第二十五話 年越しのサプライズ


「兄さま、夕食の支度が終わったので年越し用のおそばを茹でちゃいますね」


「亜人国家連合と交易が始まって色んなものが手に入るようになったよなあ」


「亜人国家連合の品物はファルケンブルクでも人気ですよね」



 大晦日の午後、クレアと二人で晩飯と年越し用の天ぷらそばを作っている。

 亜人国家連合から蕎麦の乾麺が輸入されるようになったのでそれを使ってちゃんとした年越しそばを作るのだ。

 去年まではガキんちょどもには年越しパスタを提供してたからな。



「こっちも晩飯の支度が終わったから。さくっと天ぷらを揚げちゃうか。クレアが衣の準備もしてくれたからな」


「マジックボックスのおかげでだいぶ楽になりましたからね」


「常備菜を常にストックできるのは良いよな。仮にメインのおかずが用意できないハプニングがあってもなんとかなるし」


「ですね」



 魚介類が絶望的なので、鶏天かしわ天以外はすべて野菜の天ぷらだ。

 どんどん天ぷらを揚げてマジックボックスに収納していく。



「エビが欲しいなあ」


「兄さま、以前にサクラ姉さまが田んぼからザリガニを取ってきてくれたじゃないですか。あれじゃダメなんですか?」


「ヨーロッパじゃ一般的らしいんだけどな。日本じゃあまり食べなかったんで食用ってイメージが無いんだよなー」


「ファルケンブルクでもあまり見たことないですしね」


「結局サクラの要望通りにフライにしてやったけど、サクラ以外誰も手を付けなかったな」


「あの子たちは生きてるザリガニを見ちゃいましたからね……」


「まあザリガニを初めて見て美味しそうと言い出さなくて良かったと思うことにする」



 クレアとザリガニ談義をしながらも天ぷらを揚げていく。

 見た目完全にエビフライだったんだよなあの時のザリガニ。

 今は時期的にザリガニはいないだろうけど、天ぷらにしたら案外美味いかもしれん。ヘタレだから食べないけど。


 一通り揚げ終わったので、最後には玉ねぎとごぼうのかき揚げだ。

 桜エビも貝柱もゲソも無いから少し残念だけど、よく考えたら養護施設時代のかき揚げは玉ねぎだけだったわ。

 少し昔を思い出してしょんぼりしながら天ぷらを揚げる。

 どうせガキんちょどもは蕎麦だけじゃ足りないとか言い出すから、天丼用のつゆを作っておいてやるか。



「兄さま、お蕎麦終わりましたよ」


「こっちもごぼうが入って豪華になったかき揚げが終わったぞ」


「兄さまがまた変なことを」


「玉ねぎとごぼうのかき揚げは豪華なの。俺基準で」



 釈然としない表情のクレアをスルーしてリビングに向かう。

 年越しそばの前にまずは晩飯だからな。

 ささっとリビングに料理を並べる。

 今日は恒例になった、明日の誕生日プレゼントとして、少し早いが新品の服をプレゼントする日でもある。

 誕生日を祝う風習が昔の日本っぽくて助かる。孤児だと誕生日自体不明だしな。

 エマにはちゃんと誕生日はあるが、特別に祝ったりしない。ここのガキんちょたちと同じように扱うつもりだ。



「いいかお前ら。飯食い終わったら服屋が来るからな。一度着替えてサイズの微調整とかあればその場で言うんだぞ」


「「「はーい!」」」


「じゃあ食ってよし!」



 今日のメニューはカレーピザにマルゲリータピザに加えて、鶏から、ポテサラ、サラダ、ジャガイモとベーコンのスープなどが並んでいる。



「兄ちゃん!」


「またうるさいのが来た」


「カレーピザって美味いのな!」


「わかったわかった。俺の分をわけてやるから自分の席で食え」


「わかった! ありがとうな兄ちゃん!」


「もう来るなよ。うっさいから」


「つれないな兄ちゃんは!」


「大人しく飯を食えっての……」



 俺の皿に乗せられたカレーピザを一号に渡すと、ニカッと笑って自分の席に戻っていく。

 食い意地が張ってるだけなのに、なんて爽やかなんだあいつ。



「お兄ちゃんはなんだかんだアランを可愛がってるよね!」


「エリナは自分の目を治癒したほうが良いぞ」


「お兄ちゃんってヘタレと照れ屋なのがいつまでも治らないよね。治癒でも治らないし」


「定期的に俺に治癒魔法かけるのはそれか。あきらめろ、治らんから」


「えへへ!」



 何故かご機嫌のエリナをスルーして食事を続ける。

 カレーピザは予想以上に好評だったようだ。来年の年越しそばはカレー南蛮でもいいかな。



