第五話 服飾部に行こう
「パパ! はやくはやく!」
「ぱぱおそーい!」
「「ピーピー!」」
昼食を食べ終わった直後から娘ふたりと駄鳥たちが早く学校に行こうと騒ぎ出す。
そういや昨日の晩飯の時に、ミコトとエマが服飾部で色々な服を着させてくれると言っていたな。
収穫祭を控えたこの時期、学園の各部で色々な展示物や催しをするために、通常の授業は午前中のみになり、午後は各部活動の時間に割り当てられているとのことだった。
帰宅部や部活よりも勉強を優先したい生徒のために教師を待機させた自習室を用意してあるが、ほとんどの生徒は何かしらの部活に所属しているので、あまり需要が無いらしい。
「じゃあ行くか。っていうか鳥を学園内に持ち込んだら駄目だろ」
「とりさんじゃないよフェニックスだよ!」
「そーだよぱぱ!」
「たしかに動物は校舎内に入れてはいけないって校則無いからな……ってそんな言い訳が通じるわけないだろ」
「でもちゃんということきくよ?」
「ふんもしないし!」
繭化から再生したあとのヤマトとムサシは確かにより人間の言葉を理解するのか。思考を読むのかはわからんが、ミコトとエマの言うことをしっかり守るようになった。
俺にだけ『ヘタレ』だの『チーオム』だの言うようになったし。
あと糞も我慢できるように体の構造が変わったのか、カゴの中の決められた場所にだけするようになったのだ。
毛づくろいも籠の中の決まった場所で行うので、外ではあまり抜けないから掃除もかなり楽になった。
爺さんはじめ毎朝魔導士協会の連中が鳥かごから羽毛や羽根、糞などを回収しに来るが、決められた場所に置かれるような状態の為、かなり回収作業が楽なようだ。
「……学園の生徒や職員から苦情があったら禁止するからな」
「「うん!」」
喜ぶ娘ふたりをエリナとクレアが優しく見守っている。
なんだかんだ俺も甘いからな。
というかミコトとエマは芸術系や魔法の授業なんかは頭にヤマトとムサシを乗せたまま参加してたはずだから今更って感じはするんだけど、来年度から大量の留学生を迎えるから特別扱いを続けるわけにはいかないんだよな。
ちゃんと躾けてあって、他人の迷惑にならないっていう条件を付けて、かつ小動物なら持ち込み可とかにするかな。
「じゃあ行くか」
「「「はーい!」」」
エリナ、ミコト、エマのいつもの三姉妹が元気よく返事をする。
「クレアは今日は調理部じゃないのか?」
「すでに指示は出してあるので大丈夫です。一応あとで顔を出しますけど」
「調理部は模擬店出すんだっけ?」
「そうですね、屋台を三軒ほど出しますよ」
「どんな料理を出すんだ?」
「三チームに分けてそれぞれ違ったメニューを出す予定なんですけど、まだ決まってないんですよね」
「まあそろそろ屋台の場所やらメニューやらの割り振りをやるから、早めに決めておかないとな」
「そうですね」
頭に鳥を乗せているせいで、ビジュアル的にかなりアホっぽい娘ふたりに先導されながら学園内の服飾部に向かう。
服飾部はクリスが顧問をしているのだが、クリスは縫製どころか雑巾すら縫えないからと顧問就任を断っていた。だがクリスを慕うアンナがなんとか渋るクリスを説得して顧問に据えたという経緯がある。
そんなクリスが顧問を務める縫製部はアンナが部長で、女子生徒のみで構成されている。
制服のデザインと仮制作を依頼したは良いけど、今回は何故ミコトとエマを呼びだしたんだろうか?
