第七話 新任講師
面接翌日の午後、俺はまた学園内の校舎にいる。
アンナからミコトとエマの服の調整が終わったと言われたからだ。もちろんエリナとクレア、ミコトとエマ、あとヤマトとムサシも一緒である。
服飾部に行く他にも、早速今日から講師として配属されたセーラの状況を確認するという目的もある。
「そうだクレア、今日セーラの都合がつくようなら歓迎会をするか。採用試験で何人も一度に配属されたわけじゃないから、講堂で学園の連中全て集めてやるいつもの歓迎会じゃなくて家に招くくらいだけど」
「いいですね、まだ私みたいにお会いしてない人も多いでしょうし自己紹介も兼ねてやりましょう」
ふんす! といつものようにクレアが気合を入れる。セーラ側の都合もあるからまだ歓迎会ができるかどうかはわからないんだけどな。
「セーラさんかー! どんな人なのお兄ちゃん?」
「大人しくて真面目な印象だったな。絵本の挿絵を描いたり子供向けの玩具を作ったりしてた関係か、玩具のことを話すときはやたらとテンションが高くなって早口になるけどな」
「へー! 会うの楽しみ!」
「「えほんにおもちゃ!」」
コミュニケーション能力が天元突破しているエリナとミコトとエマのテンションが一気に上がる。
まあこいつらならセーラとも仲良くできるだろう。
ただセーラ自身は大人しい感じだったから、騒がしいエリナやミコト、エマと気が合うかどうかが心配だ。
「部活の顧問先を探すとかで、収穫祭の出し物を準備している部室を回るって聞いてたけど」
「兄さま、芸術系に絞ればすぐ見つかると思いますよ」
「服飾部にいる可能性もあるのかね」
「見学くらいならしてるかもしれませんね」
と言ってもどの部室が芸術系の部室なのかわからないので、手あたり次第に覗いていく。
どの部室も活気があり、生徒たちも楽しんで活動しているいるようだ。
貴族と平民との間で身分問題が起こっている様子もないし。
「ま、適当にその辺ぶらぶら覗いて回りながら服飾部に向かうか」
「「「はーい!」」」
服飾部は調理部と並ぶ人気のある部活動だ。
おしゃれをしたい、美味しいものを食べたいというのは身分に関係なく人間の欲求だからなのだろう。
多くの部員数を収容する必要があるため、部室棟の最奥にある広い部室が与えられているので、入り口から各部室を順番に覗いていけば、最終的には今日の目的である服飾部にたどり着くのだ。
部室棟に興味津々のミコトとエマが、頭にヤマトとムサシを乗せながら部室の扉をノックして行く。
入室を許可されたミコトとエマは「せーらせんせいはいますか?」と中の部員に尋ね、そのたびに「きゃーかわいー!」「なんで頭に鳥を乗せてるの? すごく可愛いんですけど!」などという反応とともにすぐに女子生徒に取り囲まれてしまって、いちいち時間がかかっている。
ちなみに男子生徒も突然訪ねてきたミコトとエマに興味を示して近づこうとするが、何故か俺を見て近づこうとしない。
「おかしいっぱいもらっちゃった!」
「あとでむさしにもあげるからね!」
「ヤマトにもね!」
「「ピッピ!」」
部室から出てくるたびに戦利品をゲットしてくるミコトとエマは、常備装備しているポシェットにお菓子をしまっていく。
托鉢かなんかか?
「よし次行くぞ次」
「「はーい!」」
お菓子を貰ってご機嫌なミコトとエマが部室棟の廊下をぽてぽてと俺たちを先導して歩いていく。
「あれ? 兄さま、あの方って……」
クレアの目線を追うと、セーラが廊下の端をふらふらと奥に向かって歩いていた。
元々存在感が希薄というイメージがあったが、今日は更にその存在感が薄れている。
「セーラ」
すこし近づいて、とぼとぼ歩いているセーラに声をかける。
「びくっ!」
声を出して「びくっ!」って言った人間を初めて見た……。
「すまん驚かせたか」
セーラはくるりと回り、こちらにその真っ白い顔を向ける。
顔色も気になったが、それ以上に気になったのはセーラの着ている服だ。何故かドレスの上に緑色のジャージの上着のような物を羽織っている。なんだこのセンス。
「い、いえ、気が抜けてただけでしたので……。っと、閣下、失礼いたしました!」
「昨日の面接の時にも言ったが、公式の場以外は楽にしてくれていいから」
「は、はい」
「それよりも、随分体調が悪そうじゃないか。勤務初日に無茶をさせ過ぎたか? 辛いようなら婆さんに言っておくが」
「いえ、昨日すこし眠れなかったので……」
「緊張してたのか。気持ちはわかるが、体調が良くない時は無理せず休んでくれていいぞ」
「いえ、実は緊張して眠れなかったわけでは無いんです……」
そういうとセーラはごぞごぞとジャージのポケットから白い物体を取り出して俺に見せてくる。
そう、連邦の白い悪魔的なブツだ。
「おま、それ」
「これを作ってて寝不足なんです。すみません……」
「わー! かっこいい!」
「すごい!」
「あら? 閣下のお子様たちですか?」
「そうだ。ミコト、エマ、自己紹介をしなさい」
セーラに声をかけたがっていたようだが、俺とセーラの会話を妨げまいとうずうずしていたミコトとエマの背中を押し、促す。
「ミコトです! ごさいです! このこはヤマトです!」
「えまです! さんさいです! こっちはむさしです!」
「まあ! 可愛い! セーラです。今日からここの先生になりました。よろしくお願いしますね」
「「はい!」」
「「ピッピ!」」
真っ白な顔をしてふらふらしていたセーラが、ミコトとエマを見てぱっと花を咲かせたような表情になって自己紹介をする。
絵本や玩具を作っていたこともあって子ども好きなんだろうか?
「セーラおねえちゃん! それなあに?」
「ガン〇ムよ!」
「かっこいいね!」
「おい馬鹿やめてください」
ミコトとエマがセーラの持つ危険物に興味津々だ。とにかくヤバい。
無着色の立体パズルというか、ガレージキット状態のスライム材で出来たプラモデルっぽい物しかまだ試作されていないのだが、その白い悪魔はしっかりトリコロールカラーに着色されていた。
これを作って寝不足なのかよ……。
その後はミコトとエマときゃっきゃしているセーラにエリナとクレアも自己紹介をして、今日の目的の一つを達成する。
「でですね閣下! 見てください! 1/144サイズなのにちゃんとコ〇ファイターと分離できるんですよ!」
寝不足でローテンションだったセーラが、めっちゃ早口でその手に持った危険物の解説を始める。
「うるせー」
「パパ! あれほしい!」
「えまも!」
「「ピッピ!」」
「あーもううるさい。さっさと服飾部に行くぞ。セーラもその危険物を早くしまうように」
「「「えー」」」
不満たらたらのミコトとエマ、服飾部に呼ばれているというセーラを引き連れて、本日の最終目的地である服飾部に向かう。
セーラが呼ばれているのはそのジャージっぽい上着に関係してるのかね?
妙にセーラに似合うジャージを見ながら、まためんどくさいことが起こりそうだなと思うのだった。
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