第二十四話 おにぎり


 観覧車で遊びまくったあとは昼飯の準備だ。

 普段はガキんちょどもは給食を食べるので俺たちもついでに給食を配膳してもらったりしていたが、学校が冬休みに入ったので昼飯を作る必要があるのだ。

 帰る家の無い他領の孤児は寮で生活を続けるために、職員は交互で休暇を取って貰う必要があるのでわざわざ面倒をかけるのもな。

 

 魔導観覧車は一応の安全確認はできたので、せっかくだからと昼飯まではとガキんちょどもに解放した。

 爺さんとクリスとシルを念のために待機させてるから何か起きても対応可能だろう。

 ミコトはまだ観覧車に乗りたいと言い出したのでクリスとシルに預けてきた。



「エリナは良かったのか?」


「エマちゃんが疲れて寝ちゃったしね」


「兄さま、魔導観覧車は領民の皆さんに開放するのですか?」


「そのつもりだけど?」


「ファルケンブルク領は五万人以上を抱える大都市ですよ。最大三十六人しか乗れない魔導観覧車だと大変じゃないですか?」


「あーそうだな。なら十五歳未満の児童に限定開放して、児童だけもしくは児童と同伴する保護者のみ搭乗可能にするか。職業斡旋ギルドかどこかで利用チケットを何枚か配布して、利用状況を見ながらチケットの枚数を増減する感じで」


「凄いねクレア!」


「てへへ、姉さまありがとうございます」


「メイドさーん」


「はっお側に」



 前回呼んだ時より更に短くなっているメイドさんのスカートには触れずに用件を伝える。



「さっきの話聞いてた?」


「魔導観覧車利用チケット導入の件ですね」


「それと利用時間の設定だな。安全担当係員の負担もあるだろうし、魔導士協会との兼ね合いもあるからそのあたりも」


「かしこまりました」


「アイリーンには申し訳ないけどって伝えておいて」


「かしこまりました」



 挨拶をするといつの間にか消えるメイドさん。そろそろミニスカメイドさんって言わないといけないかもしれない。



「お兄ちゃん、メイドさんのスカート短くなってるよね?」


「俺が指示してるわけじゃないんだけどな」


「その方が動きやすいのかなー?」


「可愛いですよね姉さま!」


「そうだね!」



 怒られるかと思ったが意外とそのあたりは緩かった嫁二人を連れて家に戻る。

 エリナとエマを炬燵に入れたらクレアと料理開始だ。



「兄さま、メニューはさんどいっちとスープでいいですか?」


「そうだな。あとおにぎりを出してみるか。中の具は前に試作した牛スジ肉のしぐれ煮と茹でた鶏ささみをほぐしてマヨネーズで和えたやつの二種類だけど」


「そうですね。その具ならみんな大好きだと思いますよ」


「じゃあさっさと用意しちゃうか」


「はい兄さま」



 サンドイッチとスープをクレアに任せ、俺はおにぎりをどんどん握っていく。

 養護施設時代はガキんちょどもの弁当を作ってたから、ちゃんと三角形に握れるのだ。

 だが養護施設のガキんちょどもが一番好きだったツナマヨがファルケンブルクではなかなか手に入れるのが難しいのが残念なんだよな。

 代わりに茹でた鶏ささみをほぐしてマヨで和えた具を用意するが、ちょっと味わいが違うんだよ。これはこれで美味いんだけど。

 などとちょっとしんみりしていると、クレアが「兄さま、みんな帰ってきましたよ」と言い防御魔法と施錠魔法を解除する。



「ちょうど握り終わったから持っていくか」


「はい」



 テーブルに並べ終わるころにはガキんちょどもは手も洗って準備万端だ。



「おにぎりの具は、頭にマヨがちょこっと乗ってるのが鶏ささみマヨ、何もないのが牛スジのしぐれ煮だからな。じゃあクレア頼む」


「はい。じゃあみなさん。いただきます」


「「「いただきまーす!」」」


「エリナはどうする?」


「おにぎりを食べて見たいかな!」


「じゃあまずは鶏マヨだな」



 エリナにひょいっと鶏マヨおにぎりを渡す。

 サンドイッチやおにぎりのような片手で食べられる物の場合は、基本エリナはエマを手離さない。

 いや俺やクレアが「預かるよ」と言えば渡してくるんだが。



「お兄ちゃん美味しいよ!」



 鶏マヨおにぎりをかぷっと一口食べたエリナが、珍しく口の中の物を飲み込んでから声を上げる。



「海苔は気にならないか?」


「うん! 香草より落ち着く香りがするね。いい匂い!」


「そか、なら問題ないな」



 鶏マヨおにぎりを食べ終わった後に牛スジおにぎりを口に入れたエリナは「これも美味しい!」と満足げだ。



「パパ! みーこも!」


「はいはい。まずは鶏マヨな」



 俺がふたつに割って渡した鶏マヨおにぎりに、かぷっと可愛く食いつく。



「おいしい! みーこすき!」


「そかそか、牛スジの方も食べてみるか?」


「あい!」


「じゃーパパが半分の鶏マヨおにぎりを食べてやるからな」


「やだ!」


「ミコトは全部食べられないだろ」


「みーこの!」


「兄さま、ミコトちゃんなら食べられますから大丈夫ですよ」


「え、おにぎり二個も食べられるの?」


「もっと食べられますよ?」


「ミコトのこのちっこい体のどこに入るの?」


「クリス姉さまにも聞いたのですけど、クリス姉さまもミコトちゃんくらいの頃にはこれくらい食べてたと」



 ミコトを見ると、鶏マヨおにぎりを食べきって、牛スジおにぎりをぱくぱく食べ始めてる。

 そういや全属性持ちなんだよなミコトって。



「これじゃねーの。栄養が魔力になってるとかさ」


「どうなんでしょうか。一応毎回食後にはクリス姉さまに診て貰ってますが異常などはないと……」


「魔力総量の測定もしたほうが良いのかな。多すぎたらまずかったりしないのか?」


「励起はまだ駄目でしょうけど、魔力総量は確認したほうが良いかもですね」


「クリスか爺さんに相談しておくか……」



 ミコトの食欲にビビりながらも、なんとなく孤児院の連中が全員魔力持ちなのかが理解できそうだ。

 勿論大量に食うってだけで魔力を得るわけじゃないんだろうけどな。

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