そんな疑問を抱きながら歩いていると、いつのまにかミコトとエマが服飾部のドアをノックするところだった。
「「こんにちはー」」
「いらっしゃいミコトちゃんエマちゃん!」
ノックに反応して開けられたドアからアンナがミコトとエマを迎え入れる。
「アンナねーきたよー!」
「あんなねーだー!」
「さあさあ中に入って! トーマお兄さんたちもどうぞ」
現在アンナは寮母となった母親と一緒に職員棟の部屋で生活をしているが、託児所時代から一緒に生活をしていたこともあり、ちょくちょく家に遊びに来ているのでミコトとエマとも仲が良いのだ。
ミコトとエマが部室内に入った途端、多分ここの部員であろう女子生徒数人に取り囲まれる。
「この子たちがミコトちゃんとエマちゃんね!」
「キャー可愛い!」
「早速採寸をしないと!」
「頭の上に乗ってる鳥も可愛い!」
服飾部の部員にいきなり奥に拉致られる。
この光景どこかで見たな……。
毛玉を吐いてこいとか喧嘩をしないだけあの時よりはマシだけど。
「アンナ、ミコトとエマを呼び出したのって……」
「年少組の女の子の制服デザインがいくつかできたんでモデルを探してたの。それでミコトちゃんとエマちゃんにお願いしたんだよ」
「なるほどな。六歳以上の在学生じゃミコトとエマくらいの身長の子がいないのか」
「うん。そうだ! トーマお兄さん、クリスお姉ちゃんを見てあげて!」
「クリス? ここにいるのか?」
「お兄さんが来たから恥ずかしがってるんだよね。ほらあそこ!」
とアンナが指をさす方を見ると、移動式ハンガーに掛けられた大量の衣装に隠れていて良くわからないが、見慣れた淡い赤色をした髪だけが露出していた。
「何故隠れてるんだクリス」
「旦那様、これはアンナちゃんが縫ったものなんです。制服のデザイン案のひとつで……」
「それで恥ずかしがってるのか。お前昨日はシルに着せてたろ」
「まさか自分が着せられてしまうとは思いませんでしたわ」
まさに人を呪わば穴二つってところか。
といってもシルは最初は少し恥ずかしがっていたが、ちょっと褒められたらすぐに調子に乗ってたからな。
「まあそのままじゃ話もできないぞクリス」
「はい……」
覚悟を決めたのか、衣装の陰からクリスが姿を現す。
冬の制服用のデザインなのか、えんじ色のブレザーにリボンそして膝丈のスカートと、昨日のシルの制服よりは落ち着いた印象だ。
「クリスお姉ちゃん可愛い!」
「クリス姉さま素敵です!」
「たしかに似合ってるぞクリス。スカート丈も許容範囲だし」
「ありがとう存じます……」
「そういや鞄も作ったんだな」
「そうですね、制服を統一するなら通学鞄も統一したほうが良いかと思いまして」
「そうなると靴と靴下あたりも一緒にしちゃったほうが良いな」
「そうですね、そちらも一緒にいくつかデザイン候補を用意しておきます」
「デザインはできても革靴を作るのは無理だろうから、そのあたりは民間業者使っても良いからな」
「かしこまりました。それと明日ですが、旦那様にお時間を頂くかもしれません」
頬を染めて、少しもじもじしていたクリスが、何かを思い出した途端、いつもの有能モードになる。
「何かあるのか?」
「求賢令に応募してきた者がおりまして、問題が無ければ明日最終面接を旦那様にお願いいしたいのです」
求賢令は、過去の犯罪歴や出自、身分など一切問わず一芸に秀でていれば応募可能とし、実際にその能力を認められればファルケンブルク領で採用するという制度だ。
と言っても、最終面接まで進む例はほぼ無く、求賢令を利用して採用されたのは今まででマリアひとりという状況だ。
得意というからやらせてみたらそれほどでもなかったというひやかしまがいの応募が多く、新年度になったら廃止しようと思ってた制度だったんだが……。
「得意とする部門は?」
「図画工作です。絵も描けて、工作も簡単なものなら何でも製作可能という売り文句で応募してきました。実際にいくつか作品を制作させましたところ問題ありませんでしたので、学園の講師として採用しようかと存じます。明日提出予定の課題に問題が無ければ最終面接の予定です」
「芸術系か。講師が少ないから丁度良いな」
「はい。芸術系を教えられる人材を特に求める旨の張り出しをしたところすぐに応募してきましたので」
「求賢令の募集方法に問題があるのかな。少し求賢令の運用方法も考えないとな」
「はい」
芸術系の講義ができる人材は現在の所ほとんどがエルフ族なんだが、あいつらは働きたくないとか言い出すヒキニートなので、中々講師を探すのが難しかったのだ。
ダンスはマリア、音楽はエカテリーナに講師をしてもらっているが、絵画の講師がいない状況だったので今回の応募はすごくありがたい。
工作なんかも今は民間の職人が教えているんだが、あまりにも専門的過ぎるから図工が得意なら年少組や年中組を教えてもらうのも良いかもな。
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