第十七話 亜人国家連合からの使者


「みんなただいまー!」


「戻ったぞガキんちょども」


「「「おかえりー!」」」



 家に入って挨拶をすると、クリスが声を掛けてくる



「旦那様、アイリーンが亜人国家連合の件で報告に来ております。早速応接室へおいで頂いて宜しいですか?」


「わかった。エリナ、頼むな」


「任せて!」



 マジックボックスに収納された食材を厨房に置いて、応接室に向かう。



「閣下。このような時間に申し訳ありません」



 扉を開けると同時に、起立したままのアイリーンが謝罪をしてくる。



「いや、気にするな。というか座ってろよ、少しでも体力を温存しろ。働きすぎなんだから」


「しかし、いえ、ありがとう存じます」



 クリスと椅子に座り、アイリーンを着席させて話を聞く。



「で、緊急の案件なんだな?」


「はい。亜人国家連合所属の犬人国に派遣した友好使節団が戻りました。それで緊急の要請がありまして」



 こちらです。と書類を数枚俺とクリスの前に置く。



「疫病?」



 一番上に置かれた書類には、『水稲の技術者の派遣は承諾したが疫病の対応が終わるまで時間が欲しい、可能ならば医師等の派遣をお願いしたい』という一文が書かれていた。



「はい。治癒魔法が効きにくい疫病が、犬人国を中心に流行し始めているとの事で、医師や薬師の派遣をお願いできないかと、犬人国よりの使者が求めてきています」


「その使者は?」


「帰還した友好使節団と一緒に城内の一区画に隔離しております。感染する可能性がありますので」


「妥当な処置だな。消毒とか防疫の知識はこの世界にも伝わっているんだろ?」


「はい、魔法での処置に加え、アルコール消毒等を行いました。現在は経過観察中ですね」


「わかった、ご苦労。で、医師と薬剤師ギルドで募った犬人国への派遣を希望する者が二枚目のこの書類か」


「はい。医師十名、薬剤師ギルドより薬師十二名の立候補がありました」


「立候補がこれだけ多いっていうのは、知的欲求っていうのもあるのか? 亜人に有効な治療法や薬を見つけたいとか」


「全員が人道的理由からの立候補では無いと思いますから、そういう思惑があることは否定できません。ですが亜人に対して差別的思想を持つ者はおりませんので問題は無いかと」


「わかった、早速派遣しよう。援助物資などはケチらないで良いぞ。困った時はお互い様だし、こういう事態に乗っかるのは後味が悪いが、恩を売るチャンスでもあるからな。ペニシリンなんかの希少な薬品も、必要最低限を残して持ち出して良いからな」


「かしこまりました。では早速手配いたしますので失礼いたします」



 そういうとアイリーンはあっという間に部屋を出ていく。



「クリス、一応ちわっこにも連絡しておいてくれ、流石に伯爵領単独でどうこうって話じゃ済まなくなるかもしれん」


「ええ、お任せくださいませ」


「しかしこの世界で疫病なんて流行ることがあるのか?」


「異世界の知識でかなり減りましたが、数年に一度くらいの間隔で発生はいたしますね。ただ消毒や防疫の知識も伝わってますので、初期の段階で抑えられるケースがほとんどです」


「亜人国家連合にはない魔法技術とか薬草なんかがあって、それが今回有効ならいいんだけど」


「文化交流はほとんど行っておりませんからね、可能性は高いと思いますわ」


「社会保障にも手を出しちゃったからな。水稲と亜人国家連合との交易でこの領地の収益も増やさないといけないし、隣国とは上手い事やっていかないとな」


「はい旦那様。しかし生活支援ですか、旦那様の世界にも似たようなものがあるのは承知しておりますけれど、随分と大胆な政策を行うのですね」


「社会主義国家みたいに全ての面倒を国や領地が見るってわけじゃないけどな。基本は安心して働けるように怪我、病気、出産、加齢なんかで働けない期間があっても、なんとか生活ができる程度には支援しますよって制度だからな」


「それでもかなりの予算が必要になりますね」


「そうなんだよなー。領地の収入も交易や特産品の開発や税収を増やすことだけじゃなく、広告とかネーミングライツとか色々スポンサーを増やしていく手段も考えるか」


「広告はわかりますが、ねーみんぐらいつ ですか?」


「施設の名前なんかをスポンサーの名前にするんだよ。例えばこの町の大通りに、五年間『〇〇商会ストリート』と名付けて、看板を置く権利を売るとかだな」


「なるほど面白い方法ですわね」


「といってもやり過ぎても美観が損なわれるし、その辺りはもうこちらの世界の人間の感覚に合わせて少しずつやっていくしかないが」


「素案をまとめておきますわ旦那様」


「頼む。さて、俺はエリナを手伝って飯を作っちゃうから、クリスはガキんちょの勉強とか面倒を見てやってくれ」


「はい。教師の人員も少しずつ選抜を終えていますので、そろそろ日中だけでも授業を始めてみるのも良いかもしれませんね」


「年齢別に分けるのか、理解度に応じて分けるのか、全員一緒でやるのか、それとも人数の少ないうちは個別で、とか色々面倒だと思うが授業内容の検討も頼むな。それと同時に学校に対する寄付金集めとかも始めないと」


「一応賛同者は募っておりますが、まだまだ少ないですわね」


「ま、悪いが任せる」


「はい、お任せくださいませ。領主の旦那様をお支えするのがわたくしの仕事ですから」


「……クリスが一緒にいてくれるだけでも嬉しいんだからな、俺は」


「……旦那様……ありがとう存じます……」



 面倒なことを投げまくった俺は、軽く罪悪感に苛まれながらもエリナの手伝いの為に厨房に行く。

 厨房に入るとクレアがいて、エリナの手伝いをしてくれているようだ。

 あといつものように端っこで正座してる駄妹もいる。

 ちゃんと座布団は使うようになったし別にいいか。冬だし直に床に座ると冷えるしな。



「お兄ちゃんもういいの?」


「アイリーンとクリスに仕事を投げただけだからな」


「兄さま、唐揚げはもう終わりましたから、どりあのお手伝いをしますね」


「助かるクレア。ちゃちゃっと仕込んでガンガン焼いていくか」


「はい兄さま」



 出かける前に、クレアにはミートドリアの簡単な説明をしていたので米やミートソースなんかの準備はすでに終わっていた。有能過ぎるな。

 クリームソースを使うチキンドリアとかをあとで色々教えておこう。多分クレアなら俺のふわっとした説明だけで全部完璧に作れる気がする。



「シル、グラタン皿を順番に渡してくれ」


「っ! お兄様わかりました! 任せてください!」


「あまり気合入れなくて良いぞ、気合だけ空回りしてグラタン皿を割るのがオチだからな」


「はい!」






「ではみんな! いただきます!」


「「「いただきまーす!」」」



 エリナの挨拶が終わると、戦場のようないつもの光景が広がる。



「ドリアは滅茶苦茶熱いからな! 気をつけろよ!」


「「「はーい!」」」


「最高の返事だぞ! お前ら!」



 と言っても常に飢餓状態みたいなガキんちょに、ゆっくり食えと言ったところで結局口の中を火傷する奴が出てくる。

 エリナやクレア、クリスが治癒魔法を使ってやけどの治療を行うのはもう日常茶飯事だ。

 むしろ、「あとでクリス姉ちゃんに治してもらうから俺は気にしないぜ!」とか言って、火傷で痛いのを我慢しながらガツガツ食う一号みたいなアホがいるから始末に負えない。

 どこかで教育を間違ったのかな俺。



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