第二十六話 サイドカーを取り付けよう


 昼食のあと、マリアとエカテリーナが交代でミコトとエマをセグAに乗せて遊んでくれている。

 ここには何も遊ぶものが無いから助かるな。

 エリナとクレアはそれを見守っているが、妙に目がキラキラしてるからそのうち乗せて欲しいと言い出しそうな勢いだ。

 そして俺とクリス、アイリーンは、魔導駆動二輪車にサイドカーを取り付けて試運転をしたいと言い出した爺さんに付き合っている。



「見よトーマ! 魔導駆動二輪車にサイドカーを取り付ければ戦斗バイク甲型に早変わりじゃ!」


「相変わらずネーミングセンスが危険だけど、かっこいいなこれ」


「魔石を使用した魔導高角砲を載せたタイプは乙型じゃぞ」



 アイリーンが持ってきたサイドカー二台のうち、取り付けなかった方を指さしながら爺さんが言う。



「魔導高角砲搭載型の乙型は、一発撃つたびに大量の魔石を消費しますからね。スペースが限られる魔導駆動二輪では運用が限定的になります」


「アイリーン、これをどこで運用するつもりなんだ?」


「魔力充填を行える術者であれば一定以上の効果を上げることができましたので、乙型も少数ながら量産を検討したいと思います」


「俺の話を聞いてるかアイリーン?」


「一式十二・七粍固定機関砲を搭載した甲型は、実包弾の量産化が進んでおり、量産効果で運用コストもある程度低減できるかと思います」


「固定機関砲って……なあなあ、過剰防衛じゃないの?」


「試作した高速機動魔導駆動車砲(仮称)もそれなりの試験結果が出たのですが、魔導エンジンの出力がまだ低いので速度が予定より出ていないんです。ですので高速機動魔導駆動車砲(仮称)の魔導エンジンをそのまま更に軽量な魔導駆動二輪車に搭載したところ、かなり優秀な試験結果が出ました」


「そうじゃのう、魔導エンジンのサイズはそのままで、省燃費化と出力向上をしようと研究中なのじゃがなかなか難しくてのう」


「ええ、ですので偵察部隊や機動戦闘部隊として戦斗バイクを用いて、高速機動魔導駆動車砲(仮称)には矢玉や初級魔法程度なら耐えられる程度の装甲を施して装甲機動魔導駆動車砲(仮称)として運用したいと思います。戦斗バイクはサイドカーを取り外せば機動力に特化した偵察車両として最適ですし、状況に合わせて柔軟な運用が可能ですので」


「過剰武装過ぎだと思うが、うちの予算の中から軍事費ってそんなに出してたっけ?」


「技術開発部門と魔導士協会の技術協力の産物ですからね」


「民生用の技術を軍事用に転用してるのかよ」


「たまたまですね」


「そうじゃな。実際色んな魔導具も試作していくつかは市場に出回っておるしの」



 絶対偶然じゃないなと思いながらエリナたちの方を見ると、クレアがエカテリーナとセグAに乗って空中を旋回している最中だった。

 楽しそうだな―。俺もこんな殺伐とした話じゃなくて遊びたかったな―。



「回転翼機の研究も始めていたのですが、セグAの実用化の方を最優先しようかと思います」


「勝手にセグAの技術を盗んだり量産したら駄目だろ。とりあえずそれはエルフ国とアイリーンの責任で交渉しろ。まずは俺たちで挨拶に行ってくるから」


「かしこまりました」


「今日はなんか色々疲れたしもう解散にするか」


「ではエカテリーナ殿と少し打ち合わせをしてきますね」



 そういうとアイリーンはちょうどクレアと一緒に地上に降りてきていたエカテリーナと打ち合わせを始める。



「戦斗バイクだっけ? どうするこれ」


「ばらす前にトーマが乗ってみるかの?」


「二輪車の免許は持ってないんだよな。普通自動車なら持ってるから原付免許は付帯してるんだが」


「一緒じゃろ? 魔導駆動二輪車に排気量なんかないからの」


「そういわれりゃそうなんだがなあ。電動自転車みたいなもんかね? 魔導エンジンがそれなりの大きさだから二百五十CCのバイクくらいのサイズ感なんだが」


「魔導エンジンがもっと小型化したら自転車に魔導エンジンを載せるんじゃがの」


「やめろやめろ」



 サイドカー付きの魔導自動二輪者、いや戦斗バイク甲型だっけ、早速とばかりに跨ってみるが、ブレーキって足の方にもあるのか。

 爺さんから操作方法を簡単に教わり、ゆっくりと走らせてみる。

 サイドカーがついてるから転ばないだろうと思っていたが、これ旋回するの大変だな。

 原付は教習所で少し乗ったことがあるが、サイドカーがついているだけですごく難しい。



「どうじゃった? 明らかにヘタレてた運転じゃったが」



 軽く一回りして戻った俺に爺さんが罵倒してくる。



「サイドカーなんか初めてだからな、バンクが出来なくて旋回が滅茶苦茶難しいぞこれ」


「魔力の消費を抑えるために、姿勢制御とかの機能は一切無しでタイヤを駆動させるだけに特化しておるからな。多少の訓練は必要じゃろうなあ」


「ちょっとサイドカー外してくれ。単体で乗ってみたい」


「相変わらずめんどくさいの」


「うるせー」



 魔導駆動二輪車とサイドカーの接続部分を爺さんが外すと、俺は再び魔導駆動二輪車を走らせる。

 うん、これは乗りやすいな。全然スピード出してないけど。

 爺さんが言っていたように無駄な機能が搭載されてないからか、素直で扱いやすい。

 これなら魔導駆動車のバギータイプより安くなりそうだし少しは売れるかもな。

 というかクリスやアイリーン的には魔導駆動車を市場で売れなくても軍事的に有効なら問題ないとか思ってそうで怖い。



「今度はヘタレてなかったのう」


「うるさいぞ爺さん。でもこの魔導駆動二輪車は売れるかもしれないな」


「魔導エンジン以外は民間で作れるしの」


「そうだよ、そういう民間も潤うようなモノを作れよ」


「儂が楽しくないんじゃが」


「儲かってから色々作れや」



 ロマンを追求しまくる爺さんに一言釘を刺し、魔導駆動二輪車とサイドカーをアイリーンの乗ってきた荷馬車に載せる。

 さあ、さっさと片付けて晩飯の買い物に行くか。

 エカテリーナが好きそうな料理を作らないと。



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