部か心臓に当てたらそれで終わりじゃねーか。

 高額素材の牙か心臓は無くなるけど。



「駄姉、一応風縛を使っといてくれ、少しでも動きが鈍れば楽だから」


「はいはい」


「お前ちゃんと返事しろよ、そんなキャラじゃなかっただろ」


「つーん」


「くっそ、安全策を取ったからか、思いっきり不満たらたらじゃねーか」


「お兄様行きましょう」


「駄妹は良い奴だなー」


「お兄様! えへへ!」


「あと鎧をつける暇も無かったからしょうがないけど、お前はスカートのままなんだから気をつけろよ!」


「大丈夫です! お兄様以外に肌を見せるような事はいたしません!」



 前足を二本とも失った地竜どったんばったん暴れているが、近づかなきゃ牙も後ろ脚の爪も届かないから安心だ。

 騎兵も俺達の魔法で地竜が倒れたのを見てこちらに向かってくる。



「はいはい、風縛エアバインドー」



 駄姉のやる気の無さそうな風縛で、地竜の動きが弱まる。

 あんなにやる気の無い呪文詠唱は初めて聞いたわ。



疾風スイフトウインド!」


「あ、お兄様! 待ってください! 地走スプリント!」


「せいっ!」



 一気に地竜に近づき、飛び上がって首を切断する。

 が、刀身の長さが足りないせいで、半分程度残してしまう。



「はっ!」



 即座に斬りかかった駄妹が残りの部分を切り離し、地竜の首を完全に切断する。



「親父の打った日本刀はやっぱりすごいな、ライトニングブレイドを使っていたとは言え全く抵抗なく刃が入ったぞ」


「素晴らしい業物ですね! 竜の骨や鱗の抵抗を全然感じませんでした!」



 ガガガガガッ!


 地竜に追われていた騎兵がこちらに向かってくる。

 駄妹は俺を守るように背中に隠し、日本刀を騎兵たちに向ける。

 駄姉たちも馬車を率いてこちらに向かってくるようだ。



「しばらく! しばらく! 某はラインブルク王国親衛騎士団所属ベルナール・ブルダリアスと申す! 貴殿たちに頼みがある!」


「待て! こちらはファルケンブルク伯トーマ・クズリュー閣下であるぞ! 下馬せず声を掛けるとはなんという無礼だ!」



 やだ、駄妹がすごくカッコいい。

 まさに女騎士然と日本刀をベルナールと名乗る男に向け、堂々と言上する。

 滅茶苦茶美人だしなこいつ。

 俺達は刀身延伸の魔法を解除せず、一応親衛騎士団と名乗る連中に警戒をする。

 まあ手を出そうとしたらこちらに向かってきているエリナと駄姉の魔法で一瞬で蒸発するだろうけど。



「こ、これは失礼を!」



 ベルナールと名乗った男と、それに率いられていた三人が転げ落ちるように下馬してから跪く。



「で、頼みとは?」


「はっ、実は王女殿下をお救い頂きたく!」


「面倒ごとが……」


「は?」


「いやこちらの話だ。続けろ」



 ガラガラとエリナ達が馬車と一緒にやって来たが、ベルナールはちらりと見ただけで、話を続ける。



「我々は王女殿下を護衛していたのですが、地竜と遭遇した為に、何騎かに別れ地竜をひきつける役目を負いました。ただこの辺りは最近野盗が出るというので警戒していたのですが、我が配下が最後に目撃した王女殿下一行は、その野盗のアジトがあると目される方角へ向かったとの事で、是非一緒に向かっていただきたいのです」


「話は分かった。クリス」


「はい旦那様。シルヴィアの馬にはエリナ様とクレア様。わたくしの馬には旦那様にお乗り頂いて、その王女殿下の元に向かいましょう。残った者には地竜の後処理をさせたいと存じますが」


「わかった。ただベルナール、お前の所から一騎貸してくれ。王都への伝令も必要だろう。こちらも二騎出すから、地竜回収の手筈も一緒にさせたい」


「はっ! 閣下、某の願いをお聞き届け頂きまして有難う御座います」


「気にするな、さあ案内してくれ」


「はっ!」



 護衛についていた十騎のうち、一番体格のいい二頭の馬を借りて、それぞれ騎乗する。

 女性陣はそれぞれ用意していた騎乗用のズボンをスカートをはいたまま着用してバッチリ対策済みだ。

 光線とか期待できないからな。

 それにしてもクリスの腰に手を回して後ろに乗ってるが、凄くダサいし恥ずかしい。

 帰ったら騎乗の訓練をしよう。


 ベルナールの部下一騎にこちらの騎士を二人着けて王都に向かわせ、俺達はベルナールの案内で王都とは逆方向に向かって馬を走らせる。


 嫌な予感って地竜だけじゃなかったのかよと思いつつも、クリスの良い匂いにちょっとドキドキしてる自分に呆れるのだった。

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