第十六話 昔からの付き合い
ダッシュエミューを狩りに行く為に、西門をエリナと一緒に出る。
「おじさん! 行ってきます!」
「おうエリナちゃん、気をつけてな。そっちのヘタレ領主さんも」
「うるせー」
門から出る時は門番に登録証を見せる必要は無いが、エリナはきちんと挨拶をする子だ。
俺はもちろん適当にあしらうだけだ。
「じゃあエリナ、ひとっ走り一周してダッシュエミューが見つからなかったら晩飯の買い物にするか」
「うん! じゃあお願いねお兄ちゃん!」
門を出て少し歩いたところで、エリナをお姫様抱っこする。
エリナの魔力を借りて広範囲の探査魔法を使いながら、疾風で走り回るのだ。非常に疲れる。
「しっかり掴まってろよ」
「うん!」
「<
魔法を並列で行使しながら、平原を駆け回る。
「お兄ちゃん! お兄ちゃん!」
「ん? 見つかったのか? 探査魔法には反応が無いけど」
「んー!」
「キスをねだるなっての。こっちは走ってるんだから」
「けち!」
「うっさいアホ嫁、あとでしてやるから口閉じてろ。舌噛むぞ」
「うん! えへへ!」
アホ可愛い嫁をしっかり抱きしめながら走っていると、探査魔法に反応があったので速度を緩める。
「エリナ、反応があった。探査魔法を止めるから、今度はお前の風縛の出番だぞ」
「任せて!」
ダッシュエミューのいる方向へ進路を変更すると、こちらに向かって走ってくるダッシュエミューが視界に入ってくる。
距離は四百メートルってところか。
俺は探査魔法をカットし、エリナに告げる。
「エリナ、やれ」
「うん!<
エリナが俺の魔力を引き出し風縛を行使する。
「拘束したか? よく見えん」
「大丈夫! 手ごたえはあったから!」
「じゃあ歩いていくか。疲れたし。エリナ降ろすぞ」
「んー!」
はいはい、と軽くキスをしてエリナを下ろす。
「けち!」
「なんでだよ……外でこれ以上要求するなアホ嫁。いいからちゃんと拘束しておけよ」
「ぶー」
ぶーたれるエリナを無視してダッシュエミューの下へてくてくと二人で歩いて向かう。
四百メートルって遠いよな……。としばらく歩いて、拘束されたダッシュエミューまでたどり着くと、サクッと処理を終わらせてマジックボックスに収納する。
愛刀の一期一振の出番ってこれくらいしかないんだよな。ちょっと寂しい。
まあ一期一振が大活躍するような状況を味わいたいとは思わないけどな。ヘタレだし。
「今日はこれで終わりにして晩飯の買い物に行くか」
「そうだね!」
てくてくと帰路につく俺たち。もちろんいつも通りにエリナと一本のマフラーを装備して腕を組んで歩く。
「どりあ楽しみ!」
「流石にドリアだけだと暴動が起きるだろうからな。メニューはドリアに加えて、カルボナーラと鳥から、簡単なスープでいいか」
「かるぼなーらも好き!」
「俺も好きなんだよなー。というかメニューのチョイスが完全にあのイタリアンファミレスだ」
「かるぼなーらは美味しいけどお弁当に向かないのがねー」
「冷めると固まっちゃうからな。でも弁当販売の建物も完成したし、メニューを増やすためにも保温の魔石入り弁当箱を検討し始めた方が良いかもしれん」
「アランなら喜んで作ってくれると思うよ!」
「まずは設計とコストと、回収方法だな。盗まれても良い様にデポジットを預かるか、登録証でメンバー登録するかとか」
「お兄ちゃんに任せる!」
「良いぞアホ嫁。そのあたりに関しては期待してないけど、お前のアホ可愛さでお兄ちゃんのモチベが上がってるぞ」
「えへへ!」
「褒めてないんだけどな」
いつものアホな夫婦の会話をしているうちに西門にたどり着く。
この門番のおっさんは南門を使ってホーンラビットを狩っていたころからの顔見知りだ。
なんで俺たちの狩り場に繋がる門にいつもいるのかは不明だ。
