第二十六話 正月と言えばクールなあれ


 真っ暗な中での観覧車から見るライトアップされたファルケンブルク城はすごく神秘的だとかで、ガキんちょどもは大興奮だ。「もう一周」「もう一周」とうるさかったが、「年越し蕎麦があるぞ」と言うと大人しく魔導観覧車から降りだしてくる。

 食欲で釣れば簡単なんだよなこいつら。

 寮生と寮の職員の分もすでに届けてあるので、それぞれ分かれて戻っていく。



「兄ちゃん! 兄ちゃん!」



 リビングに戻って天ぷら蕎麦を食べさせていると、またうるさいのが絡んできた。



「なんだ一号。さっさと食って歯を磨いて寝ろよ」


「そんなことより兄ちゃん! このそばってやつに、カレーをかけたらもっと美味くなると思うんだけど!」


「流石食い意地が張ってるな一号。カレー南蛮蕎麦っていうメニューが俺の世界にはあるんだぞ」


「かれーなんばんそば! 美味そうな名前だな兄ちゃん!」


「カレーも和風出汁に合わせて味を少し変えるけどそれも美味いぞ。今度作ってやるからな。今日のところはとりあえず俺の鶏天をやるから自分の席で食え」


「ありがとな兄ちゃん!」



 俺の鶏天を一号の蕎麦の上に乗せてやると、一号は急に周りをきょろきょろしだす。

 まさかこいつマヨネーズを探してるのか?



「今日はタルタルもマヨネーズも出してないぞ。蕎麦だからな」


「ちぇっ。兄ちゃんは俺と同じマヨラーなのによくマヨネーズなしでいられるよな」


「お前と一緒にするな一号。あとサクラがいないからって俺にやたらと絡んでくるのはやめろ」


「兄ちゃんとサクラ姉ちゃんと俺の三人でマヨラー同盟だろ?」


「勝手に加えるなよ……」



 俺から戦利品をゲットした一号は「おーいどこかにマヨネーズかタルタルソースは無いかー?」と聞きながらテーブルの上を探し回っている。

 俺のマジックボックスの中にはマヨネーズとタルタルソースは常備してあるが絶対に出さないようにしよう。


 ガキんちょどもが年越しそばを食い終わったころにはすでに日付が変わっていた。



「お兄ちゃん! エマちゃんが一歳になったよ!」


「まあまだ生後半年なんだけどな」


「みんなと一緒だよお兄ちゃん!」


「そうだな。みんなと一緒に年を取っていこう」


「うん!」


「っとそうだ。忘れるところだった。シル!」



 年越し蕎麦の食器を片付けていたシルを呼び止める。



「なんですかお兄様」


「お前今日で二十歳の成人だろ? これみんなで買ったんだ」



 マジックボックスから白箱を取り出してシルに渡す。

 そう。武器屋の親父に前から依頼してあって、先日受け取ってきた玉鋼で出来た脇差だ。

 俺が去年貰ったのも脇差だったので、同様の物を用意した。

 すでに成人済みだったクリスには俺とエリナとクレアからすでに魔法石を仕込んだ魔法杖を渡してある。



「あっ、これは……」


「脇差だ。武士は二本差しだからな。抜いて確かめて見ろ」



 まあ江戸時代からの風習だがな。

 白箱から脇差を取り出し、早速抜刀して刀身を眺めるシル。



「これはまた凄く美しいです!」


「刃長は一尺六寸二分。刃文は互の目ぐのめで俺の脇差と同じく作風は総州伝。魔宝石は仕込んでないけど、玉鋼で打ったものだ」


「ありがとう存じます! お兄様、エリナちゃん!」


「あとでクレアとクリスにもお礼を言っておけよ」


「はい!」



 余程うれしかったのか、小走りでクレアとクリスのもとに行き、礼を言うシル。

 礼を言い終わったあと、脇差を自分の部屋に置くためか、早速自分の部屋に戻るシル。

 時間ももう遅いのでささっとマジックボックスにぶち込んで、洗い物などは翌日に洗うことにして、シルと同じように皆自室に戻る。





「お兄様、もちごめが蒸しあがりましたよ!」


「じゃあ早速外でやるか」



 翌朝、一号の作った臼と杵で餅を搗くことになった。

 先週あたりから餅を食べたいと言われまくっていたからだ。


 ちゃんと小豆から作った餡子や、枝豆から作ったずんだあんの他、大根おろしや磯辺焼き用の甘醤油など色々用意して上で、あまり餅を気に入らなかったガキんちょ用にパスタやおにぎりなども用意する。



「お兄ちゃん、これでおもちができるの?」


「そうだぞ。まあ見てろ」



 蒸したもち米を臼に入れ、杵を使ってもち米をつぶしていく。

 ある程度まとまりが出てきたら、杵でぺったんぺったんと搗いていくのだ。

 異世界本の雑誌を見て、これをやりたいと一号が言っていたので杵を渡す。

 餅つきじゃなくて、お笑い芸人が芸を披露しているページを見せられて絶句したが。



「兄ちゃん良いぜ!」


「いいか一号! 絶対に俺が餅をひっくり返してる時に搗くなよ! 振りじゃないからな!」


「わかってるよ兄ちゃん!」


「イマイチ信用できん。が、しょうがない。行くぞ!」


「おう!」



 一号が「よいしょー!」と先端を濡らした杵で餅を搗く。一号が杵を上げた隙に、餅を真ん中に寄せ、適度に手水を使ったり、餅をひっくり返したりしていく。



「お、上手いぞ一号。あまり力を入れなくても、杵の重さで十分だからな」


「わかった!」


「ほいっと」



 手水をつけて餅を中央に寄せる。

 一号も慣れてきて大分ペースが上がってきたところで、一号があのおなじみのセリフを言い出した。



「カッコつけて怖い話を聞いても平然と振る舞ってるふりをしてる男がいるんですよ」


「なーにー! ってそれ俺だけどやっちまってないからな。というか違うから。それ芸だから」


「こうやってもちつきするんじゃないの?」


「実際は搗いてないんだよあれは」


「ふーん」



 急に恐ろしい振りをしてきた一号をなんとか黙らせて餅搗きを続ける。



「お、もういいぞ」


「結構面白かったよ兄ちゃん!」


「何言ってんだ一号。最低でもあと十臼は搗くぞ」


「えっ」



 最初に搗きあがった餅をクレアに渡す。すでにクレアには手順は説明してあるので安心だ。

 熱々の餅を受け取ったクレアは、どんどん一口大にちぎっていき、ガキんちょどもに提供する。

 ガキんちょどもはそれぞれ餡子や大根おろしなど好きなものをかけて食べていく。



「ほら一号、こんどは蒸したばかりの餅米を潰すところからやってみろ」


「兄ちゃん俺ももちを食べたいんだけど」


「男子チームでは俺とお前が一番の年長だからな。さっさと搗くぞ」


「えっえっ」



 その後は「兄ちゃんごめん許して」というまでこき使ってやった。

 シルがノリノリで一号と代わってくれたおかげで、ガキんちょどもが腹いっぱいになった上に、のし餅をストックできるまで餅を搗くことができた。

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