第八話 新しい制服


「「こんにちはー!」」


「きゃー! 今日も可愛い!」


「漲ってきたわ!」


「ヤマトとムサシも可愛いわよ!」



 もうすでに勝手知ったる服飾部へノックも無しに挨拶しながら入室するミコトとエマを、服飾部の女生徒があっという間に取り囲む。



「「わわっ!」」


「さあお姉さんと一緒にお着替えしましょうね!」


「大丈夫大丈夫! ちょっとだけだから!」


「ヤマトとムサシにもお洋服作ってあげたいけど、露出が減ってしまうのよね……」



 そしてミコトとエマがあっという間に部室の奥にある更衣室に拉致られていく。

 なんかヤマトとムサシに執着してる女子生徒がいるんだが……。



「エリナ、クレア、念のためにふたりについていってやってくれ」


「わかった!」


「ちょっと目が怖かったですしね……」



 エリナとクレアが部室の奥に向かうのと入れ替わるように服飾部部長であるアンナが姿を現す。



「トーマお兄さんごめんなさい、あの子たちちょっとはしゃいじゃってて。ミコトちゃんとエマちゃんには変なことはしないから安心してね」


「念のためにエリナとクレアを向かわせたけど、気にし過ぎたかもな」


「ううん。それは仕方がないよ。トーマお兄さんは親バ……セーラ先生、早速着てくれているんですね! どうですか? ジャージの着心地は?」



 アンナが一瞬聞き捨てならないことを言いそうになったタイミングで、俺の後ろに存在感を消して立っていたセーラに気づき、声をかける。

 やはりセーラの着ている服はジャージだったのか。

 というかジャージってニュージャージー州が語源だよな? 日本だとメリヤス編みだかの素材で出来た服を差すみたいだけど。



「ええ、大変すばらしい着心地です。寝巻としても上等ですし、何より伸縮性が素晴らしいので運動するにはちょうどいいですね」


「良かったです! スライム材で出来た布を使ってみたんですけど、やっぱりこの編み方で編んだ布の伸縮性は凄いですよね」


「ですね。それにお値段も普通の布の半額以下と聞いて、是非とも複数着欲しいと思いました。運動でラフに扱えますし、何より安い服はスラモに色を塗るときに汚しても気にならないから便利なんですよね」



 なるほど、スライム材を繊維状態にしてメリヤス編みして出来た布なのか。ナイロンみたいなもんかね?

 綿花の増産なんかもしてるから糸や布の価格も下がってきてはいるけど、ほぼ廃材利用みたいな原料費がゼロのスライム材で作った糸からできた布ならコストは下げられるよな。

 紡績機と織機の開発にはある程度コストはかかるだろうけど。



「ただ糸自体の吸水性が良くないので、糸にするときや布にするときに色々工夫をしてもらってる段階なんです。なので現時点でのジャージだと汗をかく運動をする場合は中に綿素材のシャツか何かを着ないと大変なことになっちゃいます」


「私としては塗料が染みこまないのでこのままでも構わないんですけどね。汚れを通さない今の方が運動着としての用途には良いかもですよ」


「そうですね、織り方を工夫して速乾性のある布の開発なども進んでるみたいなので楽しみです」



 ……スライム材の関連技術だからこれ全部を魔導士協会がやってるんだよな。うちの産業部門も頑張ってはいるけど、どうしてもスライム材のように加工段階から魔法技術を必要とする分野では弱い。

 一応魔法を扱える者も所属してるんだけど、魔導具の開発なんかは魔導士協会と提携しているというか、すでにアウトソーシング状態になってほぼ丸投げだしな。



「パパ!」


「ぱぱ! みてみて!」


「「ピッピ!」」



 アンナとセーラが盛り上がってる最中、奥から新しい制服に身を包んだミコトとエマがぱたぱたと早足でやってくる。

 ふたりの制服はそれぞれ別デザインで、ミコトの制服はタータンチェックかグレンチェックかの区別は俺にはつかないが、赤系統のチェック柄のスカートに薄いイエローのブラウスにリボン。

 エマは落ち着いたダークブラウン系のスカートにブレザーと対極的なデザインとなっている。



「可愛いぞ! ミコト! エマ!」


「「やったー!」」


「やっぱりトーマお兄さんって親バカ……」


「パパ! ちょっと待っててね!」


「すぐだから!」



 そう言ってミコトとエマはふんわりとスカートをたなびかせながらまた更衣室へと駆け込む。

 そしてすぐに別のデザインの制服を着て出てくる。



「パパ! こっちは?!」


「えまのもみて!」



 今度の制服は、ミコトは黒タイツに合わせた落ち着いた緑系のブレザーとスカート。エマはピンク色の吊り下げスカートで年相応のかわいらしいデザインだ。



「これも可愛いぞミコト、エマ!」


「「わーい!」」


「トーマお兄さんの気持ちもわかるな……ふたりともすごく可愛い……」


「じゃあつぎね!」


「えまもきがえてくる!」



 そう言って再び更衣室へダッシュする娘ふたり。



「待て待て、何着用意してあるんだ?」


「ミコトちゃんとエマちゃんでそれぞれ十着くらいかな? 駆け込みで間に合ってれば更に数着は仕上がってるとおもうよ!」


「え……」


「制服とは別に体操服やジャージもあるよ! 可愛いミコトちゃんとエマちゃんをいっぱいみられるね! やったねトーマお兄さん!」



 アンナの宣言通り、このあと十数着の衣装をとっかえひっかえして、ミコトとエマによるファッションショーに付き合わされるのだった。

 可愛いから良いんだけどな!



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同時連載しております小説家になろう版では、十一章の水着イラスト、十三章の制服イラストをはじめ200枚近い枚数の挿絵が掲載されてます。

九章以降はほぼ毎話挿絵を掲載しておりますので、是非小説家になろう版もご覧いただければと思います。

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