第六話 最終面接


 ミコトとエマが服飾部の部員に散々着せ替え人形にさせられた翌日、ファルケンブルク城の謁見の間で求賢令に応募してきた人材の最終面接を行うことになった。

 今俺は面接前の時間を利用して謁見の間の奥に備え付けられている控室で書類に目を通している最中だ。


 ちなみに服飾部の部長であるアンナ曰く、ミコトとエマの服はサイズ調整が必要なので、後日持って来るとのことだったので、俺は娘ふたりがどんな服を着せられてたのかは全くわからない状態だ。

 変な服じゃなければいいんだけど嫌な予感しかしない。



「閣下、準備が出来ました」



 アイリーンがしかめっ面で書類を眺めている俺に声をかけてくる。

 ちょっとこの書類の件で聞きたいことがあるのだが……あとで問い詰めるか。



「わかった」



 俺は書類をテーブルの上に置き、立ち上がる。

 今この控室にはクリスとシル、それと気心の知れた側近と護衛の数名しかいないのに、アイリーンは恭しく謁見の間に繋がる扉へと俺を誘導する。


 謁見の間には扉がふたつある。

 領主の座る椅子から最も遠い場所にある扉と、この控室につながる領主の椅子から近い場所にある扉だ。

 今回、最終面接を受ける人物はもう一方の扉から入室済みで、俺を待っている。格上の人間が格下を出迎えるようなことは許されないという考えからだ。


 RPGなんかでは常に王様が調度品も何もない殺風景なところでずっと座って主人公を出迎えるイメージだったんだが、この世界の文化や風習に関して俺は無知なのであまり深く考えないようにしている。

 それでも格式張っていて偉そうな上に、前領主時代では格式を保つという名目で高額な予算を垂れ流していたのを無駄使いと判断した俺は、できるだけ無駄な出費を抑えるように指示してあるのだが、これでもクリスやアイリーンが許容できる最低限の格式らしい。


 王族の使者を迎える場合などの特別な場合は楽師なども並べるし、国宝級の調度品を並べ、女官や護衛兵の身に着けるものすら華美なものになったりする。

 ちなみに、国宝級の調度品は都度レンタルすることにして、インフラに回すための予算を得るためにほとんどをすでに売り払っていたりする。

 今回は略式ということで、一切金をかけてないけどな。


 侍女が明けた扉を、まずアイリーンが通りぬける。



「ファルケンブルク伯爵、トーマ・クズリュー閣下のお成りである!」



 凜と透き通るようなアイリーンの声と同時にクリス、シル、俺、側近、護衛の順に謁見の間に入る。

 俺が着席し、クリスとシルが俺の座る椅子の両脇を固め、更にその背後に護衛と女官が並ぶ。


 数段高い位置に置かれた椅子から頭を下げて跪いている人物を見下ろすと、紫色の髪を結った長い三つ編みが床に敷かれた絨毯に広がっている。



「アイリーン」


「はっ。今回最終面接に進んだセーラ殿です。セーラ殿、自己紹介を」



 アイリーンから声をかけられて、紫色の三つ編みをビクンビクンと跳ねるように揺らしながら、セーラと呼ばれた人物が顔を上げ、かなり緊張した様子で口を開く。

 随分と大人しい感じの可愛い系というよりは美人系の眼鏡っ子だ。凄く緊張しているのか、眼鏡の奥の目が周囲をちらちらと見回していて落ち着きがない。



「か、閣下にはお初にお目に掛かり恐悦至極で御座います。 セ、セーラと申します。」


「楽にしていいから。で、図画工作が得意と聞いたけど」


「は、はい。絵を描いたり、子どもが遊ぶような玩具を作って生計を立てておりました」


「ひょっとして絵本なんかを書いたりもするのか? ちょうど絵本を描ける人材も探していたんだが」


「物語を作るのは苦手なので、版元からたまに挿絵の依頼を受けたりするくらいです」


「それでも大したもんだ」


「閣下、こちらがセーラ殿の作られた玩具と、挿絵が載った絵本です」



 アイリーンが目配せをすると、女官がそれぞれ玩具や絵本をトレーに乗せて俺の側まで持って来る。

 手に取ったりはしないように言われているので、まじまじと玩具や絵本の表紙などを見てみるが、なるほど、これなら貴族向けの高級店で扱えるほどの出来だ。

 あと昔クレアに怒られたのを思い出した。



「うん、かなり出来が良いな。特に絵本の挿絵が描けるのなら婆さん、いや学園長も喜ぶだろうし」


「それと閣下、最終試験の件なのですが」


「そういや最終試験で課題を出したとか言ってたな」


「はっ。それで今回ファルケンブルクで新たに製品化を企画している玩具についての意見提出をお願いしました」


「……なるほど、さっきの書類はこれのことだったのか」


「セーラ殿、例の物を」


「は、はい!」



 跪いたまま自分の背後に手を回し、例のブツとやらを誇らしげに見せてくる。

 そうプラモデルだ。それもガ〇プラ。何故かアッガ〇という何とも言えないチョイスだ。たまたま見本になるプラモが載っている異世界本がそれしか無かったのかな? いやたしかにロボットの中では可愛い部類だけどさ〇ッガイ。

 あと書類によるとスライム材で作られているからスラモデルというらしい。アッ〇イというロボット名については後で問い詰めて変えさせるが。



「それで、セーラ殿の意見書がとても素晴らしく、スラモデルの商品化に目途が立ったのです」


「あ、ありがとうございます! あまりにも素晴らしすぎて組みあがったスラモデルを何度も分解しては組み立てていました!」



 そんなやついるのかよ。

 あと先ほどからずっと緊張でビクビクしていたセーラが、プラモの話題になると急に饒舌になる。

 やはり自分で玩具を作っていたからか、見たことも無い玩具に興味を引かれているのだろうか?



「セーラ殿の着眼点は大変に素晴らしく、パッケージ絵も手掛けてくれるそうなのです」


「プラモのパッケージ絵はたしかに重要だけどさ、試作品を見ると無地の桐箱入りで、完成後のイメージ図すら無いし購買意欲湧かないだろこれじゃ」



 貴族向けなのか知らんが、先ほど読んだ書類と添付されたイメージ図では、スライム材で作られたプラモは、ランナーに繋がれておらず、部品が全てバラバラの状態で、何故か御大層に桐箱に収められているというアホなことになっていて、もはや立体ジグソーパズルといった代物だった。

 中途半端に異世界本から知識を得ているからか、相当アホなことになっていたのだ。

 スライム材を使った新しい玩具が市場に出回るのは良いんだけど、ロボットのデザインとか名前とかちゃんとオリジナルで考えさせないとな。



「そして試作品のスラモ本体の改善案やコスト低減案などですね。特にパッケージ絵の採用とカラーパーツの採用など目から鱗でした」


「全てランナーから切り離された一色のみ部品しか入ってない上に完成イメージモデルの無いプラモとか難易度高すぎだし売れないからな。というかアホだろお前ら」


「ということで私どもとしてはセーラ殿を採用したいと思うのですが」


「学園の芸術系の講師としてだよな? プラモ開発部門とかじゃないよな?」


「? その通りですが? あと『ぷらも』ではなく『スラモ』です閣下」


「うるせー。あと採用に関しては俺に異論はない。セーラ、芸術系の講師は希少なんだ、期待している」


「あ、ありがとうございます。精一杯頑張ります」



 何はともあれ、懸念だった芸術系講師を一人増やすことが出来て何よりだ。

 少し気が弱そうだけど、なにより真面目そうだしな。



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