第二十五話 エルフ国への贈り物
「やっぱエルフ国に行かないとまずいかな?」
マリアが闇金から金を借りて踏み倒した挙句、エルフ国の国王から研究資金をふんだくっていたという事実は横に置いておくとしても、エルフ国の人間をうちで採用してしまったし、魔素研究を共同でやるって形にしないとまずいだろうしな。
「ですわね旦那様。本来なら領主代行のアイリーンか外交担当官を使者に立てる予定だったのですが……」
「俺が行くしかないか」
「マリア殿にもし処分が下されるようなことになった場合、旦那様の選んだ行動によっては関係が悪化するかもしれませんしね」
「ですね、流石に領主代行とはいえ私にそこまでの権限は」
「マリアを引き渡せと言われてマリアが嫌がったらそうなるかもなあ」
「旦那様はそういうお方ですから」
「ならアイリーンは残してクリスとシルヴィアを連れて行くかな」
「トーマ! 儂も連れていけ!」
「技術的な話題なんてほとんど出ないだろうし、上手く話が進んで技術交流とかってことになったら爺さんにも参加してもらうから。だから今回は大人しくファルケンブルクの町を守ってくれ」
「むむう。わかったぞい」
ファルケンブルクでツートップの魔術師を二人とも連れて行けるわけないしな。
「お兄ちゃん私も行く!」
「兄さま私も!」
「ふたりはミコトとエマと一緒にお留守番だ。次にエルフ国に観光にでも行くときは連れてってやるから」
「むー! でもわかった!」
「わかりました兄さま」
「じゃああとの手筈はアイリーンに任せて、少し早いが昼飯にするか」
「「「はーい!」」」
ご飯だ! とばかりにミコトとエマが声を上げる。ついでにエリナも。
クレアがさっとマジックボックスからキャンピングシートを取り出すと、ミコトとエマも広げるのを手伝う。
「エカテリーナも一緒に食うか? 食後にでもアイリーンとエルフ国の訪問の件について相談に乗ってやって欲しい」
「わかりました。ではご相伴にあずからせていただきますね」
クレアたちが広げたキャンピングシートの上に全員が座り、それぞれにクレアの作った弁当が配られる。
急遽参加したアイリーンやエカテリーナの分が増えても、数食分はきっちり用意してあるクレアは流石だな。
まあいざとなればマジックボックスの中にはパンやサンドイッチ、常備菜なんかが入っているので問題は無いんだがな。
今日の弁当はおにぎりに唐揚げ、玉子焼き、ウインナー、サラダなどのオーソドックスなものだ。
そういや米食の文化が無いって昨晩はマリアに聞いていたけど、エカテリーナもそうだよな?
「最近この辺りで流通しだした米なんだがエカテリーナは問題ないか? マリアは普通に食ってたけど」
「以前に何度か食べたことはありますが……」
「美味しかったからエカテリーナも平気ですよセンセ!」
この辺りで過去に流通していたのは品種改良があまり進んでない米だったしな。
昨日の晩飯はすき焼きに白米を普通に出したけど、「お米食べるの久々です! 前に食べた時は美味しくなかったですけど!」とか言ってたくせにおかわりしまくってたから平気かな?
借りた金でギャンブルする位だ、まだ少し割高でコストパフォーマンスの悪い米より安く流通してるパン食メインだったらしく、「今の米がここまで美味しいとは思いませんでした!」とか言ってたし。
コシヒカリ種はこっちでも受けたしエルフ族の口に合えばいいんだが。
ちなみに早生の『太陽のこまち』も一部飲食店や高所得者に美味しいけど生産量が少ないプレミア米という扱いで好評なので生産は続けているし、多収穫米の『イージーコメイージーゴー』改め『ファルケンブルク多収穫米』も、食品加工業者や大衆食堂のような飲食店に安い割に美味しいと好評なのでこちらも生産を続けている。
「なら少し食べてみて駄目だったら言ってくれ。マジックボックスの中にはパンとかの主食も常備菜も入ってるから」
「わかりました……」
「じゃあ食べよう」
「「「いただきまーす!」」」
挨拶が終わると同時にマリアがおにぎりにかぶりつく。
「んー! 昨日の温かい白米も美味しかったけど冷めててもめっちゃウマ!」
「本当? 姉さん」
「エカテリーナも食べてみいて。めっちゃウマいで!」
「そう? なら……。ん! 本当に美味しい!」
「口に合ってよかったよ。うちの特産品だし」
「姉さん、これ父さんに言って輸入しようよ!」
「せやな! これならエルフ国で大儲けできるで!」
「パンにお肉を挟むくらいしかしないからね、うちの国の人たちは」
「パンを食べずに肉だけいう人もおるしな。でもこの米なら肉とも合いそうや」
エルフ国って食文化が貧しいのか? エルフ国に贈る品とかは食料品の方が良いんだろうか?
ちらりとアイリーンを見るとこくりと頷いている。
アイリーンも理解したようだ。
晩飯にもエカテリーナを招待して色々聞いてみるか。
「ブラックバッファローの異常発生でもあれば贈り物には困らないんだがなー」
「レア種ですからね。探せばどこかの市場に流れているかもしれませんが……」
「一応探しておこう。肉好きなのは間違いないみたいだし」
「このフライドチキンみたいなのも美味しい!」
「それは『からあげ』言うんやで、昨日の晩に米と一緒に食べさせてもろてん」
「国の人たちはお肉を塩コショウで焼くくらいしかしないからね」
「せやろ? 長い時間を生きてる癖して碌に調理法を取り入れたりしないからずっと同じ料理しかないんよね。シンプルな料理法で美味しいのは間違いないんだけどそればかりだと流石に飽きるわー」
「そうね姉さん。これは商売になると思うわよ」
「父さんと母さんに良い土産話が出来たわー」
「お手柄よ姉さん」
「なあ、商売って……」
「陛下、私たちの両親はファルケンブルクでほぼ唯一の交易をしている商会を経営しているんです」
「陛下はやめろっての。そうか、それは都合がいいかもな」
「王家にも顔が利くので仲介をさせましょうか?」
「それは助かる。貨幣価値とか物価の相談なんかもできるしな」
「お任せください!」
一瞬にやりと笑みを浮かべたエカテリーナに少し不安を覚えるが、美味い話を実家に独占させようとか考えてるのだろうか。
米を売って大儲けとか言ってたしな。
なんとなくこの姉妹の性格がわかってきた。
だがうちのアイリーンを相手にどれだけ利益を引っ張れると思っているのだろうか。こいつは鬼だぞ。爺さんが泣くくらいにな。
そう思ってアイリーンを見ると、こちらも同じくにやりと怪しい笑みを一瞬浮かべていた。
もし正式に友好関係を結べたら、別の席でアイリーンに交易の話をさせよう。どうせ初回の会合ではそこまでの話はできないだろうしな。
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