第十五話 クレープ
冒険者ギルドでの話を終え、孤児院改め職員棟の住宅の方で打ち合わせなどをしていると、あっという間に昼の時間になった。
「では、いただきます!」
「「「いただきまーす!」」」
クレアのあいさつで、昼飯が始まる。
エリナとクレアで作った今日のメニューはクレープと野菜がたっぷり入った具沢山スープだ。
クレープの皮を大量に用意し、焼いたソーセージやハム、テリヤキチキン、シンプルに塩コショウで焼いた鶏もも肉、蒸してほぐした鶏むね肉、ポテサラ、ゆで卵、チーズ、レタスなどの野菜などなど、様々な具材を用意した、手巻き寿司ならぬクレープパーティが始まった。
もちろんクリーム、ヨーグルトに加え、果実のジャムも用意されていて、ガキんちょどもは大騒ぎだ。
そば粉はこの世界にも存在するが、今回は入手できなかったようで、ガレットは無いとのこと。
「クレア! クレープマジでヤバい!」
「アラン! そんな言葉使っちゃ駄目ですよ! 兄さまみたいに口が悪くなりますよ!」
「おう、気を付ける」
軽く俺をディスっている嫁をスルーしながら、ソーセージとレタスを巻いてマスタードをつけたクレープを食う。
これヤバイな。マジ美味いわ。
屋台でクレープを売っている店はあるが、クリームやジャムを使ったデザート系だけだ。
あまりがっつり食わない俺には合ってると思うが、ガキんちょどもにはどうだろう。と思ったが、食う量を増やすだけだから関係無いか。
店で売るとしたら金額とボリュームのバランスだな。あまり量を食べない女性とかにはいいかもしれない。
「そういや総菜系を巻いたクレープって王都でも見なかったな」
「お兄ちゃん、どう? 美味しい?」
ぽてぽてとエリナが皿を持って来て、俺の隣に座る。
ローテーションで俺の隣が勝手に嫁たちに決められているのだが、順番が良くわからん。
ランダムかと思いきや、なんかポイント制で決めてるらしい。
「マジで美味いぞこれ。俺総菜系を巻いたクレープの話ってしたっけ?」
「にほんにもあるんだね! 収穫祭でお兄ちゃんと食べたクレープが美味しかったから、ソーセージとかどうかなってクレアと話して、色々作ってみたの!」
「エリナお前発想力が凄いな、応用力が素晴らしいぞ。というか俺が思い出さなかっただけなんだが」
「わーい! お兄ちゃんに褒められた!」
「中身の具材もお前が考えたのか?」
「んーん。クレアと二人で合いそうなのを選んだの! どうかな?」
「美味いぞ。ここにある具材以外だと、豚の生姜焼きとか巻いてる店も見たことがある気がする」
「やきにくかー、気づかなかったなー」
「ハンバーグとかメンチ、ハムカツなんかも合いそうだぞ。というかパンに挟んで合う物はなんでも合いそうだ」
「あまり重いとパンの方が人気なのかなってクレアと話してたんだよ」
「店のメニューにするのか?」
「うん!」
「クレープは皮を用意しておけば、客のチョイスで具材を巻けば良いし、無駄も出なさそうだな」
「注文を受けてからお客さんに渡すまでに時間がかかっちゃうから、その辺も色々考えてるんだけどねー」
「親父の店でもパンに挟む具材を選べる方式だけど、行列になってたりするからな」
「そうそう。だから中身はもう決めちゃった方が良いかもねって」
「その辺りはクレアの判断だな、値段も含めて」
ごくんとソーセージクレープを食べ終わると、エリナが「はいお兄ちゃん、私のおすすめ!」とクレープを渡してくる。
一口食べてみると、中身が少し濃いめに味付けされたポテサラとレタスのクレープだった。
「お、ポテサラ美味い」
「ほんと!」
「ああ、美味いぞ。ちょっとマヨネーズ多めなのがクレープの皮と合ってて良いぞ」
「うちのぽてさらさんどには刻んだハムを入れてるでしょ?」
「ポテサラだけだとパンに負けちゃうって意見があったしな」
「で、クレープならぽてさらとレタスで十分美味しいかなって!」
「エリナのポテサラ愛は素晴らしいな。お兄ちゃんちょっと感動したわ。さっぱり食べられるし売れるんじゃないかコレ」
「わーい! クレアが、『お店の建物が出来たからメニューを増やしたいです姉さま』って言ってたからね、これでメニューがひとつ決定したよ!」
「ソーセージも美味いし、これ全部メニュー候補で良いんじゃないか? 値段や手間もあるから、あとはそのあたりの判断で」
「うん、考えておくね!」
総菜クレープに飽きたのか、我慢が出来なくなったのか、ガキんちょどもがデザートの具材に集まり出す。
いや、総菜クレープ用の具材が無くなってきたのか。凄いなこいつらの食欲。
一年以上食わせてるけどずっとこの食欲だぞ。怖いわ。
「おにーさん」
デザートの具材を選んでたミリィがぽてぽてと寄ってくる。
「ラスクは無いぞ。そもそもクレープの皮と合わないだろ」
「ちがうの。あのね、くれーぷおいしいけど、さんどいっちじゃないと、らすくのざいりょうがないんじゃないかって
「そっちの心配かよ、どんだけ好きなんだラスク」
「らすくおいしーよ?」
「大丈夫、パンを家で焼くようになったけど、パンを焼かない日でもパンの耳は定期的にパン屋で買ってきてやるから」
「ありがとーおにーさん、だいすきー」
「はいはい。今日の所はクリームとかジャムで食ってろ。今日のおやつのメニューはクレアに聞くように」
「わかったー」
ぽててーと小走りでデザートの具材コーナーに戻るミリィ。
あいつ食い物のことでしか絡んでこないのはどういうことなんだ。
普段はミコトにべったりだし、おにーさんちょっと寂しいかも。
「お兄ちゃん大人気だね!」
「お前は目を治癒しろ、明らかに食い物を提供する俺にしか興味が無いだろミリィは」
「そんな事無いよ? ミリィの好きな人はお兄ちゃんだし」
「ラスクより下だぞそれ。俺とラスクどっちが好き? で一度聞いてみろ。絶対ラスクが勝つから」
「そうかなー?」
「そうなんだよ。人の名前を覚えるのが得意なミコトですら、たまに『みりねー』じゃなくて『らすくねー』って呼んでるんだぞ。なんでラスクって呼ばせようと刷り込んでるんだあいつは。意味わからん」
「愛されてるね!」
「ラスクがな」
ポテサラクレープを齧りながら野菜スープを食べる。
ヘルシーだな。いや、具はポテサラだしマヨ多めだからそんな事無いのか。二個目だしなこれ。
むむむとカロリーについて考えていると、エリナがちょうど食べ終わったようだ。
「お兄ちゃん、午後は狩りに行ける?」
「おう、大丈夫だぞ。時間が短いけど、一匹は狩りたいな」
「うん! じゃあ早く食べちゃおう!」
早く早く!とエリナに急かされて、狩りに行く準備をする。
出掛ける寸前に、一号に懇願されて今日の晩飯のメニューがドリアになった。
前の世界のファミレスで必ず頼んでたから、俺にとっても思い出のメニューだ。
せいぜい美味く作ってやろう。
「さ、行くか。ここからはエリナ時間だな」
家の扉を開けると、いつものようにエリナが腕にしがみついてくる。
「うん! お兄ちゃん!」
エリナに引っ張られながら狩りに向かうのだった。
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