「おじさん! お願いします!」
エリナは挨拶をしながら首から下げてる登録証を取り出して門番のおっさんに提示する。
もちろん俺も同じように見せている。
領主だし顔パスで良いんじゃね? とも思わなくも無いが、エリナが登録証を見せたがるので仕方がない。
「職業がお兄ちゃんのお嫁さんのエリナちゃんね。確認したから通って問題無いよ」
「えへへ! ありがとうございます!」
エリナの職業欄に関してはもうスルーだ。
「お帰りエリナちゃん。獲物は狩れたかい?」
エリナの登録証の内容を読み上げて確認した門番のおっさんが、いつものようにエリナに話しかけてくる。
愛想は良いんだよなこのおっさん。
駆け出しのころから気をつけろよとか声かけてくれてたし、俺たちが遭難した時は、帰ってこない俺たちを心配して孤児院への連絡とか捜索隊の手配もしてくれたし。
それ以来エリナが滅茶苦茶懐いちゃったんだけど。
「ダッシュエミューが一匹だけですけど!」
「それでも大したもんだ。この町にはダッシュエミューを狩れる連中は少ないからな」
「ありがとうございます!」
「うんうん。はい、職業がヘタレ領主兼ヘタレ王国宰相のトーマさんも確認したから通って良いよ」
「くっそ、この職業欄いい加減にしろ。どうにかして改ざんできないかなマジで」
「改ざんされるとこっちも困るんだけどな。ヘタレを治した方が早いんじゃないのか?」
「うるせー、そんな簡単に治ったら苦労せんわ」
「もうお兄ちゃん! 早く買い物に行こうよ!」
「わかったわかった。門番、覚えておけよ、おまえにも見破れない改ざんをしておくからな」
「いやだから改ざんを公言するなよ……」
「じゃあおじさん、失礼しますね!」
「またな、エリナちゃん!」
「はーい! お兄ちゃんも!」
「はいはい。じゃあまたな門番のおっさん」
「ああ、またな領主さま」
「おう」
職業欄の改ざんと一緒に、称号のヘタレドラゴンスレイヤーもついでにどうにかならないか考えつつ、エリナと買い物に向かう。
「えへへ!」
「なんだよエリナ」
「お兄ちゃんはみんなと仲良いなって思って!」
「ま、そうだな。昔から良くしてくれる連中だらけだよこの町は」
「じゃあもっと良くするために頑張ろうね!」
「おう。ありがとなエリナ」
「お兄ちゃんの奥さんだもん! 当たり前だよ!」
エリナの頼もしい返事を聞きながら、市場を回って買い物を終わらせる。
「ん?」
ダッシュエミューを換金してから家に向かっていると、この時間にしては珍しく家の前に馬車が停まっていた。
馬が曳いている客車を見ると、騎士爵の最低限の装飾がされている上に新品なのでアイリーンの馬車だろう。
世襲貴族ではないアイリーンには町の中で馬車を使う権利は無いが、領主代行という肩書を持つので、公務で移動する時は馬車の利用が許されているのだ。
と言ってもアイリーン本人が「いえ、歩きます。馬にも乗れませんし」と言い出したので、公務での移動には馬車の利用を義務付けた。少しでも馬車の中で休めるようにな。
アイリーンのことだから馬車の中で事務仕事してそうだけど。
大人しく従ったのは仕事の効率が上がるからかもしれん。
「お兄ちゃん、馬車が停まってるよ」
「あの馬車はアイリーンだな。何か連絡事項でもあるのかもしれん。エリナは先に晩飯の準備を始めててくれるか?」
「わかった。ドリア以外はやっておくね」
アイリーンが来るのは珍しくは無いけど、この時間ってのは珍しいな。
前回晩飯時に来たのってちわっこの時か。あの時と同じように緊急の案件なんだろう。
そう判断した俺は、少し足早に帰宅するのだった。
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