第九話 ランドセル


 服飾部でミコトとエマのファッションショーが開催された翌朝。

 騒がしい朝食の時間、俺はいつものようにチーオムを食べていた。



「お兄ちゃん、毎朝チーズオムレツを食べているけど飽きないの?」


「朝食に毎回目玉焼きを食べるようなもんだろ、ひと手間かかる分目玉焼きより大変だけど美味いし飽きないぞ」


「ふーん」



 興味なさそうな返事とともに、エリナはこんがり焼けたソーセージをナイフで切り分け、お上品に口へ運ぶ。



「いやいやエリナ、お前だってソーセージを一日おきくらいで食べてるだろ」


「そうだねー」


「おい聞けよアホ嫁」


「「チーオム!」」


「うるせー駄鳥!」


「パパ! あさからけんかはだめ! ヤマトも!」


「ぱぱもむさしもけんかはだめだよ!」



 ファミレスで貰ったお気に入りの食器で、たまねぎやジャガイモ、チーズなど具だくさんのスパニッシュオムレツを食べながらミコトとエマは俺と駄鳥に注意をしてくるが……。



「ミコト、エマ。朝からその服を着るのはやめなさい」


「やだー」


「かわいいんだもん」



 昨日試着した制服の内、何着かを貰って来たミコトとエマは、朝からばっちり制服を着込んで準備万端だ。

 皮革製品を作る専門課程の連中に試作を依頼した通学用品が今日完成するとのことで、今日の午後にまた服飾部へ行くことになっているのだ。



「学園に行くのは午後からなんだから、今から制服を着ていると汚しちゃうだろ?」


「「よごさないもん」」



 今朝、寝巻から着替えるときにエリナやクレアに何度も諭された結果なのか、ミコトとエマは制服を着る代わりに食事用エプロンをしっかり着用させられている。

 エマは少し前まで食事エプロンをつけさせられていたが、最近やっとつけなくてもいいようになって喜んでいたばかりだったんだけどな。

 制服を汚さないためという理由でつけさせられたんだろう。ミコトも一緒につけているからというのもあるかもしれないけど。


 ふたりの食事マナーはしっかりできているから別に制服を汚したりっていう心配はしてないんだが、最近はヤマトとムサシに給餌する時にポロポロこぼしてクレアに怒られたりしてたから仕方がないな。



「エプロン似合ってるぞ」


「「ぶー!」」


「「ピー!」」





「パパ! きょうはどんなおようふくなのかな?」


「洋服じゃないぞ」


「へー! なんだろ?」


「靴とか鞄じゃないのか?」


「「たのしみ!」」


「「ピッピ!」」



 朝食の時に俺とヤマトとムサシが言い争いをしたのを注意したせいなのか、ミコトとエマは珍しく俺と手をつないで歩いている。

 ちょっと気にしてるのかな。


 両手に花という状態なのだが、ミコトとエマの頭の上に乗っているヤマトとムサシとの距離が近くなったせいでミコトとエマの頭から俺の頭や肩にちょいちょい飛び移ったりして遊んできてうざったい。

 だがここでヤマトとムサシを邪険にするとまたミコトとエマに怒られるので、こいつらの好きにさせたまま、服飾部に向かうために学園内をゆっくり進んでいく。



「パパあけるね!」


「頼むミコト」


「えへへ! こんにちわー!」


「こんにちわー!」



 ミコトが服飾部の扉を開け挨拶をすると、それに続いてエマも挨拶をして入室する。



「私たちの天使が来たーー!」


「制服を着てる! やっぱり可愛い!」


「えっ、ヤマトとムサシはミコトちゃんとエマちゃん以外の頭にも乗るの? 私にも乗ってくれないかな?」



 いきなり制服を着て入室してきたミコトとエマに部室内がざわつく。

 たしかに制服を着たミコトとエマは超絶可愛いからな。

 あと何故かヤマトとムサシは俺の頭に乗ると頭皮をつついてくるから、むやみにこいつらを頭に乗せないほうが良いぞ。



「「「さあこっちよ! ミコトちゃんエマちゃん!」」」



 そして俺の両手から娘ふたりがあっという間に連れ去られる。ちょっと寂しい。

 連れ去られたミコトとエマの代わりに、服飾部部長のアンナが部室の奥から出迎えに来る。



「トーマお兄さん、連日呼び出してごめんね」


「いやこっちこそミコトとエマに良くしてもらってるから」


「試作品だし気にしなくていいのに」


「で、今日は通学用品だっけ?」


「ちょっと調整に時間かかったせいで送れちゃったけど、ランドセルと革靴が出来たんだよ」


「でも皮革製品だろ? コストが高そうだな」


「そうだねー。クリスお姉さんにアドバイスして貰って試作したスライム材の手提げの通学鞄は安いし防水だしね」


「手提げの通学鞄は年少組には持ちづらいかもだしな。背中に背負えるリュックとか良いかもな」


「両手がふさがっちゃうと危ないしね」


「年少組には革靴よりスニーカーの方が良さそうだし。ま、色々考えてみてくれ。市場で売れそうな商品の開発をすれば部費の増額もあるぞ」


「うん!」



 アンナと通学用品談義をしていると、ミコトとエマが人垣から出て来る。


「パパ! みてみて! ランドセルかわいい!」


「ぱぱ! おくつもかわいいの!」



 ミコトはミントグリーン、エマはピンクのランドセルを背負って、嬉しそうに俺の目の前でクルクルと回ってアピールしてくる。

 似合いすぎだな。滅茶苦茶可愛い。

 皮革製品を取り扱う職人の専門課程とはいえ、生徒がここまでの物を作れるのか。

 予想以上に技術習得できていそうで何よりだ。

 ランドセルも革靴もシンプルな作りながらしっかりしていて品質も良さそうだ。



「どう? トーマお兄さん。ミコトちゃんとエマちゃんに似合ってるでしょ?」


「ああ、コストを気にせずに導入しても良いかなって思うくらいに気に入ったぞ」


「トーマお兄さんって本当に親バカだねー。あとね、運動着もあるんだよ」


「ジャージは昨日ミコトとエマの分を貰ったろ?」


「中に着る綿素材の服だね。みんな! ミコトちゃんとエマちゃんに着せてあげて」


「「「はーい!」」」



 そしてまたミコトとエマは奥の更衣室に連れ去られていく。

 服飾部に制服の試作を依頼して以来、随分と色々なものを作ってるな。

 商品開発力が高すぎないか?

 常に不足しがちな学園の運営費の足しになればいいけど、著作権とかデザインの権利とか開発功労金とか色々考えておかないとまずいかもな。



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同時連載しております小説家になろう版では、十一章の水着イラスト、十三章の制服イラストをはじめ200枚近い枚数の挿絵が掲載されてます。

九章以降はほぼ毎話挿絵を掲載しておりますので、是非小説家になろう版もご覧いただければと思います。

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