「兄さま、服屋さんが来たみたいですよ」


「お、そうか。玄関まで迎えに行くか。クリス、いいか?」


「はい旦那様」



 すでに食事を終えていたクリスを連れて玄関に行き、服屋の連中を迎え入れる。女性係員だらけなのはハンナとニコラ対策のためだ。

 まあ今では平気だが、昔は女性係員でも泣いちゃったんだよな。


 今年は寮の孤児たちの服も作ったので、服屋の内何人かをクリスに案内させる。



「ガキんちょども、服が来たぞー! 受け取ったら部屋で着替えるように。着替えたら服屋さんにチェックしてもらうんだぞー!」


「「「はーい!」」」



 わいわいとガキんちょどもが新しい服を嬉しそうに抱えて、自分たちの部屋へと小走りで向かう。

 託児所組にも渡したので、それぞれ男子部屋女子部屋と散っていく。



「ほれ、エリナたちも着替えてこい。エマは預かっておくから」


「ありがとうお兄ちゃん! クレアもミコトちゃんと一緒に私の部屋に行こう!」


「はい姉さま。じゃあ兄さま、お部屋をお借りしますね」



 エリナがクレアとミコトを連れて俺とエリナの部屋に向かう。

 ちなみに俺の服は作ってない。普段着はいつも吊るしで買うし、貴族としての公式行事なんかの服は都度必要に応じて作ってるからな。



「エマは今ミコトのお下がりを着てるけど、早くお前の服を作れるように大きくなれよ」


「あー、うー」


「そかそか。そろそろ離乳食始めような」


「あー、きゃっきゃっ!」


「お前も食いしん坊なのかよ……。離乳食の単語への食いつきがすごいな」



 しばらくエマの相手をしていると、服を着替えた連中が服屋の連中に最終チェックをしてもらっている。



「お兄ちゃん! ぴったりだったよ! 毎年ありがとうね!」


「兄さま、いつもありがとうございます」


「というかもう地竜に続いて天竜、火竜の報酬で余裕があるし、エリナもクレアの報酬も俺の財布に入っちゃってるんだからお礼なんていらないんだぞ」


「一応ね!」



 エマをエリナに渡し、がやがやと騒がしくなったリビングを見回す。

 全員サイズは問題なかったようだ。

 また来年もよろしくお願いいたしますと服屋から派遣されてきた連中が引き上げていく。

 ガキんちょたちのサイズもそうだが、それぞれ好みのデザインまで把握してる優良店なんだよな。貴族向けの服も作れるし。



「よしじゃあ全員少し外に出るぞ!」


「兄さま? こんな時間にどこに行くんですか?」


「外にちょっとしたサプライズがあるんだよ。服はもうサプライズでもなんでもなくなっちゃったからな」


「サプライズ! 楽しみだねエマちゃん!」



 新しい服を着たエリナがハイテンションでエマに話しかける。

 エマが寝ちゃう前に見せるか。



「じゃあ全員その温かい格好のままで公園まで行くぞー。クレアは防御魔法を頼むな」


「任せてください兄さま!」



 気合の入ったクレアを筆頭に「なんだろねー」「たべものかなー?」と食い意地の張った連中たちを連れて行く。

 公園までは子供の足でもすぐだ。敷地内だし防御魔法もいらないんだが念のためな。



「あっ! お兄ちゃんあれ! すごいすごい! ほらエマちゃん見て!」


「「「わー!」」」



 公園が近づくと、エリナが真っ先に公園に設置された観覧車を指さす。

 エリナたちガキんちょどもはに大興奮だ。


 設計段階から魔導士協会の連中に、魔導観覧車に付けさせたイルミネーションだ。

 今日は特別に夜でも稼働させている。



「お兄ちゃん、観覧車に乗ってもいいの?」


「いいぞ。周囲は暗闇でそれほど面白くはないだろうけど、城をライトアップさせたから闇夜に見えるファルケンブルク城は綺麗に見えるかもな」



 きゃっきゃとざわつき始めるガキんちょども。

 ちょうど寮生たちを引き連れてきたクリスとシルも合流する。



「旦那様、随分と美しいですねこの魔導観覧車は」


「すごく綺麗ですねお兄様!」


「観覧車と言えばこれがないとな」



 ガキんちょどもを順番に魔導観覧車に乗せていく。

 まあサプライズにはなったかな。

 年越しそばを出すときにはまたガキんちょどもが騒ぎそうだが、今年も無事に終わりそうだ。

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